韓国のキャッシュレス事情|韓国はキャッシュレス先進国!

韓国キャッシュレス

1.韓国は外国人に優しいキャッシュレス先進国

今年に入って日韓関係は冷え込んでいますが、飛行機の便数が少なくなったせいで、ソウル便は意外にも混んでいます。
先日、ソウルに行った私が乗った便も満席でした。政治の世界は別と割り切って、ショッピングやグルメが楽しい韓国は、未だに日本人に根強い人気があるようです。

さて、その韓国ですが、世界的にも、そしてアジアとしてはトップクラスのキャッシュレス先進国です。「えっ?中国ではないの?」とびっくりしますか?
筆者は、趣味と仕事を兼ねて定期的に色々な国に行っていますが、韓国のキャッシュレス化は、名実ともに世界一だと個人的に思っています。理由は、韓国は、韓国人と同じくらい外国人にもストレスフリーなキャッシュレス化に成功しているからです。

(1)韓国のメインはVISA,MasterCard等のカード決済

日本には中国本土から多くの観光客がやってくるので、中国ではメジャーであるQRコード決済を筆頭に、何十もの決済手段が乱立しています。
けれども、韓国では、キャッシュレス決済手段はとてもシンプルです。世界中の多くの国で発行されていVISAやMasterCardなどのクレジットカードやデビットカードを持ち、ソウル市内で外国人も簡単に買えるTマネーカードを買ってウォンをチャージすれば、屋台以外はキャッシュレス決済で快適に過ごせます。

Korea 韓国 1(キャッシュレス決済手段がシンプルなので迷いません)

(一方日本では、すべての決済手段を使いこなしている人がいるとは思えないほど多様な決済手段)
7-11

つまり、日本のように「ここでは、何が使えるのだろう?」と確認をする必要がないのです。
その意味で、外国人、特に日本人にとっては、海外で一番フレンドリーなキャッシュレス社会を実現しています。

(2)Tマネーカードの購入は必須

韓国では人口の約半分がソウル市とその近郊に住んでいます。ですから、多くの外国人観光客が訪れるのもソウルが圧倒的に多いわけです。
さて、そのソウルでは、快適にキャッシュレスで過ごすためにはTマネーカードは必須です。

Tマネーカードは、ソウル市が発行しているチャージ式の交通系カードですが、地下鉄や鉄道だけでなく、コンビニや市内の多くの小売店やレストラン、そしてタクシーやバスでも使える大変便利なものです。
Tマネーカードは、ソウル市内のコンビニでも、地下鉄の駅でも普通に買うことが出来ます。
そして、なんと日本ではアマゾンでも売っています!

ちなみに、私はカード型ではなくキーホルダー型のTマネーカードを使っています。海外用のお財布に予め付けておいてあるので、とても便利です。

(3)けれども現金ウォンは必要…

さて、この大変便利なTマネーカードですが、その購入自体には各種クレジットカードが使えるのですが、チャージをするためには、ウォンの現金が必要になります。
ですから、韓国に行く時は、このTマネーカードにチャージをして使う分(私は交通費とコンビニで使う分として、常に3万ウォンくらいチャージをしています)と、屋台で買い物をする分(ソウル市内の多くの屋台では現金決済となります)だけは、どうしても現金が必要になります。

韓国のキャッシュレス化は、次項で説明をする通り、物理的な通貨を否定するものではなく、国家の政策として「キャッシュレス決済」を推進したものであるため、キャッシュそのものをなくすことに対してスウェーデンのようにストイックではないのです。

2.国家主導のキャッシュレス決済推進

韓国が世界トップクラスのキャッシュレス先進国であることは間違いないですが、その実態を正しく定義すると、「キャッシュレス化」ではなく「キャッシュレス決済化」であると言えます。

韓国では1997年秋に通貨危機が起こり、大手企業が不渡りを出して外貨準備高が国としてデフォルト(債務不履行)寸前に陥った経験があります。
その後、IMFの支援等で韓国経済は持ち直したわけですが、これを契機として、経済活動の可視化を目的に、韓国政府はキャッシュレス決済の推進を行いました。

(1)脱税防止策

従来、零細企業が多い韓国の小売業では売上を誤魔化して脱税をすることは日常茶飯事でした。まず、韓国政府は、企業に対して強力な脱税防止策として、次の2つの政策を断行しました。

  • 一定額以上の売上がある小売店にはカード決済の義務付け
    (結果として屋台では現金決済が出来ることになりました)
  • カード決済を拒否した場合にはペナルティを課す

(2)確定申告時のキャッシュレス決済控除

国民に対しては、300万ウォン(1ウォン=約0.1円換算で約30万円)を上限として、年間のクレジットカード利用額の20%を所得控除出来るようにしました。
またクレジットカードやデビットカードの利用控に抽選番号を付けて、宝くじを実施しています。
このように国民に分かり易いインセンティブ政策を推進することで、通貨危機で委縮した個人消費を呼び戻し、国としての経済再建に成功しました。

(3)デビットカードの普及推進

このキャッシュレス決済控除を設けるにあたり、日本同様にクレジットカードが先行していた韓国ですが、政府の政策として、銀行に対してデビットカードの発行を強力に後押ししました。その結果、クレジットスコアリングに問題がある人でもカード決済を利用することが出来るようになりました。

