消費税増税で便乗値上げはしてもいいの?

消費税 便乗値上げ

消費税の税率が上がるときに話題になるのが、便乗値上げです。消費税が上がるタイミングで、税抜の本体価格まで値上げする企業や飲食店や小売店などがあります。

政府は、消費税率の引き上げを理由とした便乗値上げをしないよう求めていますが、その一方で、「需要に応じて値上げを行うなど、経営判断に基づく自由な価格設定は妨げない」とも説明しています。

何が「NG」の便乗値上げであり、何が「OK」な正当な値上げに当たるのでしょうか?
細かく見ていきます。

1.税込価格表示の商品などは増税とともに価格が上がる

税込価格を表示して販売している商品やサービス(以下、商品など)は、増税とともに値上がりします。

例えば、これまで「税込価格108円」だった商品などが、2019年10月1日から「税込価格110円」で販売されるので、消費者は「値上がりした」と感じるでしょう。
しかしこのケースは、便乗値上げとはいいません。それは税抜本体価格を値上げしていないからです。

便乗値上げと認定されるのは、例えば「税込価格108円(税抜本体価格100円、消費税8円)」だった商品などを「税込価格121円(税抜本体価格110円、消費税11円)」で販売したときです。
ただこの場合でも、合理的な理由があれば便乗値上げには該当しません。

2.便乗値上げはNG

それでは政府が警戒している便乗値上げとは、どのような値上げなのでしょうか。

2-1.何が便乗値上げに該当するのか

消費者に合理的な理由を説明できない税抜本体価格の値上げは、便乗値上げであると指摘されるでしょう。

例えば、製品になんらの改良も加えられてなく、原材料などの製造コストも変わっていないのに、消費増税のタイミングで税抜本体価格が上がれば、便乗値上げが疑われます。

2-2.便乗値上げをしても罰則はない

ただ、便乗値上げをしても罰則はありません。さらに一般の消費者が、企業の原材料などの製造コストを知ることはほぼ不可能なので、便乗値上げを指摘することは難しいといえるでしょう。

しかし明確に便乗値上げであることを証明できなくても、消費者には「消費者感覚」があります。消費者が小売店などで税込価格の表示をみて「消費増税分より値上がりしている感じがする」と思ったら、自然とその商品などに手を伸ばさなくなるはずです。
これは企業にとって、罰則以上に効果がある「便乗値上げ抑止力」となるはずです。

消費者が便乗値上げであると感じたら、消費者庁に相談することができます。相談窓口の電話番号は以下のとおりです。
03-3507-9196(消費者庁消費者調査課)

3.便乗値上げではない、正当な値上げとは

政府が考える正当な税抜本体価格の値上げとは、次の項目に当てはまるものです。

  • 経済・労働などの社会情勢に応じた値上げ
  • 増税とは関係のない経営判断による値上げ
  • 自由競争の下で需給の動向やコストの変動などを反映した値上げ
  • 値上げの理由を消費者に説明できる値上げ
  • 原材料価格や人件費の高騰による値上げ
  • 駆け込み需要(消費税率引き上げ前の需要の高まり)に対応した値上げ

こうした税抜本体価格の値上げは、消費増税の前後に行ってもまったく問題ありません。

4.税抜価格と税込価格と値上げについて

スーパーマーケットなどの小売店で買い物をすると、税抜価格を表示している店と、税込価格を表示している店があることに気がつくと思います。
国税庁は、税込価格の「総額表示」を義務付けていますが、税抜価格の表示のほうが値上げしづらい、という事情もあります。

4-1.表示方法で値上げのしやすさが変わる?

税抜価格を表示している小売店は、増税後に値上げしづらいでしょう。なぜなら、例えばこれまで「税抜100円」と表示していたものを「税抜110円」にすれば、すぐに消費者に気づかれてしまうからです。

一方で、税込価格の表示をしている店は、値上げしやすいかもしれません。例えば、消費税8%のときに「税込価格153円」と表示していた商品を、10%になってから「税込価格159円」と表示したとします。これは2ポイントを超えて上昇していますが、しかし消費者が店頭ですぐにその計算することは簡単ではありません。

税込価格153円の内訳は、税抜本体価格142円、消費税8%11円となり、税込価格159円の内訳は、税抜本体価格145円、消費税10%14円となるので、この店は税抜本体価格を3円上げています。
ちなみに消費税額算出で1円未満の端数が生じたときは、四捨五入をしても切捨て・切上げしてもかまいません。ここでは1円未満を切り捨てで算出しています。

4-2.総額表示が義務付けられている理由

政府が小売店などに総額表示(税込価格表示)を義務付けているのは、消費者が値札をみたときに、支払い総額がわかるからです。つまり消費者の利便性を考えての措置なのです。
店頭の表示やチラシ、広告で価格を知らせるときは、総額表示でなければなりません。

4-3.総額表示の義務の対象外になるもの

総額表示の義務の対象外になる取引もあります。例えば事業者間の取引では、総額表示をしなくても問題ありません。

また、小売店によっては価格をまったく表示していないところもあり、その場合は総額表示を強制されることはありません。

さらに、2021年3月31日までは特例が設けられていて、「表示する価格が税込価格であると誤認されないための措置」を取っていれば、総額表示でなくてもかまいません。例えば、店内に大きく「当店は税抜価格を表示しています」と明示すれば、それは誤認されない措置といえます。

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まとめ

消費者は便乗値上げがされていないかどうかチェックしましょう。企業などは便乗値上げをしないようにしましょう。

ただ、単に、消費増税と同じタイミングで税抜本体価格が値上がりしただけでは、ただちに便乗値上げと認定されるわけではありません。消費者が納得できる理由があれば、値上げをすることは自由です。

服部
監修
服部 貞昭(はっとり さだあき)
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を2000本以上、執筆・監修。
「マネー現代」にも寄稿している。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
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