自宅を売却した時の税金は?譲渡所得と5つの特例を解説!

自宅を買い換える場合や長期海外赴任などで自宅を売却する際には、仲介手数料などの売却に直接かかる費用や所得税などの税金があります。
自宅を売却すると「どのような費用」が「どのくらい」かかるのかを事前に把握する必要があります。特に税金は自宅を売却した翌年に支払わなければならないため、自宅を売却した資金をある程度残しておく必要があります。
本記事では、「自宅を売却した際にかかる税金」と「税金を節税することができる5つの特例」をご紹介します。
目次
1.自宅の売却にかかる4つの税金
自宅を売却する際には、
- 印紙税
- 登録免許税
- 所得税
- 住民税
の4つの税金がかかります。「所得税と住民税は聞き覚えあるけど、印紙税と登録免許税はどういう税金か分からない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。ここでは自宅の売却にかかる各税金を簡単に見ていきましょう。
①印紙税
「印紙税」は、契約書などの取引文書に課税される税金です。自宅を売却する際には、「不動産売買契約書」を作成します。「不動産売買契約書」は印紙税の課税文書になるため、郵便局などで印紙を購入し「不動産売買契約書」に貼り付けなければなりません。
通常、「不動産売買契約書」は売主の分と買主の分の2通作成するため、売主と買主のどちらとも印紙税を負担する必要があります。例外的に、「不動産売買契約書」を1通のみ作成し、片方が契約書のコピーを保有することで印紙税を節約することができますが、何か契約内容の問題が発生し訴訟などになった場合にリスクがあります。
自宅を売却する際にかかる印紙税は、契約書に記載された売却金額によって負担しなければならない印紙税額が異なります。「不動産売買契約書にかかる印紙税の税額表」は、次のとおりです。
契約金額 | 本則税率 | 軽減税率 |
---|---|---|
10万円を超え50万円以下 | 400円 | 200円 |
50万円を超え100万円以下 | 1,000円 | 500円 |
100万円を超え500万円以下 | 2,000円 | 1,000円 |
500万円を超え1千万円以下 | 1万円 | 5,000円 |
1千万円を超え5千万円以下 | 2万円 | 1万円 |
5千万円を超え1億円以下 | 6万円 | 3万円 |
1億円を超え5億円以下 | 10万円 | 6万円 |
5億円を超え10億円以下 | 20万円 | 16万円 |
10億円を超え50億円以下 | 40万円 | 32万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 | 48万円 |
※不動産の譲渡に関する契約書は、印紙税の軽減措置により令和2年3月31日までに作成される契約書は、「軽減税率」の金額になります。
②登録免許税
自宅の売却にかかる「登録免許税」は、「抵当権抹消登記」を行なう際に必要な税金です。「抵当権」とは、金融機関から住宅ローンを借りる際に不動産を担保に入れることを言います。「抵当権」が設定されたままになっていると、金融機関によってその不動産が差し押さえられるおそれがあります。このような理由から不動産の所有権が変わる際は、「抵当権抹消登記」を不動産の売買と同時に行います。
この「抵当権抹消登記」の費用は通常、売主が負担します。金額は不動産1つにつき1,000円です。土地と建物は、分けて課税されますので土地1筆と建物であれば2,000円の登録免許税が必要です。付随する費用として、「抵当権抹消登記」を司法書士に依頼した場合の報酬があります。司法書士への報酬は、おおよそ15,000円が目安です。
③④所得税と住民税
自宅を売却し「利益が出た場合」に、その利益に対して所得税と住民税が課税されます。自宅を売却した利益のことを「譲渡所得」と言い、確定申告を行なうことで所得税・住民税の金額が算出されます。「譲渡所得」は、通常の給与所得などと違い「分離課税」によって計算されます。
「分離課税」とは、給与所得や事業所得等の他の所得と合算せずに「譲渡所得」のみで税金を計算する仕組みです。「譲渡所得」の計算方法は、単純に売却価額から購入した時の費用を差し引くだけではなく、建物の減価償却費の計算や売却に必要な諸費用などの集計を行わなければなりません。次の章で詳しく見ていきましょう。
2.自宅を売却したら確定申告が必要!
