新型コロナウイルス対策で消費税減税はありうるのか?

税金

新型コロナウイルス感染症の経済的影響が大きくなってきており、政府は、リーマン・ショック時の金額を超える60兆円の経済対策を行うと発表しています。

3月14日の記者会見にて、安倍首相は「様々な可能性を想定しながら経済財政政策を講じていく」と述べています。

自民党の一部の議員からは消費税減税に関する議論も出てきているようですが、政府の公式見解としては、消費税減税については、特に触れられていません。

今後、新型コロナウイルス対策として、消費税減税はありうるのか?について考察してみます。

1.消費税増税の歴史、減税は過去一度もない

まず、消費税のこれまでの増税の歴史について振り返ってみます。

施行年月日 税率 当時の首相
1989年4月1日 3% 竹下登
1997年4月1日 5% 橋本龍太郎
2014年4月1日 8% 安倍晋三
2019年10月1日 8%/10% 安倍晋三

こちらの表にあるように、消費税は1989年4月1日に初めて導入されました。その後、三回にわたって増税されてきました。減税されたことは過去一度もありません。

10%増税時には軽減税率も導入され、食品と新聞のみ税率8%となっています。

消費税10%増税は4年延期された

最後の8%→10%増税は、もともと2015年10月1日に行われる予定でしたが、まず、2017年4月1日に延期され、さらに、2019年10月1日に延期されました。合計4年間、延期されたことになります。

2014年4月1日の8%増税後、国民の消費が思うように伸びなかったことが理由です。

二度の延期を経てようやく増税したばかりですので、ここで、また消費税を減税するのは、政府にとって大変なことかもしれません。

政府からは消費税減税案の発表はなし

株価が連日のように暴落する中で、株式市場から消費税引き下げの要望が出てきています。また、諸外国が大胆な支援策を打ち出す中で、日本政府が具体的に何をいつ行うのかも問われてきています。

現在のところ、政府からは、消費税減税案の発表はありません。財務省も強く否定しています。ただ、安倍晋三首相は、3月16日の参院予算委員会で、消費税引き下げも検討対象から排除しない考えを示しています。

3月18日、 麻生太郎財務相は、参院財政金融委員会で、消費税をすぐに0%にする発想はないと答弁しました。一度、消費税を引き下げた場合、再度引き上げが遅れると日本の財政が持たなくなるというのが理由です。

消費税減税はないとしても、何らかの支援策が早急に求められるところです。

2.減税するとしたら何%に?

政府から何らかの減税策が発表されているわけではありませんので、ここではあくまでも想定で、減税するとしたら何%になるのが良いかを考えてみます。

8%案

まず、思いつくのが、2019年10月増税前の8%です。8%の時代は5年半続きましたので、消費者が馴染んでいる税率でしょう。

現在の軽減税率8%と同じ税率になりますので、テイクアウトは8%/イートインは10%とか、食品は8%/お酒は10%といった税率の区別がなくなり、わかりやすくなります。

また、お店でも軽減税率8%の商品は、値札を変更することなくそのまま利用できます。

ただ、正確にいうと、増税前の8%と軽減税率8%は全く同じではありません。

消費者は考える必要がなく、事業者だけに影響する話ですが、消費税は、国税の「消費税」と「地方消費税」に分かれており、それぞれの税率を足して8%または10%となっています。

従来の消費税8%の内訳は、消費税(国税):6.3%、地方消費税:1.7%でしたが、
軽減税率8%の内訳は、消費税(国税):6.24%、地方消費税:1.76%となります。

  2019年9月30日まで 2019年10月1日から
軽減税率 標準税率
合計 8% 8% 10%
消費税(国税) 6.3% 6.24% 7.8%
地方消費税 1.7% 1.76% 2.2%

