米中貿易戦争の行方パート2|2020年米中対立はどうなるのか
懲罰的関税の掛け合いが続いた米中貿易戦争は、2019年12月13日に米中両国が一定の譲歩をすることを条件に、いわゆる第一段階の合意という結果となりました。
しかしながら、この合意直後から、米中両国から聞こえてくる声は既にすれ違いが生じています。そして、来年2020年はアメリカ大統領選の年です。
今後、米中貿易戦争は一定の収束に向かって行くのでしょうか?
メディアでは、新しい冷戦時代の幕開けという言葉が聞かれます。今後の展望を考察してみたいと思います。
目次
1.米中貿易戦争は第一段階の合意成立へ
懲罰関税第4弾の最終実施日であった2019年12月15日が目前に迫った12月13日、米中貿易交渉は第一段階の合意にギリギリのタイミングで漕ぎ着けました。
これにより、2018年6月に始まった「米中貿易戦争」とまで呼ばれるほどにエスカレートしていった懲罰的関税の掛け合いは、一旦は収束を見ることとなりました。
この間の経緯は、トランプ大統領のツイッター発言や複数の政府高官による発言に翻弄されて来たため情報が氾濫しています。ここに至るまでの経緯を分かり易く下記の表にまとめてみました。
こちらの表は、アメリカの中国に対する懲罰的関税の一覧と、今回の第一段階合意内容です。
これに対して、中国は、アメリカ農産物の輸入拡大を約束した他、金融市場の開放、知的財産権保護、為替政策の透明化などにも取り組むことに一定の譲歩を示したようです。
1-1.米中貿易戦争における懲罰的関税の応酬の影響
第一段階合意に至ったのは、やはり両国ともに懲罰的関税の影響は大きく、中国は国内景気の悪化に対する危機感が強くなり、アメリカとしては最後の第4弾の発動は、景気悪化の引き金になりかねないというリスクがあったからだと思われます。
2020年に大統領選を控えているトランプ大統領としては、株価上昇が続くことは追い風ですが、株高故にFRBはこれ以上の金融緩和政策に抵抗を示していたこともあり、ここは中国と一旦は合意するしかなかったというのが実情でしょう。
1-2.何故、ここで合意したのか?
これは私の意見であると共に、多くの専門家の意見であったと思いますが、第4弾実施日を12月15日に設定した段階で、「アメリカ政府は、実のところ第4弾は回避したいと思っている」というのが本音だったのではないでしょうか?
中国からの輸入品すべてに懲罰的関税を掛けてしまえば、アメリカ経済への悪影響が深刻になることは間違いなかったわけです。
けれども、そこまでこぶしを振り上げてしまったらトランプ大統領の性格を考えると容易には引けなくなってしまうというのは目に見えていました。つまりは、トランプ大統領は自らを追い詰め過ぎてしまったということだったと思います。
結局、その辺りを理解して外交交渉を巧みにこなしたのは中国政府であり、外交交渉は中国が勝利したとも言えると思います。
1-3.合意を受けての世界の反応
12月13日、米中合意のニュースが流れると、その影響が強いアジア市場を中心に株価が軒並み上昇しました。
日本では、12月13日、日経平均が前日比598円高となり、終値で1年2か月ぶりに24,000円台を回復しています。
当然ですが、ニューヨーク市場も現地時間12月16日にダウ平均は28,000ドルを超える過去最高値を更新しました。その段階でイギリス総選挙はジョンソン首相率いる保守党が圧勝したこともあり、クリスマス休暇前は、昨年と打って変わって世界的に一定の安心感が広がりました。
2.新たな冷戦時代のパンドラの箱を開けた米中貿易戦争
中国は、1979年から2019年まで40年間、日本から総支援額約3兆6500億円にも上るODA(発展途上国への政府開発援助)を受けていました。
また、WTO(世界貿易機関)においては、中国は未だに発展途上国としての各種優措置を受けています。
2-1.パンドラの箱を開けたトランプ大統領
しかしながら、中国は今や名目GDP総額においては世界第2位の経済大国であり、次世代通信規格の5Gのテクノロジーは世界トップを走っています。
下記はIMFが発表している名目GDPの世界ランキングの上位15位のリストです。これを見ても、アメリカの独走、中国の追随が良く分かります。
日本は第3位を維持していますが、経済成長の鈍化が著しいのは周知のとおりです。
【世界の名目GDPランキング(IMF)】
引用元: Global Note
このように複数の顔を持って、国際社会での立場を巧みに使い分けてきたのが中国の真の姿であるということを、今回の米中貿易戦争は国際社会において明らかにしました。いうなれば、「パンドラの箱」を開けたわけです。
経済大国であるにも関わらず、中国は一党独裁の共産主義国家であるために、一般的な民主主義国家と同レベルの法治国家ではありません。
そのため、アメリカを中心とした先進諸国の企業が持つ特許侵害は目に余るものがありますが、中国政府はその特許侵害の取締りに対して後ろ向きです。
このような実情は既に以前からあったのですが、トランプ大統領が、自国第一主義を前面に掲げて大統領になることで、パンドラの箱が開けられたわけです。
この結果、世界中が米中貿易戦争に翻弄される中で、世界は新たな冷戦時代の幕が開いたという認識を否応なしにさせられたということになります。
2-2.中国の政治体制について
ここで、中国の政治制度について少し説明をします。
中国でも、選挙制度は存在します。中国においては、満18歳以上になった国民には原則として選挙権が与えられていて、普通選挙によって各地域の人民代表大会の代表が選出されています。
その頂点が、全国人民代表大会であり、ここで主席、副主席が選任されています。
では、何故、民主主義国家ではないと言っているのかというと、中国では共産党以外の政党の存在を認めていないからです。
中国での選挙投票率は90%以上であり、複数の政党が存在せず、実態は共産党による共産党のための選挙であるために、民主主義国家ではないと説明をしてきています。
しかしながら、発展途上国としての優遇措置を最大限に活用して、経済大国にのし上がってきたのは、経済活動においては資本主義を認めているからです。
中国という国を敵対視するアメリカの基本スタンスは、「共産主義による一党独裁政権下の資本主義」は真の資本主義ではないという考えに基づくものです。
2-3.新たな冷戦時代とは?
