わかりやすいデジタルバンクの基礎知識と歴史|デジタルバンクの定義

執筆
荒井薫
労働省→公認会計士→コンサルタント→事業会社CFO&国際ブランド付きプリペイドカード事業の立ち上げをやりました。子供の頃から物書きになりたかったため、書く感性を磨きながら、皆さんに様々な情報をお伝えしていければと思っています。
デジタルバンク

最近、日本でも「デジタルバンク」という言葉を聞くようになりました。

デジタルバンクの発祥の地はイギリスです。その多くは、日本でFintechブームとなる2015年頃より以前に設立されています。
そして、いくつかのデジタルバンクは、既にベンチャーの域を超えて、銀行としてのサービスがフルラインナップとなっているものもあります。欧州ではミレニアム世代を中心に、デジタルバンクは生活に定着していると言えるでしょう。

今回は、日本では、まだ馴染みがない「デジタルバンク」について、分かり易く解説したいと思います。

1.デジタルバンクはいつどこで生まれたのか?

イギリスでは、リーマンショック後に、大手銀行6行での市場シェアが8割を超えるに至り、銀行サービスのレベル低下や、中小企業に対する貸し渋りなどの問題が発生しました。
そのため、イギリス政府は、政府の方針として、金融機関に対して健全な競争を促してサービスレベルの低下を是正するために、国を挙げて金融ITサービス産業への支援を行いました。

そして、デジタルバンク以前に、Metro Bankのような新しいスタイルを持った銀行が誕生しています。

1-1.ITベンチャーから生まれたチャレンジャーバンク

その後、Fintechブームの中イギリスで生まれたのが、支店は持たずに、アプリだけですべてのサービスが提供されるデジタルバンクです。

若い創業者と、その創業者を支える金融機関経験者が創業チームとなり、日進月歩するスマホの機能と最先端のITテクノロジーを駆使して、全く新しい形の銀行を作り上げたのです。
ITベンチャーが果敢に挑んだことから、別名チャレンジャーバンクと呼ばれています。

その後、世界的なFintechブームを追い風に、イギリス以外にも欧州を中心に広がっていきました。

1-2.欧州で代表的なデジタルバンクについて

意外かもしれませんが、銀行免許取得の難しさは、欧州よりも米国の方が数段上です。
従って、デジタルバンクは、銀行免許取得が比較的容易な欧州を中心に広まっていきました。

その中で、幾つか代表的なデジタルバンクを見ていきたいと思います。

① Atom Bank(イギリス)

世界で最初のチャレンジャーバンクとして有名なのが、Atom Bankです。
その創業者は、Metro Bankを創業したメンバーの一人であるThomson氏と、元HSBCの幹部であったMullen氏です。

二人は、伝統的な銀行のノウハウと、新しいスタイルの銀行であるMetro Bankのコンセプトを融合させて、より進化した銀行を作ろうとしました。
当時、日進月歩していたスマホの機能を最大限に活用して、既存の銀行では物足りないと感じていたミレニアム世代をターゲットに、2015年に、すべての機能をアプリで行う銀行として初めて銀行免許を取得しました。

Atom Bankでは、世界中でBanking Systemを提供しているアメリカのシステムソリューション会社であるFISが、システム面からのスポンサーとなっています。

参考:Atom Bank

②Monzo Bank

Atom Bank以外にも、イギリスでは多くのITテクノロジーに長けた創業者が、チャレンジャーバンクに挑んでいます。

その中の一つが、Monzo Bankです。2015年にGoCardlessの共同創業者だったBlomfield氏により設立されました。
Monzo Bankは、創業から2年後の2017年に銀行免許を取得しています。銀行口座の作り易さという点では、UIが圧倒的に優れているということで、イギリスにおいて定評があります。
また、同銀行のデビットカードの使い勝手の良さも魅力の一つです。

③N26

欧州では、イギリス以外の多くの国でチャレンジャーバンクが創業されています。
その中でも、アメリカ進出を果たし、日本進出が噂されているドイツ発祥のN26は、日本でもたびたび話題に上っています。

N26は、オーストリア人であるValentin Stalf氏とMaximilian Tayenthal氏が共同で創業をしました。
設立は2013年とチャレンジャーバンクとしては古株になります。

N26の特徴は、ドイツにとどまらず、EU内での次々と事業を拡げて行ったこと、そして、一昨年にアメリカにも進出を果たしたことです。

N26も、アプリですべての取引が行えるチャレンジャーバンクですが、そのUIは洗練されていて使いやすいということで、ミレニアム世代の欧州の人々以外にも、欧州に留学をする外国人学生などにも人気です。

2.既存の銀行におけるデジタル機能の拡充

このように、イギリスで生まれて、その後欧州全体に広がり、今では中南米やアメリカでもデジタルバンクが生まれています。
そのような中で、既存の銀行はどのような対策を取っているのか見ていきたいと思います。

デジタルバンクの存在感と影響力が大きくなるにつれて、Fintechブームの後押しもあり、既存の銀行も、デジタルバンクの比較優位性があるサービスやシステムを自行に導入していくようになりました。
しかしながら、銀行に対する法規制が国によって異なるため、その方向性には幾つかのパターンが見られます。

2-1.デジタルで完結する特定のサービスを取り入れている銀行

シンガポール最大手銀行であるDBS銀行は、従来型の支店を通じての顧客サービスは残しながら、モバイルアプリを主たるサービス提供手段とする新しい顧客層を育成しています。

現在、DBS銀行におけるデジタルサービス部門と従来型サービス部門では、顧客当たりの収益率にかなりの差(概ね2倍程度)が出ていると言われています。
支店や銀行員を必要としないデジタルを通じたサービスは、収益効率が高いことが証明されています。