消費税の申告をする際には、国税の「消費税」と「地方消費税」を区別する必要がありますので、合計は8%でも、中身が異なる2つの税率が混在することになります。

軽減税率8%もいったん廃止し、すべて従来の8%に戻せば、この問題は解決します。

5%案

国民民主党の玉木雄一郎代表は記者会見で、5%への減税案を検討すべきだとしています。

また、3月30日、自民党の若手議員らが、6月に消費税5%への減税を求める声明を出しました。

5%は10%のちょうど半分であり、消費者に大幅な減税と認識される可能性が高まるでしょう。

ただ、現在のお店の値札や、会計システム等は、8%または10%の税率を前提としていますので、値札の変更やシステム改修が必要になる可能性があります。これらは、事業者の大きな負担になるでしょう。

0%案

思い切って、消費税を臨時的に廃止して0%にすれば良いという意見もあります。

自民党の若手有志は3月11日、西村康稔経済再生担当相と面会し「消費税は当分の間軽減税率を0%とし、全品目に適用する」よう提案しました。つまり、すべての品目を軽減税率0%にすることで、実質、消費税を0%にするということです。

消費者にとって、消費税がなくなるのは大変有り難いことですし、お店側も、消費税の箇所を0円とすれば良いので、中途半端な税率になるよりは、負担が軽いかもしれません。

ただ、年間で約20兆円近い税収がなくなりますので、代わりの財源をどうするかが大きな課題でしょう。

3.減税も大変?

消費者にとって消費税減税は嬉しいことですが、消費税は日本国の三大税収の一つとなっているほか、企業のシステムとも密接に絡んでいますので、減税するにも大変なことになる可能性があります。

代わりの財源はどうする?

税収推移

【引用元】財務省:一般会計税収の推移

日本の三大税収は、所得税・消費税・法人税です。
財務省の税収推移のグラフを見ますと、2019年予算として、消費税は19.4兆円となっており、所得税(19.9兆円)に次いで大きな金額です。消費税の税収の一部は、増加し続ける社会保障費や、教育・子育て、借金の返済などのために使われています。

政府は財源が足りないために消費税を増税したのですから、消費税を減税することになれば、代わりとなる財源が必要になるでしょう。消費税1%当たり、約2兆円以上の税収となりますので、これに代わる財源を探すことは大変なことかもしれません。

またシステム改修やメニュー変更が必要になるかも

消費税は、店舗のレジや、企業の会計システムなどと密接に結びついています。また、税込の総額表示が原則であるため、飲食店などでは、税込の価格でメニューを作成しているお店も多いです。

過去、増税する際には、増税は1年以上前から周知されていましたので、お店や企業は時間をかけて、レジシステムを改修したり、自社内の会計システムを更新したりして対応しました。

特に、2019年10月1日の増税では、軽減税率制度が始まったこともあり、8%/10%の2つの税率に対応したレジの導入が行われました。

もし、消費税を減税することになれば、またシステム改修が必要になる可能性があります(税率を自由に設定できる仕組みのシステムであれば、設定変更だけで作業が終わるかもしれませんが)。

また、飲食店などの店舗では、税込表示のメニューを変更する必要が出てきます。

仮に、消費税減税が政府から発表されたとして、1ヶ月後に減税となったら、それまでに、これらの作業を行うのは、かなり酷なことでしょう。

会計や申告も大変

企業や個人事業主などの事業者は、日常的に会計帳簿をつけるときや消費税の申告をするとき、税率をきちんと分けて行う必要があります。

たとえば、ある期間まで10%、あるときから8%となると、同じような品目に対して期間ごとに複数の税率が存在することになりますので、経理担当者や税理士の負担が増すでしょう。

日本では3月決算の企業が多いため、4月1日から減税をすれば、影響が出る企業の数をなるべく少なくできそうですが、わずか2週間程度で決定して周知するのは難しそうです。

減税したらいつ元に戻すか?

