ブロックチェーンのメリット・デメリットとは
最近、「Facebookが仮想通貨Libraのサービスを開始」とか、「中国政府が、デジタル人民元を発行」といったニュースを目にした方も多いのではないかと思います。
これら仮想通貨のサービスを支えているのが「ブロックチェーン」という技術です。
仮想通貨としては「ビットコイン」が有名ですが、もちろんビットコインを支える技術としてもブロックチェーンが使われています。
金融業界に限らず、他のビジネスや行政サービスなど様々な分野に応用可能となる技術ですが、実際はどのような仕組みなのか、イメージがつかない方も多いかと思います。
そこで、今回はブロックチェーンの仕組みを簡単に説明しつつ、メリット・デメリットを紹介していきます。
目次
1.ブロックチェーンの仕組み
ブロックチェーンという言葉からは「何か難しそうだな」という印象を受けるかもしれませんが、仕組み自体は実にシンプルです。
取引データ(例えば、佐藤さんが鈴木さんに10ビットコインを送付)をいくつかまとめたものを「ブロック」と言い、その「ブロック」をチェーンのように連ねて保管する技術を「ブロックチェーン」といいます。
取引のようなひとまとまりの情報をブロックとして、そのブロックを次から次へと鎖のようにつないで管理していくことから、ブロックチェーンと呼ばれています。
ここでは、ブロックチェーンの仕組みについて、簡単に解説します。
ブロックチェーンの仕組みは、次のような要素で成り立っています。
- 分散して管理する公開台帳
- 暗号化
- マイニング
1-1. 分散して管理する公開台帳
銀行で管理する従来の通貨は、銀行の中央集権的システムが、残高や取引などの台帳を集中管理しています。
一方、ビットコインなどの仮想通貨では、銀行のような集中システムではなくて、台帳が公開されており、その台帳をユーザーが互い管理し、監視しあっています。
銀行が集中システムであるのに対して、ブロックチェーンは、分散型台帳技術と呼ばれている技術を使って、ユーザー同士が管理し監視する分散システムです。
1-2. 暗号化
銀行のような集中システムであれば、銀行などが大金を投入してセキュリティを担保してくれています。
それでは、ビットコインのようなブロックチェーンを使った分散システムでは、どのようにセキュリティが保証されているのでしょうか?
ブロックチェーンでセキュリティを保証している技術が「ハッシュ関数による暗号化」です。
ここではハッシュ関数の詳細な説明は割愛しますが、ハッシュ関数とは、以下のような関数です。
- 元の値からハッシュ値という出力値に変換(暗号化)するが、これは簡単に計算可能
- ハッシュ値から元の値を求めることは非常に困難
仮想通貨の取引データは、このハッシュ関数によって暗号化することによってセキュリティを保証してます。
1-3. マイニング
新しいブロック(取引データなど)をつなげていく作業のことをマイニングと言います。
マイニングを行うことにより、新規の取引が承認され、成立します。
マイニングでは、新規の取引データ情報を解析してブロックチェーンを作成する作業を行いますが、この作業には膨大な量の計算が必要です。
ビットコインでは、一番最初にマイニングを行った者に、報酬としてその通貨が一定量与えられます。
マイニングとは、もともとは地中の鉱物などを掘り出すことを言います。
ブロックチェーンでも、難しい計算行為(採掘)を行った結果として報酬(鉱物/お金)が得られることから、「マイニング」という言葉が使われていると考えられています。
参考:マイニングとは
2.ブロックチェーンのメリット
ここでは、ブロックチェーンのメリットについて見ていきます。
主なメリットしては、次のような点があげられます。
- 不正・改ざんの防止
- 運用コストの安さ
- 堅強なシステム
- 直接取引
- 金融以外への拡張性
2-1. 不正・改ざんの防止
銀行を始め従来のサービスは、サービスを提供する企業の中央集権的システムにより集中運用されており、その企業が大金を投じてセキュリティを保証しています。
一旦セキュリティ事故が発生してしまうと、その企業の信頼性が揺らいでしまい、最悪の場合は、企業の存亡にまで影響してしまいます。