2-2.既存の銀行がタッグを組んでデジタルサービスを顧客に提供するスキーム

Fintechベンチャーが数多く生まれているアメリカは、全米で展開する銀行免許を取得するハードルが段違いに高いです。
そのため、銀行サービスを始めるのではないかと噂になっているアマゾンやウォルマートでさえも、銀行業への参入には慎重な姿勢を崩していません。

そのようなアメリカでは、Fintechベンチャーのサービスに対抗して、既存の銀行がタッグを組んで、Fintechベンチャーが提供するサービスに対抗する新しいデジタルを活用したサービスが生まれています。

その代表的なものが、2017年に始まった「Zelle」と呼ばれている個人間送金サービスです。
Zelleには、全米30以上の銀行が参加しており、参加している銀行に口座を持つ人が、その銀行のモバイルアプリを使っていれば誰でも使うことが出来ます。

このサービスは無料で、FintechベンチャーであるVenmoよりも送金に掛かる時間が短く、既存の銀行口座を使えることから、あっという間にVenmoに対抗するほどの規模まで成長しています。

参考:Zelle

2-3.ネット銀行とデジタルバンクの違い

現在、日本にはデジタルバンクは存在しませんが、ネット銀行は多数存在します。
ネット銀行はリアルな支店網を作らず、インターネットを介してサービスを展開していることから、ネット銀行はデジタルバンクではないのか?という疑問を持つ方もいると思います。

これに関しては、有識者の方達の間でも意見が分かれるところではありますが、ここでは、日本のネット銀行はデジタルバンクではないという判断を取りたいと思います。
その理由は、海外のデジタルバンクと日本のネット銀行では、バックエンドのシステムが本質的に異なるからです。

日本のネット銀行は、支店を作らずにウェブ上にバーチャルな支店を設けてサービスを提供していますが、そのサービスを補足するためにコールセンター機能を必ず設けています。

SBI銀行のように一部のネット銀行は、最近はモバイルアプリを提供していますが、アプリだけでサービスが完結するものではなく、残高照会やデビットカードの利用履歴照会など一部のサービスだけをアプリで展開していても、多くの金融サービス(送金や定期預金への預入れなど)は、ウェブサイトの銀行口座にアクセスすることを必要とします。
これは、サービスがデジタル化しているとは言えますが、デジタルバンクとは言えないと理解するのが適切だと考えます。

3.そもそも銀行サービスにとって「デジタル」とは何か?

伝統的な銀行業は、支店というリアル店舗を作り、銀行員を介してサービスを行っています。
顧客は、口座を作り預金をする、借入をする、期限通り返済をするというサービスを利用する過程で、必ず支店を訪れて、そこで銀行員を介した手続きを行うことになります。

つまり、すべてのサービスは、支店で銀行員を介して行う手続きを想定しているのが伝統的な銀行です。

それに対して、デジタルバンクは、それらのサービスを人は介さずに、アプリ(デジタル)を介して行います。
アプリを介することで、画一的に個性のあるサービスを提供出来ることが最大の特徴と言えます。

欧州のデジタルバンクが、そのアプリのUIをいかに使いやすくするかに労力を費やしているのは、アプリのUIがそのデジタルバンクの差別化を意味するからです。
端的に言うと「デジタルバンク」のデジタルは、「人(銀行員)を介さない」ということを意味しています。

3-1.デジタルなサービスの利点

その「デジタル」なサービスの利点は、何よりも低コストでサービスを提供できることです。そして、その分、伝統的な銀行と比較して高い金利を預金に付与することが出来ます。

伝統的な銀行を信用していないミレニアム世代は、一等地にある支店や銀行員によるサービスに高い価値を見出していません。
その代わりに、実質的なサービスを求めます。つまり、相対的に高い金利です。

デジタルバンクの預金金利は、伝統的な銀行よりも金利が高いのが特徴の一つです。

3-2.デジタルバンクのデメリット

デジタルバンクは、欧州を中心に人々のライフスタイルの中に定着すると共に、そのユーザーはITリテラシーが高いミレニアム世代以外にも拡がっています。やはり、相対的に高い金利は魅力的という点があるからだと思います。

しかしながら、デジタルバンクは、モバイルアプリを使いこなせないITリテラシーが低い人には敷居が高いのは事実です。
また、伝統的な銀行と比較して、本人確認手続き(KYC)等のコンプライアンスが緩い側面があることは否定できません。

そのため、ユーザーがコンプライアンスに接することをすると即口座停止など、伝統的な銀行と比較をして、時としてドライな対応をされることもあります。

4.まとめ

日本では、部分的にサービスをデジタル化しているネット銀行が出てきています。
そして、イギリスで発祥したデジタルバンクのうち数社は、水面下で日本進出を窺っていると言われていますが、現在のところ実現していません。

しかしながら、日本もキャッシュレス化が進む中で、ITリテラシーが高くデジタルバンクを使いこなせる世代が育っています。日本の決済事業会社の中には、デジタルバンクをその目標モデルとしているところもあります。

日本企業か海外企業かは分かりませんが、デジタルバンクが日本に登場する日も遠くないと思われます。その時は、画一的と言われている日本の銀行のサービスも差別化することを期待したいと思います。

執筆
荒井薫
労働省→公認会計士→コンサルタント→事業会社CFO&国際ブランド付きプリペイドカード事業の立ち上げをやりました。子供の頃から物書きになりたかったため、書く感性を磨きながら、皆さんに様々な情報をお伝えしていければと思っています。

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