かつての冷戦時代は、アメリカ合衆国とソビエト連邦をトップとした西側(民主主義国家)と東側(社会主義国家)の政治体制の違いによる対立でした。
新たな冷戦とは、アメリカと中国という経済大国2強による経済を主軸においた対立です。
現在はアメリカが第1位、中国が第2位ですが、今のペースで行くと遅くとも2040年にはその立場は逆転して、中国が第1位になることが予測されています。
しかしながら、中国には決定的な弱点があります。中国の法定通貨である中国元は未だに世界的な信用が得られていません。
「一帯一路政策」と呼ばれるアジアやアフリカの発展途上国への経済支援を通じて、世界経済における確たる地位を得るために、バラまき支援と揶揄されるほど熱心に「中国経済圏」を作ろうと必死ですが、中国元が世界の主要な基軸通貨となっていないことから、必ずしもうまく機能していないのです。
更には、中国の事実上の為替操作や先に説明をしたような特許侵害、そして、一党独裁政権に基づく強権的な支配は、民主主義国家として一定の秩序を確立させている旧西側諸国からの反発を招いています。これが、新たな冷戦の実情です。
3.米中貿易戦争の今後の行方について
2020年はアメリカ大統領選の年です。トランプ大統領は、第一段階合意の後、第二段階への交渉があると言っていますが、今後の米中貿易戦争の行方はどうなるのでしょうか?
3-1.実は民主党は中国に強硬
中国に対して強硬姿勢であるトランプ大統領が仮に落選すれば米中貿易戦争のトーンは下がるのではないか?と思われる向きがありますが、実は、議会においては共和党よりも民主党の方が中国に対して強硬です。
なぜならば、アメリカは伝統的に、共和党が国際外交においては孤立主義(自国第一主義)、民主党が国際協調主義だからです。
経済活動においては資本主義を許容するけれども、政治体制は共産党による一党独裁と使い分けをして、アンフェアな経済活動への介入をする中国に対して、現在は民主党の方が厳しいスタンスなのです。
従って、2020年の大統領選でトランプ大統領が再選されてもされなくても、米中貿易戦争がトーンダウンすることはないと思われます。単に、アメリカの中国に対する対抗手段が変わるだけでしょう。
仮に民主党から大統領が選出されれば、トランプ大統領の「America first」派はトーンダウンして、外交においては、ある程度国際協調主義にスタンスを修正することになります。その時には、対中国政策は、1対1の外交交渉ではなく、アメリカ同盟国対中国という交渉の場も活用されることになるのではないかと思われます。
3-2.中国の先手攻勢外交
トランプ大統領にパンドラの箱を開けられて、それなりに追い詰められた中国は、中国流の国際協調主義の先手を打つように、外交の場でのトーンが変わって来ています。
これは、12月24日に開催された日中韓首脳会議後の共同記者会見においても、鮮明に表れており、国際協調主義と貿易交渉は多国間交渉とするべきであるとして、日本と韓国とは共に経済発展を目指そうと呼びかけていました。
これは、明らかに、アメリカに対する牽制であると専門家は見ています。
従って、2020年以降は、政治的同盟国と、経済的友好国が相互に入り乱れる複雑な国際パワーゲームが始まると思われます。中国としては、北朝鮮という、一般の国際外交から離れたところで暴れている同盟国が一種の足枷にはなっていますが、経済的には国際協調主義を前面に押し出していくものと思われます。
対してアメリカですが、大統領選において、トランプ大統領が、このまま自国第一主義を貫いて果たして再選をするのか?という点が最大のポイントになります。
経済的にも政治的にも、今アメリカは世界中を大なり小なり敵に回しています。
このやり方が過度にエスカレートすることは、一般のアメリカ人もそれなりに警戒すると思われます。トランプ大統領が再選を目指して駆使する選挙戦略が、2020年はそのままアメリカの外交に反映されるものと予想されます。
4.まとめ
今までは、単純にアメリカと仲良くして、中国とは喧嘩をしなければ比較的穏便にやってきた日本ですが、欧州ではイギリスがEUを離脱することが事実上決定して、そのイギリスはアジアに目を向けています。
そして、EUを中心とした欧州は、アメリカとの対立姿勢が至る所で鮮明になって来ています。従来は、政治的にアメリカの友好国であった国々が、その立場の違いを主張するようになる中で、中国はアメリカという敵国を念頭に、したたかな外交を進めることでしょう。
このような複雑な国際関係の中で、日本国民はもっと政治に関心を持って、民意を政治に反映させることの重要性を今のうちに再認識することが何よりも重要なのではないかと思います。