自宅を売却した際は、確定申告が必要です。自宅の売却によって利益を得た場合はもちろん必要ですが、損が出た場合でも確定申告をすることで税金の還付を受けられる場合もあります。ここでは、自宅を売却した際の確定申告の譲渡所得の計算方法をご紹介します。
2-1.自宅の売却にかかる譲渡所得の計算の基礎
確定申告では、自宅を売却して得る利益を「譲渡所得」と言います。「譲渡所得」は、次の算式によって計算します。
※1 取得費は、自宅の購入価格から売却までの期間に応じた減価償却費を差引いた金額です。
※2 自宅の購入時や売却時にかかった諸費用は、次の費用が該当します。
<自宅の購入時にかかった諸費用>
- 仲介手数料
- 登録免許税(司法書士に依頼した場合は司法書士の報酬を含む)
- 不動産売買契約書の印紙代
- 不動産取得税
<自宅の売却時にかかった諸費用>
- 仲介手数料
- 不動産売買契約書の印紙代
2-2.建物の減価償却費の求め方
自宅の取得費は、自宅の購入価額から減価償却費を差引いた額です。
減価償却費とは、時間の経過や、使用することにより価値が減少する資産について、その価値の減少分を計算し、費用として資産の価値から差し引くことを言います。したがって、時の経過や利用によって価値が減らない土地は、減価償却費を計上することができません。建物のみ減価償却費の計算が可能です。
自宅を売却する際の減価償却費の求め方は、次のとおりです。
※1 償却率は自宅の構造によって異なり、次の償却率を使って計算します。(非事業用)
建物の構造 | 償却率 |
---|---|
木造 | 0.031 |
軽量鉄骨(骨格材の厚みによって異なる場合あり) | 0.025 |
鉄筋コンクリート | 0.015 |
※2 減価償却費は、建物の取得価額の95%が限度額になります。
2-3.建物の購入価格がわからない時はどうする?
ずいぶん昔に自宅を購入した場合や、相続により自宅を取得した場合などは「自宅の購入価格」が不明な場合が多々あります。取得費が分からないときは、「自宅の売却金額×5%」を建物の取得価額とする「概算取得費」で計算することができます。
例えば、取得費の分からない自宅を3,000万円で売却した場合、自宅の取得費は、3,000万円×5%=150万円になります。概算取得費で計算した取得費は、実際の取得費より低い金額になることが多いため、自宅を購入した際の不動産売買契約書などの書類は大切に保管しましょう。
建物の購入価額が不明な場合は、原則的に「概算取得費」の計算式によって取得費は計算されます。しかし、「概算取得費」の計算であまりにも取得費が低くなる場合は、最終手段として「市街地価格指数」を使う方法があります。
「市街地価格指数」とは、市街地の宅地価格の推移を表す指標で、日本不動産研究所が発行している「市街地価格指数・全国木造建築費指数」に記載されている価格指数です。この指数を使って、自宅の売却価額から自宅を購入した当時の購入金額を「推定」することができます。
ただし、「市街地価格指数」を使った取得価額の求め方は、あくまでも推定金額にしか過ぎないため税務署の調査で否認されるおそれがあります。平成12年11月16日の裁判の判例では、「市街地価格指数」を使った取得費の計算が認められたため、実務上で多く使われ始めましたが、国税庁が正式な計算方法として公表しているものではありません。どうしても、取得費が分からず、「市街地価格指数」を使った取得費の計算を行いたい場合には、税の専門家である税理士に相談すると良いでしょう。
2-4.自宅の所有期間で変化する税率
ここまで、譲渡所得(売却益)の計算方法をご紹介しました。譲渡所得を算出したら、譲渡所得の所得税率及び住民税率を乗じて所得税と住民税の金額を求めます。(実際には、譲渡所得から特例による特別控除を差引きます。特別控除については、次の章を御覧ください。)
譲渡所得の所得税率(復興特別所得税を含む)と住民税率は、売却する自宅の所有期間が5年超であるかどうかで税率が異なります。自宅の所有期間が5年以内の場合は「短期譲渡所得」、5年超の場合は「長期譲渡所得」と言い、次の税率が適用されます。
所得税 (復興特別所得税を含む) |
住民税 | |
---|---|---|
短期譲渡所得 (5年以内所有) |
30.63% | 9% |
長期譲渡所得 (5年超所有) |
15.315% | 5% |
「短期譲渡所得」と「長期譲渡所得」の税率は、約2倍の差があります。つまり、自宅を売却する場合は、5年超保有してから売却することで支払う税金を大きく減らすことができます。
2-5.一体いくらかかる?具体例で解説
「短期譲渡所得」と「長期譲渡所得」の税率を確認したところで、次は所得税と住民税がいくらかかるか見ていきましょう。
・自宅の取得価額4,000万円【土地2,000万円 建物(鉄筋コンクリート造り)2,000万円】
・売却金額5,000万円
・購入時にかかった諸費用 100万円(仲介手数料、印紙代など)
・売却時にかかった諸費用 50万円(仲介手数料、印紙代など)
<自宅の保有期間4年(短期譲渡所得の場合)>
- 自宅の減価償却費:2,000万円×0.9×0.015×4年=108万円
- 短期譲渡所得:売却額5,000万円-(自宅取得費4,000万円-減価償却費108万円+購入時諸費用100万円+売却時諸費用50万円)=958万円
- 所得税(復興特別所得税を含む):958万円×30.63%=2,934,354円
- 住民税:958万円×9%=862,200円
- 所得税と住民税の合計:3,796,554円
<自宅の保有期間9年(長期譲渡所得の場合)>
- 自宅の減価償却費:2,000万円×0.9×0.015×9年=243万円
- 短期譲渡所得:売却額5,000万円-(自宅取得費4,000万円-減価償却費243万円+購入時諸費用100万円+売却時諸費用50万円)=1,093万円
- 所得税(復興特別所得税を含む):1,093万円×15.315%=1,673,929円
- 住民税:1,093万円×5%=546,500円
- 所得税と住民税の合計:2,220,429円
