源泉徴収と消費税の計算方法を正しく理解しよう
新人の経理担当者にとって源泉徴収と消費税の関係は、複雑に感じるはずです。2つの税金のルールが混在しているうえに、ルー…[続きを読む]
労働環境の変化やITの普及によって、会社に所属せずに働く「フリーランス」という働き方が年々増加しています。内閣府の調査では、全国に300万人超の人がフリーランスとして働いており、就業者全体の5%を占めています。
フリーランス(個人事業主)の人は、会社から給料を貰っているのではなく、取引先の会社から成果物に見合った報酬をもらっています。そのため、会社員のように年末調整によって所得税を支払うのではなく、「確定申告」をする必要があります。そこで必要になる大切な書類が取引先から届く「支払調書」です。
今回は、フリーランスの人の確定申告に必要な「支払調書」についてご紹介します。
給与や報酬を支払った会社などは、その支払内容を記載した「法定調書」の作成が義務付けられています。代表的なものに「給与所得の源泉徴収票」があります。
「支払調書」も、「法定調書」の一種です。
「支払調書」には、1月1日~12月31日までの1年間に会社などが「誰に」「いくら報酬を支払ったか」「その報酬から差し引いた源泉徴収税額はいくらか」が記載されています。フリーランスにとって「支払調書」は、その取引先からの1年間の収入と源泉徴収税額が記載されているため「確定申告の決算書」を作成する上でとても重宝します。
「支払調書」と言えば「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を指すことが一般的ですが、「法定調書」は60種類あり、所得税についてだけでも43種類存在します。その中でもよく利用される「法定調書」は、次の6種類になります。
上記の主な「法定調書」の中で、一般的なフリーランスが受取るものは「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」(以下、「報酬の支払調書」という)になります。
「報酬の支払調書」については、報酬の種類によって7つに区分されています。他にも、所有する不動産を法人に貸付けている人は「不動産の使用料等の支払調書」が貸付先から発行されます。
「報酬の支払調書」と「源泉徴収票」は同じように「支払った金額と源泉徴収税額」が記載されているため、よく混同されがちです。しかし、この2つの法定調書は発行する目的と対象が違います。
「報酬の支払調書」は、個人事業主などに対して支払った「報酬」と源泉徴収税額を税務署に報告するために作成される法定調書です。報酬の支払調書は1月~12月までの支払金額が記載されるため、1月中旬から2月にかけて発行されるケースが多いです。
「源泉徴収票」は、従業員に対して支払った「給料」と源泉徴収税額が記載されている法定調書です。源泉徴収票は、通常、年末調整後の金額が記載されますので、12月までの給料(賞与)が確定してから発行されます。
フリーランス1年生の人は、初めて見る「報酬の支払調書」には「何が書いてあるのか?」、「確定申告に必要な金額はどれか?」疑問を持たれると思います。
ここでは、「報酬の支払調書」の見方をご紹介します。
こちらが「報酬の支払調書」の書式です。
①支払を受ける者
報酬を受け取った人の住所・氏名が記入されます。フリーランスの方はご自分の住所・氏名に間違いがないかご確認ください。税務署に提出する報酬の支払調書は、「個人番号又は法人番号」にマイナンバーが記載されます。しかし、「本人交付用の報酬の支払調書」(フリーランスが受取る支払調書)は、個人情報保護法(第28条)により制限を受けているためマイナンバーは記載されません。
②区分:原稿料、印税、さし絵料、翻訳料、通訳料、脚本料、作曲料、講演料、教授料などの報酬の名称が記載されます。
③細目:区分によって記入される事項が異なります。例えば、原稿料であれば「支払回数」、講演料・教授料であれば「講義名」などが記載されます。
④支払金額には、1年間の報酬の支払額が記載されます。この金額がフリーランスの方の「売上高」になり、「確定申告の決算書」の売上高と連動します。内書きは、支払調書作成時点で未払いの報酬がある場合に記入されます。
(取引先にいつも税抜金額で請求書を発行している場合は、税抜金額が記載されていることが多いです。)
⑤源泉徴収税額には、報酬から差し引かれた所得税及び復興特別所得税の合計額が記載されます。源泉徴収税額の税率は以下のとおりです。
支払金額 | 源泉徴収税額 |
---|---|
100万円以下 | 支払金額×10.21% |
100万円超 | (支払金額-100万円)×20.42%+102,100円 |
源泉徴収税額は、確定申告書Bの「㊹源泉徴収税額」と連動します。
⑥報酬を支払った人の住所・氏名・電話番号が記載されます。「個人番号又は法人番号」を記載する欄がありますが、個人情報保護法(第28条)により「本人交付用の報酬の支払調書」には何も記載されません。
ここまでの説明を基に、原稿料と講演料についての支払調書を作成したサンプルになります。
報酬をフリーランス(個人事業者)に支払う者は、源泉徴収する義務があり、一定の金額以上の報酬の支払いがある場合は「報酬の支払調書」を税務署に提出しなければなりません。平成28年以降はマイナンバー制度が導入され、税務署に提出する「報酬の支払調書」にマイナンバーを記載しなければなりません。これにより、税務署は個人の収入の把握が容易になり、報酬を受け取った人が適正に確定申告をしているかどうか確認することができます。
所得税の確定申告の提出期限が近づいてくると、「フリーランスの収入を確定申告しなければいけないのに報酬の支払調書が届かない」という人も少なくないと思います。ここでは、確定申告手続きをする上で、「報酬の支払調書」が届かない場合の対処法をご紹介します。