仮に消費税を減税したとしても、日本の財政の状況を考えると、他の収入が検討されない限り、どこかで元の税率(10%)に戻す必要があるでしょう。

消費税10%増税時には、2回も延期し、当初スケジュールより4年延びました。今後、世界的に景気後退のフェーズに入るとすると、不景気時に増税は国民感情的に難しいですので、速くても数年後になる可能性があります。

政府としては、その間に財政赤字が拡大していくことを避けたいはずです。よって、消費税減税の決断はかなり覚悟のいるものとなるかもしれません。

4.減税に代わる支援策

以上、個人的な見解ではありますが、消費税減税は事実上、難しいのではないかと予測しております。

そこで、いくつかの代替案を考えてみます。

国民全員に現金給付

3月18日、政府が国民全員に1人当たり12,000円以上の現金給付を検討していると発表されました。リーマン・ショック時に行われた現金給付が12,000円でしたので、今回はそれを上回る支給をする予定のようです。

ちなみに、3月19日。アメリカでは、大人1人当たり1,200ドル(約13万2千円)、子供1人当たり500ドル(約5万5千円)を4月に支給すると発表しました。

香港では、永住権を持つ住民に一律約14万円を支給すると発表しています。

ただ、これはお金のばらまきであり、ただばらまいても貯蓄に回るだけで経済効果がないという意見もあります。

全員が対象の商品券の配布やポイント付与

2019年10月1日~2020年3月31日までの半年間、小さい子供がいる世帯限定で、最大5000円お得になる「プレミアム付商品券」が配布されました。

この制度は、0~3歳半の子供がいる世帯か住民税非課税世帯だけが対象ですので、大きな消費効果は期待できません。

そこで、対象を全員にし、金額も増やして、全国民に商品券を配布する、またはポイントを付与するという方法もありえます。
商品券やポイントであれば、貯蓄はできませんので、確実に消費に回ることが期待できます。

ただし、申請方法が複雑すぎると、全員に行き渡らないという問題があります。

キャッシュレス消費者還元事業の延長

2019年10月1日~2020年6月30日までの9ヶ月間、加盟店でキャッシュレス決済をすると、最大5%還元されるという事業を、政府が行いました。

政府の当初の想定よりも利用されている金額が多く、消費の促進のため一定の効果はあったようですが、残念ながら、2020年6月30日で終了しています。

この期間を延長して、コロナウイルスが終息し消費が元に戻るまで続けるという方法もありました。すでに実施された仕組みですので、期間を延長するだけで済みます。

ただ、デメリットとしては、キャッシュレス決済でない場合は還元されないということです。お店がこの制度に登録していなかったり、自分が使っているキャッシュレスがそのお店で対象になっていないとポイント還元されません。

幅広く支援するというには、あまり向かなさそうです。

所得税・住民税の減税・猶予、社会保険料の軽減

今回の新型コロナウイルスで最も影響を受けているのは、イベント中止や外出自粛等で収入が減っている現役世代ですので、その人たちが毎月払っている税金(所得税・住民税)や社会保険料を軽減するという方法があります。

会社員・公務員であれば、勤務先で、毎月、給与から「源泉徴収」という形で所得税を差し引かれ、「特別徴収」という形で住民税を差し引かれています。また、社会保険料も差し引かれて、給与が支給されています。

たとえば、独身で月収30万円位の人だと、毎月差し引かれる税金と社会保険料の合計額は6万円以上にもなりますので、このいくらかを軽減したり、または猶予して後回しにするだけでも、支援となりえます。

自営業の方は、所得税は翌年に確定申告をして納税、住民税は年4回に分けて納税しますが、これらを減税したり納税猶予するという方法もあります。また、国民健康保険料や国民年金保険料も同じく軽減・支払い猶予できます。

もともと、きちんと税金や社会保険料を払っている人たちの負担を減らしますので、公平感が保てると思われます。

まとめ

新型コロナウイルスは日本国内で深刻な影響を及ぼしており、政府による迅速な支援の対応が待たれています。

消費税減税という選択肢もありえますが、いろいろな問題から難しい可能性もあります。

税金・社会保険料の軽減や、ポイント付与など、他の方法もありえますので、何らかの対応策を期待したいところです。

監修
ZEIMO編集部(ぜいも へんしゅうぶ)
税金・ライフマネーの総合記事サイト・ZEIMOの編集部。起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)を中心メンバーとして、税金とライフマネーに関する記事を今までに1300以上作成(2024年時点)。
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