自宅を5年超保有しているかどうかによって自宅の売却にかかる所得税と住民税の金額はこんなにも変わってきます。この自宅を売却した場合の具体例の税金の金額を見て、税金が高すぎると思われた方もいらっしゃると思います。実際は、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」を利用するため、自宅を売却した場合に納税が発生するケースは、それほど多くありません。
3.自宅を売却した時の5つの特例制度
ここまでは、自宅を売却した際の譲渡所得の計算方法についてご紹介しました。自宅の売却は高額で取引することになるため、利益が出た場合には多額の税金の支払いが発生します。所得税法では、多額の税金の支払いにより「次の自宅の購入ができない」などの生活に支障をきたさないように5つの特例を用意しています。ここでは「自宅を売却した時の5つの特例制度」をご紹介します。
①3,000万円特別控除
自宅(居住用財産)を売却したときは、自宅の所有期間に関係なく譲渡所得(売却益)から最高3,000万円までの控除ができる制度です。つまり、自宅を売却した際に譲渡所得(売却益)が3,000万円以内であれば所得税と住民税が課税されることはありません。この特例の正式名称は、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」と言います。この3,000万円特別控除を譲渡所得の算式で表すと、次のようになります。
「3,000万円特別控除」の適用を受けるためには、「自宅(居住用財産)」の売却でなければなりません。
また、「3,000万円特別控除」と「住宅ローン控除」を重複して適用するためには制限があります。自宅を売却して新居に住み始めた年の前後2年間の合計5年間に「3,000万円特別控除」の適用を受けた場合については、住宅ローン控除の適用を受けることができません。連年適用の制限については、3年に1度しか適用できないため注意が必要です。
②10年超所有軽減税率の特例
自宅を10年超所有し、売却した場合は「②10年超所有軽減税率の特例」の適用が受けられます。「10年超所有軽減税率の特例」とは、譲渡所得(売却益)が出た場合に所得税と住民税の税率が低くなる特例です。譲渡所得(売却益)が6,000万円以下の部分に対して所得税が10.21%、住民税が4%に軽減されます。
この特例は、「①3,000万円特別控除」との併用が可能です。ただし、次にご紹介する「③特定居住用財産の買換え特例」とは併用できませんので注意が必要です。住宅ローン控除との併用については「①3,000万円特別控除」と同様の制限があります。
③特定居住用財産の買換え特例
自宅を買換える際に、利用できる特例が「③特定居住用財産の買換え特例」です。この特例は、「課税の繰延ができる」特例になります。自宅を買い換える際に売却した自宅の売却益を「売却した年」の譲渡所得として課税せずに将来に繰り延べることができます。「課税の繰延べ」なので、自宅の売却益が非課税になるわけではありませんので注意しましょう。
「③特定居住用財産の買換え特例」を利用する前に、まず「①3,000万円特別控除」が利用できるか検討しましょう。そもそも自宅の売却益が3,000万円未満であれば「①3,000万円特別控除」を利用すれば課税が発生しません。
「③特定居住用財産の買換え特例」は、「①3,000万円特別控除」と「②10年超所有軽減税率の特例」を重複適用することはできません。「住宅ローン控除」との重複適用も認められていません。また、この特例は適用を受けるための要件が多いため、利用を考える場合は慎重に検討した方が良いでしょう。この特例は、令和元年12月31日までに売った場合の特例ですが、延長が検討されています。
④居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
自宅を買い替えた際に、売却した自宅で売却損(売却価額が取得価額より低い場合)が発生した場合は、一定の要件を満たした場合に限り、その売却損失を他の給与所得や事業所得から控除(損益通算)できる制度です。
損益通算をしても控除できなかった損失額は、翌年以後3年間繰り越して控除することができます。つまり、自宅を買い替える際に売却損が発生したら、「所得税の還付」を受けることができます。しかも、その損失を3年間繰越すことができます。
また、この制度は「住宅ローン控除」との併用が可能になっています。この特例は、「③特定居住用財産の買換え特例」と同様に令和元年12月31日までに売った場合の特例ですが、延長が検討されています。
⑤特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
「⑤特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」は、自宅の買い替えをしない場合(自宅の売却のみを行う場合)で、売却損が発生した場合に「④居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」と同様に、その売却損失を他の給与所得や事業所得から控除(損益通算)できる制度です。損益通算をしても控除できなかった損失額は、翌年以後3年間繰り越して控除することができます。こちらの特例も令和元年12月31日までに売った場合の特例ですが、延長が検討されています。
まとめ
今回は、「自宅を売却した際の税金と譲渡所得の計算方法及び5つの特例」についてご紹介しました。
自宅を売却すると損益が発生しますでの、必ず確定申告を行なうようにしましょう。
利益が発生した場合には、「①3,000万円特別控除」または「②10年超所有軽減税率の特例」を利用して、税額を軽減できます。
売却損が発生した場合には、「④居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」や「⑤特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」の特例を利用することにより、所得税の還付を受けられる可能性があります。