「報酬の支払調書」は、1月中旬から下旬にかけて交付されるのが一般的です。報酬の支払者は、「報酬の支払調書」を1月末までに税務署に提出しなければならないため、遅くとも2月初旬までには「報酬の支払調書」を受取ることができるでしょう。
ここまで「報酬の支払調書」についてご紹介していますが、実は「報酬の支払調書」をフリーランスへ発行することは義務付けられていません。
報酬の支払い者は、年間で一定額を超える報酬を支払った場合、税務署に「報酬の支払調書」を提出しなければならない義務があります(ライターやデザイナーなど一般的な職業の場合、年間5万円を超えるものが提出必須)。
ただ、報酬を受け取った人への発行は法令上、義務付けられていません。
しかし、今までの慣習や、確定申告に役に立つようにという支払い者からの配慮により、多くの会社などが「報酬の支払調書」の発行を行っています。もし、2月になっても「報酬の支払調書」が交付されない場合は、発行先に尋ねてみてもいいでしょう。
ただし、最近ではマイナンバー制度の導入により個人情報の取り扱いが厳しくなったため、中には「報酬の支払調書」を報酬の支払先へ発行することを取り止めた会社も出てきています。これは、個人情報保護法により「本人に交付する支払調書」にはマイナンバーを記載してはいけないためです。しかし、税務署に提出する支払調書にはマイナンバーを記載しなければなりません。つまり、報酬の支払い者はマイナンバーの記載がある支払調書と記載がない支払調書の2つのパターンを作成する必要があります。多くの「報酬の支払調書」を作成する会社などでは、2つのパターンを作成することに多くの時間を費やしてしまうため、「報酬の支払調書」を本人に発行することを取り止める企業が出てきています。
「報酬の支払調書」の発行を行わない企業が増加してきています。もし、「報酬の支払調書」が発行されない場合はどう対処すればよいのでしょうか?
実は、「報酬の支払調書」は必ずしも確定申告で必要な書類ではありません。また、確定申告書に添付しなければならない資料でもありません。実務上、自分で作成している帳簿と「報酬の支払調書」を突き合わせることで間違いを気付くことができるため「報酬の支払調書」はとても便利な存在です。しかし、確定申告には必ずしも必要ないことを理解しておきましょう。
「所得税の確定申告」は、提出期限があります。報酬の金額を知るために「報酬の支払調書」が交付されるのを待ち続け、確定申告の提出期限に間に合わなくなってしまったら元も子もありません。できるだけ「報酬の支払調書」に頼らずに、ご自分で記帳している帳簿を頼りに確定申告の準備を早めに行うと良いでしょう。
フリーランスが報酬をもらう際、原則的には源泉徴収税額が差し引かれて支払われます。これは、所得税法の第204条で次の8つの業種に当てはまる個人の報酬は、源泉徴収をしなければならないと定められているからです。
ただし、上記に該当する報酬でも源泉徴収されていない場合があります。ここでは、なぜ源泉徴収が行われていないのか、源泉徴収がされているかどうか不明なケースをご紹介します。
前述した業種に当てはまる報酬を得た場合でも、源泉徴収がされずに報酬が支払われる場合があります。これは、支払い者が「源泉徴収義務者」に該当するかどうかによって異なります。「源泉徴収義務者」とは、給料や報酬を支払う際に源泉徴収する義務を負った個人、または法人のことを言います。「源泉徴収義務者」に該当する主なケースは、次のとおりです。
法人は通常、役員報酬の支払いがあるため「源泉徴収義務者」に該当します。個人事業の場合は、「源泉徴収義務者」に該当しない場合があります。
つまり、「源泉徴収義務者」に該当しない「個人事業者」から支払われる報酬は、源泉徴収されません。源泉徴収されていない報酬を確定申告する場合は、所得税の納税額が多額になりますので納税資金に注意する必要があります。
実務上では、「源泉徴収が差し引かれて支払われているけど、源泉徴収税額が分からない」という状況が多くあります。実は、源泉徴収税額は支払金額から簡単に逆算することができ、報酬の金額と源泉徴収税額を区別することができます。
源泉徴収税額の計算基礎は、消費税込みの金額で計算することが原則となっていますが、請求書に税抜金額が記載されていれば消費税抜きの金額を計算基礎として使用することができます。源泉徴収税額を少なくしたい場合は、税抜金額を計算の基礎にすると良いでしょう。
源泉徴収税額は、次の算式により求めることができます。(源泉徴収税額の計算基礎は「消費税抜き」です。)
例)報酬498,950円が振り込まれていた場合(振込手数料は考えないものとする)
報酬の総額
498,950円÷0.9979×110%=550,000円
源泉徴収税額
498,950円÷0.9979×10.21%=51,050円
会計仕訳に表すと次の通りです。
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
---|---|---|---|
普通預金 | 498,950円 | 売上高 | 550,000円 |
仮払税金 | 51,050円 |
源泉徴収と消費税の関係について、詳しくは次をご覧ください。
今回は、「フリーランスの確定申告の際の報酬の支払調書」についてご紹介しました。
フリーランスの確定申告では、必ずしも「報酬の支払調書」は必要ありません。また、報酬の支払い者が「本人交付用」の報酬の支払調書を交付しないケースも増加しています。
「報酬の支払調書」を参照にすることで記帳ミスなどの間違いに気付くことができますが、「報酬の支払調書」に頼り過ぎずに、「報酬の支払調書」が無くても確定申告ができるように早めから準備を行うことをおすすめします。