日銀の長期金利上昇の容認で住宅ローンの金利はあがるのか?

金利 上昇

この政策変更の内容と、住宅ローン金利に与える影響を解説します。

1.今回の日銀の金融政策の変更内容

1-1.黒田総裁就任以来の金融政策の振り返り

バブル崩壊以降、日本は長期間にわたってデフレ(物価(主に消費者物価)が、長期間にわたって持続的に下落すること)に苦しめられていました。

1-1-1.異次元緩和の開始

そこで、2013年4月に就任した黒田総裁(現在2期目)は、より積極的な金融緩和策である「異次元緩和」政策を採りました。異次元緩和は、日銀が、長期国債を始めとする資産の買い入れを行うことと、マネタリーベース(日銀が供給する通貨の総量)が年間80兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行うことを柱としています。

1-1-2.マイナス金利政策の導入

次に、2016年2月に、「究極の金融緩和」ともいえる現在の「マイナス金利政策」を導入しました。マイナス金利政策とは、日銀が銀行から預かる当座預金のうち、「政策金利残高」に対しマイナス0.1%の金利を適用するものです。金融機関は、日銀に預け入れると損をする(利子を払う必要があるため)ことになるため、その資金を融資や投資に振り向け、結果として物価上昇につながることが期待されました。

1-1-3.イールドカーブ・コントロールの導入

2016年9月には、今度は「日銀が長期金利を0(ゼロ)%程度に誘導する、いわゆるイールドカーブ・コントロール政策」を導入しました。短期金利ならともかく、中央銀行が長期金利を操作することは極めて異例です。これにより、短期金利に加え長期金利も低位に抑えられるようになりました。その結果、債券(国債)市場はほとんど動かなくなり、流動性が極端に低下するなどの弊害(副作用)が生じました。

1-2.2018年7月31日の金融政策変更の内容

黒田総裁は、これらの政策を「物価が2%に上昇するまでやり抜く」と強い決意で臨みましたが、就任から5年半が経過した今でも、物価上昇率は2%に遠く及びません。そのため、先日7月31日に、「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」と題する追加措置を決めました。
この措置の主旨は、次の二点です。

  • 極めて低い金利水準を当分の間維持することを約束する(政策金利に関するフォワードガイダンス)。
  • 長期金利は、経済・物価情勢である程度変動することを容認する。

このうち注目すべきは、何といっても後者です。日銀は、前述のイールドカーブ・コントロールの導入時に、「長期金利を0%程度に誘導する(変動幅はおおむねマイナス0.1%~プラス0.1%程度を想定)」としていましたが、黒田総裁は記者会見で、「(長期金利の)変動幅はおおむねマイナス0.1%~プラス0.1%の幅から、その2倍程度に変動しうるのを念頭に置いている」と明言しました。
市場ではこれを、「事実上の(プラス0.2%程度までの)長期金利上昇容認」、「金融政策の出口に向けた第一歩」と解釈しました。そして、長期金利が上昇すれば、当然住宅ローン金利も上がります。では、現在の住宅ローン金利は上がっているのでしょうか。詳しく見てみましょう。

2.住宅ローンに与える影響

2-1.現在の長期金利

債券市場では、7月31日の日銀の金融政策決定会合を睨み、その一週間ほど前から長期金利が上昇傾向にありましたが、この政策変更が発表されると、翌8月1日に長期金利は、前日の0.046%から0.134%へ急上昇(債券価格は急落)しました。国債先物(債券先物)も急落し、取引一時停止措置が取られるほどでした。
しかしながら、翌日から長期金利は落ち着いて少しずつ低下に向かい、現在(8月17日)は0.090%となっています。

2-2.長期金利が落ち着いている理由

長期金利は、黒田総裁が言及した上限の0.2%にはまだ上昇していません。一番の理由は、市場参加者が日銀の真意をつかみかねており、この「上限」の解釈について見方が分かれているからです。つまり、「黒田総裁は、今すぐに0.2%まで上昇することは容認しないのではないか」という見方が次第に増えてきているのです。

