アメリカの確定申告(タックスリターン)の基礎知識、日本との違い

アメリカ 確定申告

アメリカでは、確定申告の期限は4月15日です。毎年、2月に入るくらいからネットやタウン誌で、確定申告を請負う税理士や公認会計士の広告が目に付くようになります。

アメリカの確定申告は、日本とどこが違うのか、その概要について分かり易く説明します。

1.アメリカの確定申告は全国民が行う一大イベントです!

日本では、「家を買った」、「医療費が多く掛かった」など特別なことがあった時以外には、普通の会社員や公務員などは、確定申告は必要ありません。日本では、原則としてすべての企業等で従業員について「年末調整」の手続きをすることが義務付けられているからです。

一方、アメリカでは、全国民(アメリカに年の半分以上滞在する外国人も含む)が確定申告をする必要があります。
その確定申告の期限は、毎年4月15日です。準備が良い人は早めにやる人も中にはいますが、大抵の人は3月に入ってから、「そろそろ確定申告をしないと…」と思い腰を上げる人が大半です。

その頃になると、ネットやタウン誌などでは、確定申告を請負う税理士や公認会計士事務所の広告が目に付くようになります。
日本では、個人の確定申告をする場合、税理士に頼む人はそれほど多くないと思いますが、アメリカでは、日本のe-Taxのような仕組みはありますが、確定申告は税理士や公認会計士に依頼をする人が多いです。

(1)確定申告をTax Returnと呼ぶ理由

アメリカでは、確定申告は「Tax Return」と呼ばれています。個人事業主で、年に4回ある予定納税を行っていない場合などを除くと、大半の人は、税金が還付されるからです。
しかしながら、アメリカの確定申告は、日本以上に複雑です。

その理由は、アメリカでは、国として税体系や税率が統一されていないからです。税金は、連邦税、収税、郡及び市税の3種類に分かれています。連邦税だけは全国同一ですが、州税、郡及び市税は、全く異なります。そのため、違う州に引っ越しをすると、今までの確定申告の方法を使うと、税務上不利になったりすることが普通にあり得るのです。

利用できる税務メリットは、多種多様に渡ります。そして、それは州によって、場合によっては郡や市によって異なり、その上、経済政策が講じられると、年毎に変わります。
そこで、「税金を、合法的にいかに多く還付を受けられるようにするか」について、真剣に検討することが必要になるのです。

(2)アメリカにも税理士はいます

日本のネット情報を見ると、「アメリカには税理士はいなくて、公認会計士が税理士としての業務を行うことが出来る」と説明をしているものを散見しますが、この情報は誤解を生じさせる説明です。

正確に説明をすると、州が実施する資格試験(アメリカでは弁護士も公認会計士もその資格試験は州が権限を持っています)としての税理士は存在しないけれども、IRS(Internal Revenue Service、アメリカ合衆国内国歳入庁)が実施する試験に合格をして、当局から登録番号を取得すると、税理士として税務業務を行うことが出来ます。

全国民が確定申告をする必要があるわけですから、そのニーズは充分あり、税理士として事務所を構えている資格者も沢山います。

(3)アメリカの確定申告の方法

アメリカでも、日本のe-Taxのように自分でネットを通じて申告をすることも出来ます。
その他、必要な提出書類を入手して自分で確定申告書を記入する、企業が比較的安価で提供しているTax Returnのソフトを使う、税理士に頼む、という方法があります。この辺りは、日本と同じです。

しかしながら、アメリカでは、個人でも税理士に頼む人がかなり多いです。それは、税理士が日本と比較して身近であり、確定申告に掛かる費用も意外と安いからです。また、税理士に頼むことで、還付(Return)出来るものを、確実に網羅出来れば、支払う費用よりも還付金(Return)が多いケースが大半だからです。

2.アメリカの確定申告の特徴

アメリカでは、原則すべての恒常的な収入について総合課税となっています。

日本の配当収入のように、分離課税か総合課税をどちらかを選択できるような収入は、通常の確定申告の場合基本的にありません。ですから、アメリカの確定申告は、「W-2」 と呼ばれている源泉徴収票を始めとするたくさんの書類(最近はネットからダウンロードするものが増えています)を用意するところから始めます。そして、その書類の種類と数は、税体系が複雑で州によって異なることから、日本よりかなり多いです。

興味がある方は、こちらのサイトで見ることが出来ますので、ご参考までにIRSのサイトを載せておきます。

【参照】Forms & Instructions | Internal Revenue Service
https://www.irs.gov/forms-instructions

(1)確定申告のオプション

アメリカでは、確定申告は、独身用、夫婦合算用、夫婦別々用の3つに分かれています。2021年の連邦税の税率は、10%、12%、22%、24%、32%、35%、37%というような累進課税となっています。独身用、夫婦合算用、夫婦別々用で何が違うかというと、所得が同じでも該当する税率が違ってくるところです。

そして、これは政府の方針によって変わることがありますが、最高税率を課せられる所得額は、夫婦合算用>独身用>夫婦別々用となっており、夫婦で合算することで、最高税率を課せられる所得は上がります。