3.外国人に優しいキャッシュレス先進国

韓国ではキャッシュレス決済の推進が他国に比較して早かったため、世の中に多様な決済手段が出てくる前にキャッシュレス決済が定着したので、決済手段は各種カードとTマネーカードで事足りるという大変シンプルなものになっています。

中国人向けのWe chat Payとアリペイは、コンビニや化粧品販売店など観光客がよく使われる小売店では当然対応していますが、その方法はお店のQRコードを読む簡易型であり、日本のように大掛かりなQRコード決済を導入していないため、レジ回りはすっきりしています。

Korea 2 韓国(客単価の高い欧米ブランドショップではQRコード決済には対応していないお店も多いです)

3-1.使える決済手段がグローバルスタンダード

QRコード決済が主流なのは世界的に見ても中国だけであり、お店のレジのところに多種多様な決済手段を提示しているのは、日本とせいぜいシンガポールくらいです。

Japan1 日本(デニーズのキャッシュレス決済手段の説明、これは分かりやすいほうです)

Singapore1 シンガポール(シンガポールのタクシーの決済手段の表示です。実際には、シンガポールのタクシーの運転手は「現金で払って欲しい!」ということがかなり多いです)

大抵の訪日外国人は、そもそも日本のお店に貼ってある決済手段をずらっと並べた掲示を見ない人が多いようですが、それでも日本に初めて来る外国人、特に欧米人は、あの掲示を見て戸惑う人が多いようです。
それに対して、韓国では、早くからキャッシュレス決済化を進めたので、使える決済手段がシンプルであり、外国人は、韓国のハングル文字の説明でも、決済に関してはストレスを感じないそうです。

ちなみに、日本は、あの決済手段掲示に加えて日本語という二重ストレスを外国人に与えているということを、多くの日本人は認識していないようです。

このような意味で、韓国はアジアの中では名実ともに成熟したキャッシュレス先進国と言えると思います。

(2)海外発行のカードの利用がストレスフリー

日本においては、今でも海外発行カードが加盟店で使用された時、カード会社が加盟店に電話でカードホルダーの本人確認をしたり、一定額以上の買い物にはカードは使えないように設定するなど、外国人には不便な商習慣が一部で残っています。

これは日本にいて、日本人が日本で発行されたクレジットカードを使っているとなかなか気が付かないことです。
東京がオリンピック招致をする際に、改善点として国際オリンピック委員会から改善を要請された事項でもあります。

これに対して韓国では、海外発行のカード利用に関して、このように見えないところでの利用制限はしていません。日本同様に観光立国を目指している韓国なので、早くから主要決済手段がカードであることもあり、このような点でも外国人にとってストレスフリーです。

(3)中国人向けQRコード決済はさりげなく

諸外国を見ていても、レジ回りに日本のように利用できる決済手段をメニューのようにズラリと並べている国は見たことがありません。
何故、誰が考えてこのような状況になったのか、私も是非知りたいと思っています。

大抵の日本人は、「QRコード決済=中国人が使う=We Chat PayかAlipay」と思っていて、訪日中国人が困らないようにレジ回りを工夫していると思っていると思います。
けれども、日本と同じくらい中国人がやって来る韓国では、「QRコード決済が使えます!」という表示はさりげなくスマートです。
この写真は、明洞で人気のParis Baguetteというパン屋さんで撮ってきたものです。私は個人的に韓国のようなスタイルが好ましいと思っています。
Korea3 韓国(Paris Baguetteは明洞にある人気のパン屋さんです)

4.キャッシュレス決済化は良いことばかりではありません

こうして見てきたように、韓国はアジア随一のキャッシュレス先進国であり、キャッシュレス決済成熟国であると言えます。
その意味で、現在日本は韓国とは外交上最悪な関係にありますが、キャッシュレス社会の模範にするという意味では手軽な隣国と言えます。

もちろん、韓国のキャッシュレス社会が良いことばかりではありません。
韓国においては、キャッシュレス決済分が一定額税額控除を出来ることもあり、韓国人、特に若者のカードの使い過ぎによる自己破産が社会問題となっているのも事実です。特にカード決済明細が宝くじを兼ねているので、どちらかと言えば射幸性の高い国民性を刺激し過ぎているのだと思われます。
なお、カードの使い過ぎは、キャッシュレス決済が徹底すると、すべての国で多かれ少なかれ生じる問題であり、韓国だけの問題ではありません。

韓国の消費過多傾向は、キャッシュレス決済がすべての理由ではなく、海外からの輸入品に未だに高い関税が課せられていて、輸入品物価が高いという事も一因になっています。
気軽な韓国料理のランチが600円くらいで食べられるのに、スターバックスのコーヒーは日本より高いのです。

現在、日本でもポイント還元制度を政府が実施しているため、キャッシュレス決済を利用する人が増えており、中には、キャッシュレス決済は使い過ぎの元凶であるという論調も見られるようです。
使い過ぎ防止のためにキャッシュレス決済を一方的に否定するのは説得力に欠けると思いますが、「キャッシュレス決済による使い過ぎ」が、韓国における別次元の複合要因が絡まった社会問題の一つであることは事実だと思います。

執筆
荒井 薫(あらい かおる)
労働省→公認会計士→コンサルタント→事業会社CFO&国際ブランド付きプリペイドカード事業の立ち上げをやりました。子供の頃から物書きになりたかったため、書く感性を磨きながら、皆さんに様々な情報をお伝えしていければと思っています。
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