2-3.住宅ローンに与える影響

先ほど、「長期金利が上昇すれば、当然住宅ローン金利も上がる」と言いましたが、これには補足が必要です。というのは、住宅ローンの借入期間は1年~35年と幅が広いので、すべての年限において長期金利の影響を受けるわけではないからです。
一般的に、長期金利の上昇に影響を受けるのは、固定金利で、借入期間7年以上(7年、10年、20年、30年、35年など)です。借入期間3年や5年など短い期間の固定金利は、長期金利の影響はあまり受けません。そして、変動金利は、長期金利ではなく短期金利(正確には、短期金利の変動を受けた短期プライムレート)の影響を受けます。

2-4.現在の住宅ローン金利

住宅ローン金利について、日銀の政策変更前の2018年7月適用分と2018年8月適用分を、主要10行(みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、りそな銀行、三井住友信託銀行、ソニー銀行、イオン銀行、住信SBIネット銀行、楽天銀行、じぶん銀行)の最低金利(最優遇金利)で比較してみると、実は各年限とも水準はほとんど変わっていません。
長期金利の影響を最も受ける固定金利10年は、0.690%~1.150%で、7月から8月で5行が変更しましたが、いずれも微修正といえます。10行中7行は1%未満です。20年、35年(フラット35)も傾向は同じです。
変動金利は、メガバンク3行はいずれも0.625%、その他7行は0.457%(3行)~0.570%で、全行7月と同じでした。他の2年、3年、5年においても4行で微修正があったのみです。
つまり、「現時点では、住宅ローン金利は、(どの年限においても)今回の日銀の政策変更の影響をほとんど受けていない」ということができるでしょう。

2-5.今後の住宅ローン金利の展望

しかしながら、この住宅ローン金利の落ち着いた動きが今後も続くとは言い切れません。前述の日銀の政策変更は7月31日と月末に行われたため、それより前にすでに8月分の金利を決定していた銀行もあり、政策変更が住宅ローン金利にまだ十分に反映されていない可能性があります。

2-5-1.長めの住宅ローン金利

そして、客観的に見て長期金利は、やはり0.2%に向かって上昇するものと思われます。それに伴い7年以上の住宅ローン金利は上昇することになるでしょう。

2-5-2.変動金利

短期金利に連動する変動金利は、その意味では、少なくともあと1年~1年半くらいは、上昇する可能性はほとんどないでしょう。しかしながら、前述のとおり、日銀の金融政策について「出口」の議論は絶えずついて回ります。
入口がある以上必ず出口はありますので、住宅ローンを変動金利で借りている人は、経済・金融情勢を常時ウォッチして、「変動金利の急上昇→未払い利息の発生」という最悪の事態を防がなくてはなりません。アパートローンについてもこれらのことは全てあてはまります。

2-5-3.一転、金利低下の可能性も

なお金融政策については、可能性は小さいものの、「逆に、さらにマイナス金利を深掘りする(長短金利の誘導目標を引き下げる)」こともないわけではありません。日銀の金融政策決定会合の一部の審議委員にも、追加緩和を声高に主張するメンバーがいます。経済指標が急激に悪化した場合はこの可能性があり、そのときはほぼ間違いなく、住宅ローン金利は全年限にわたって低下するでしょう。

2-6.金融政策の変更が生活に与えるその他の影響

長期金利の上昇は、住宅ローン以外にも私たちの生活にプラスとマイナスの両方のさまざまな影響を与えます。タイムラグを伴って副次的な影響が出ている場合もあります。
例えば、その他のローン(自動車ローン、カードローン、教育ローン等)には住宅ローンと同じような影響が出ます。一方、資産運用の観点からはプラスの影響も出ます。例えば、国債利回り上昇で、保険会社の貯蓄性商品の販売再開や予定利率上昇が期待されます。銀行をはじめとする金融機関の経営も改善するでしょう。ただし、長期金利の上昇は一般的には円高を招く傾向があるので、注意が必要です。

3.まとめ

見てきたように、今回の金融政策の変更は、住宅ローンをはじめ、私たちの生活に影響を与えます。これから住宅を購入する人や、アパート経営を考えている人は、特にしっかりその影響を見極める必要があるでしょう。
そのため、金融に興味がない人でも、日ごろから物価や景気動向に関心を持ち、新聞をしっかり読むようにしましょう。そうすれば、金融政策が本当に出口に向けて動き始めた場合でも、適切に行動し、資産を防衛することができるでしょう。

服部
監修
服部 貞昭(はっとり さだあき)
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を2000本以上、執筆・監修。
「マネー現代」にも寄稿している。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
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