ビットコインなどで使われているブロックチェーンでは、銀行のような中央集権的システムではなくて、公開されている台帳をユーザーがお互いに管理し、監視しあってセキュリティを担保しています。
そのため、システムを提供しているはずの事業者ですらも、システム内のデータを勝手にいじることはできません。
現時点では、このような技術はブロックチェーンくらいしか存在しません。
従来は、「サービスを提供する企業などの信用力に基づいて、そのサービスを利用してきた」と言えますが、ブロックチェーンのこうした機能によって、事業者の信用が低くとも、安心してサービスが利用できます。
2-2. 運用コストの安さ
銀行のような集中システムでは、その企業が大金を投じてセキュリティを保証しています。
ブロックチェーンでは、銀行のような大規模サーバーを使った中央集権的なシステムではなく、ユーザーみんなで分散して管理していますので、運用コストが安価になります。
その結果、例えば、仮想通貨におけるユーザー同士の送金の手数料が安く済みます。
2-3. 堅強なシステム
一般的なブロックチェーンは、分散管理型であるために、どこかで不具合が起こったとしても全体のシステムが止まることはありません。実際、ビットコインは2009年の初の取引から1度も止まったことがない、とのことです。
一方で、銀行における現行のシステムでは、ATMが使えなくなる事故が時々起こります。また、最近では、約50自治体で住民票などが発行できない事故、楽天ペイが利用できなくなる事故も発生しています。
これらのシステムは中央集権的システムで、メインのシステムが停止してしまうと、全体のシステムが停止してしまい、サービスそのものが停止してしまいます。
2-4. 直接取引
ブロックチェーンには、銀行のような集中システムを管理する中央機関が存在しないので、第三者の機関を経由せずに、ユーザー同士が直接取引することができます。
佐藤さんが鈴木さんに送金する場合、銀行を経由せずに、佐藤さんから鈴木さんに直接送金(例えば10ビットコインを送金)することができます。
2-5. 金融以外への拡張性
「4.ブロックチェーンの今後の動向」で見ていきますが、仮想通貨だけでなく、いろいろなビジネスやサービスに利用されつつあります。
⾦融(貯蓄、送⾦、証券取引など)を始めとして、公共サービス(各種申告や納税など)や各種データ管理など、利用分野は広がっていくものと思われます。
3.ブロックチェーンのデメリット
ここでは、ブロックチェーンのデメリットについて見ていきます。
主なデメリットしては、次のような点があげられます。
- 不可逆性
- プライバシー問題
- 時間あたりの取引数の少なさ
- システムのアップグレードが困難
- 法制度の未整備
3-1. 不可逆性
ブロックチェーンのメリットとして「2.1. 不正・改ざんの防止」をあげました。
ブロックチェーンは堅強なシステムであるがために、一度データが記録されると、あとからそのデータの削除はできません。また、そのデータは世界中にオープンとなるという性質をもつため、個人情報などを蓄積する用途には向きません。
ただし、プライベート型ブロックチェーンを使うことにより、データの集中管理ができますので、個人情報を扱うシステムについては、プライベート型を活用する方向だと思われます。
3-2. プライバシー問題
ビットコインは個人情報を登録することなく保有や送金が可能ですので、匿名性が高いと言えます。
一方で、ブロックチェーン上には、どのアドレスからどのアドレスへいくら送金されたかなどの情報がすべて記録されますので、そのアドレスを追っていけば、結果的に、その人の全ての取引記録を追跡することは可能になります。
アドレスと特定の個人情報が結びつけられてしまうと、その個人の保有残高や送金記録を知ることができてしまい、匿名性を担保できるとは言えなくなってしまいます。
この問題については、すでに対応が検討されており、新しく構築されたサービスでは改善されつつあると言われています。
3-3. 時間あたりの取引数の少なさ
一つのブロックを生成するために時間がかかり、短時間に多くの処理を行うことができません。
ビットコインでは、一つのブロックを生成するのに約10分かかると言われています。