一見、「あっ、そうなんだ…」と読み流してしまう内容かもしれませんが、アメリカの場合、この3つのオプションがあることはかなり厄介なのです。

何が厄介かというと、アメリカでは、離婚が非常に多いからです。そして、離婚に際して、離婚調停が長引いて、親権者がどちらになるのか宙に浮くことも頻繁にあります。アメリカでは一定の条件を満たした養育費は、税額控除にすることが出来ます。

ですから、離婚調停がこじれて長引いている場合、「夫婦は顔も合わせたくない!!」という状況でも、税額的に有利であれば夫婦合算用を使って確定申告をすることを、税理士から勧められます。そのような拗れたケースの場合は、税務申告をする税理士と、離婚調停の代理人を務めている弁護士が連携をしないと完成しない確定申告もあると聞いています。

(2)源泉徴収税について

源泉徴収制度は日本とほぼ同じように運用されています。
ただし、アメリカでは一見会社員のように企業で働いていても、実は個人事業主の人がかなり多いのです(概ね30%と言われています)。場合によっては、企業が源泉徴収をしない、出来ない、されない個人事業主の職種や、その働き方があります。

典型的な例は、かなり多数の企業で掛け持ちして働いている場合などです。また、ピアノの先生なども源泉徴収対象となっていません。そのような職種の人は、年に4回予定納税をすることで、確定申告の時に税金が支払えないという状況を回避するように、自己防衛をする必要があります。

(3)アメリカならではのユニークなポイント

日本でいうところの社会保険料などが所得計算に際して収入から差し引かれるのは、日本と概ね同じですが、アメリカならではのユニークな制度が散見されます。

①個人事業主の接待交際費(会食)は領収書金額の半額だけ

これは、相手にごちそうした分は経費にできますが、自分が食べた分は「ごはんを食べただけでしょ!!」というロジックに基づくものです。

②子供の大学の学費は税額控除

これは州によって政策的に金額が違ってくることもあり、また、親が持ち家か借家かによっても違って来ることがあるという、条件によって金額が違ってくる、神経を配る必要がある税額控除になっています。また、通常の学費以外に、親の収入が高ければ、任意に大学に寄付をすることもアメリカでは一般的ですが、その場合には寄付控除を使うことも出来ます。

③チップも収入として課税対象

レストランなどでウエイターが貰うチップは、貰った人が個人の懐に入れられるのでは?と思っている人が多いかもしれませんが、チップは、基本的にその営業時間に働いていた従業員で一定のルールに従って分配されます。そして、それも収入として計上して確定申告の際に収入となります。

きちんとしたレストランなどではチップの分もきちんと源泉されます。レストランのウエイトレスなどは、月給ではなく、週単位で給料を貰っている人が多いので、源泉徴収票がたくさんあって、無くしてしまって年間の合計収入額が分からなくなってしまうという人も少なくないようです。

3.まとめ

日本は年末調整制度があることで、国民が、税金を負担している意識が弱いと言われています。

それに対して、アメリカに限りませんが、特にアメリカでは、確定申告をきちんとやることで合法的に税金を取り戻せるので、どんな職業の人でも納税意識が高いと言われています。
そして、ここでも、情報の格差が毎年社会問題として取り上げられています。

日雇いなどで働いていて源泉徴収されている人が、確定申告をしなければならないのにそれを知らなくて、税務当局から不当に高いペナルティを課せられることなどが毎年ニュースなどで取り上げられます。特に不法移民に関しては、社会弱者であることから問題になり易いです。

日本の常識は世界の常識ではないということは、アメリカの確定申告制度を見ただけでも分かります。興味があれば、海外の確定申告制度を調べてみるのも、納税に対する見識を深めるためにも有用だと思いますので、お勧めします。

4.【参考】新型コロナに関する経済支援について

2020年初頭から新型コロナウイルス感染症が流行し始めました。当時のトランプ政権は、アメリカでの新型肺炎の深刻な拡大を阻止するために、非常事態宣言を打ち出しました。連邦政府として、1兆ドル(日本円換算で100兆円超)の大規模な経済対策を計画し、議会側と調整を続けました。

結局、2020年4月に大人1人につき最大1,200ドル、2021年1月に最大600ドル、2021年3月に最大1,400ドルの現金給付を行いました。

このような大胆な現金給付を迅速に行えるのも、アメリカでは全国民が確定申告を行っていて、給付を行うための銀行口座又は小切手の送付先を把握しているからです。
なお、アメリカには住民票というものが存在しません。アメリカで正規に就労できる資格を持つ人が持てるSSN(Social Security Number)がなくても、IRSが発行するIndividual Taxpayer Identification Numberを取得することで、確定申告をすることが可能になります。これにより、不法移民も(その是非はともかく)確定申告を行うことが出来るのです。

また、アメリカでは貧困層の人は、コストが掛かる銀行口座を持っていない人が相当数いますが、税金の還付金は、小切手でも受け取ることが出来ます。
このような仕組みを前提として、現金給付の迅速な支給が可能になっていることは、日本と決定的に違うこととして、ここに特筆させて頂きます。

執筆
荒井 薫(あらい かおる)
労働省→公認会計士→コンサルタント→事業会社CFO&国際ブランド付きプリペイドカード事業の立ち上げをやりました。子供の頃から物書きになりたかったため、書く感性を磨きながら、皆さんに様々な情報をお伝えしていければと思っています。
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