つまり、送金などの処理に、取引が承認されて送金されるまでに、約10分かかることを意味しています。
また、ビットコインでは、一つのブロックに記録できるデータ容量が小さいため、一定時間に処理できる取引数も限らており、1秒間に約7件と言われています。
取引量が増えるにつれて、送金などの処理に、ますます時間がかかってしまいます。
この問題についても、処理速度、取引速度を向上されるべく、検討がなされています。
3-4. システムのアップグレードが困難
ブロックチェーンのメリットとして、「2.1. 不正・改ざんの防止」をあげました。
逆に言えば、システムの改造やアップグレードが難しい、と言えます。
一般的にブロックチェーンでは、分散して管理されているため、システムの開発者でもそのシステムを改造やアップグレードすることは困難と言われています。
ただ、システムの改造やアップグレードが不可能ということではありませんので、必要不可欠の場合は、膨大な時間と資金を投入して実施することになると思います。
3-5. 法制度の未整備
ビットコインのような仮想通貨は、新しい考え方、新しい技術です。そのため、まだまだ法整備が整っていません。
冒頭のFacebookのLibraについは、記憶に新しいところです。
Libraについては、アメリカでは、FRB(米連邦準備制度理事会)などの規制当局や議会から強い批判を浴びています。
EUでは、規制などの課題が解決されるまでは、EU域内での事業開始を認めないと決定しました。
日本では仮想通貨に関する法律ができたため土壌はできているといえますが、有識者のなかには、慎重に対応すべきだという人もいます。一つの国内にとどまらず、全世界に波及する問題です。世界規模での合意形成が待たれるところです。
4.ブロックチェーンの今後の動向
ブロックチェーンには、多くのメリットがあると同時に、デメリットもあります。
ブロックチェーン自体は、さまざまな「記録」の信頼性を高めることができる技術ですので、仮想通貨はじめ、金融取引以外のビジネスにも利用するができます。
個人情報などを始めとして、データそのものに高いセキュリティが求められてきた分野はたくさんあります。
これまでは、中央集権型システムで莫大な時間と資金をかけてセキュリティを維持管理してきました。
このような従来のシステムや考え方(設計思想)をもとにした既存のセキュリティ技術に加えて、ブロックチェーンによる記録の信頼性を融合されることで、より安価に、かつ、セキュリティを高度化することが可能になるケースは多いと考えられます。
例えば、都道府県、市区町村などの公共サービスにおいては、企業や個人のデータを紐付けて管理する必要があり、ブロックチェーンの技術が活躍しそうです。
また、公共性の高い、企業間や個人間での電力取引を始めとして、数多くのデータの記録にもブロックチェーンが力を発揮するものと考えられています。
こうして見てくると、ブロックチェーンの信頼性は、今後社会インフラの一部として組み込まれていくことが予想されます。
いきなりすべてのシステムがブロックチェーン化されることはありませんが、既存のシステムとブロックチェーンとを組み合わせて、双方のメリットを「いいとこ取り」することによって、
より安価で、スピードや利便性を向上させたサービスが、これからも次々に登場してくるものと考えられます。
5.まとめ
今回は、ブロックチェーンについて見てきました。
ビットコインなどの仮想通貨で使われているブロックチェーンは、ユーザーみんなで管理する分散システムです。
改ざんを防止するための堅強なシステムであるというメリットがある一方、個人情報などを載せる場合にはリスクが伴うなどの問題点もあります。
ブロックチェーンは、仮想通貨などのシステムを構築するための、一つの技術・ツールにすぎませんので、私たち、そのシステムを使うユーザーとしては、過度に心配する必要はないかもしれません。
しかし、今後、皆さんが仮想通貨をはじめ、いろいろなサービスを使用し始める場合、そのサービス提供企業自体の信頼性(有名な大企業であること)で選択するのもよいと思いますが、
どのような技術が使われているかについて、注意して見ていくことにより、より安心してそのシステムを利用できるようになるのではないでしょうか。