2019年(平成31年)所得税の改正内容

保険料控除 配偶者控除

2018年12月に2019年度の所得税の改正が発表されました。

今回の改正では、消費増税に絡んだものや、減税と増税両方に関する改正があり、多くの人に関係してきます。

1.2019年の改正のポイント

2019年の所得税改正では、次のような特徴があります。

  • 増税へ向けた配慮
  • 社会問題の解決
  • 新制度への対応

今回の改正では、現状の内容を拡充することで、より使いやすくなった制度が多く見られました。一方で、新しく課税される税金も生まれており、制度への理解度が今後の家計管理に大きな影響を及ぼすでしょう。

2.住宅や土地関連の税制度

2-1.住宅ローン減税の特例制度

消費税増税によって大きな影響を与える購入物が住宅です。2%の増税でもローンの返済金額や期間への影響は計りしれず、増税前の需要を見据えた不当な値上げが行われる可能性が指摘されています。そこで、増税前の住宅需要の急増を防ぐために、住宅ローン減税制度が次のように拡充されました。

<改正前>
  • 対象:住宅ローンなどを用いてマイホームを購入し、2021年12月31日までに住んでいる人
  • 減税期間:住宅購入から10年間
  • 一般住宅の減税額:住宅ローンなどの年末残高×1%(上限4,000万円)
  • 認定住宅の減税額:住宅ローンなどの年末残高×1%(上限5,000万円)
<改正後>
  • 対象:2019年10月1日以降に住宅ローンなどを用いて住宅を購入し、2020年12月31日までに住んでいる人
  • 減税期間:住宅購入から13年間
  • 10年目までの減税額は従来どおり
  • 11年目からは、下記のうち少ない方
    ・住宅ローンなどの年末残高×1%
    ・住宅取得価額×2%÷3

改正後は、2019年10月1日以降に購入した住宅を対象として、従来よりも3年間減税期間が増加します。

ただし、11年目~13年目の減税上限は増税分の2%であることに注意が必要です。増税分を3年に分けて減税しており、増税分以上に減税されるわけではありません。そのため、増税前も増税後も負担額には大きな差は無く、好きなタイミングで購入できるようになりました。

2-2.所有者不明土地に係る譲渡所得等の特別控除の拡充

土地の登記などが不十分であるために所有者が不明のまま放置されている土地が問題となっています。そこで、所有者が不明な土地でも、自治体などが所有権を取得できる制度が作られ、この制度に基づいた税制度が拡充されました。

<譲渡による減税>
  • 要件1.確知所有者等が有する特定所有者不明土地又はその上に存する権利がある
  • 要件2.権利取得計画に記載がされた土地である
  • 譲渡所得2,000万円までの部分:14%(所得税10%、住民税4%)へ減税
  • 譲渡所得2,000万円を超える部分:20%(所得税15%、住民税5%)へ減税

土地の所有期間が5年未満のときは合計で39%(所得税30%、住民税9%)、5年以上の場合には合計20%(所得税15%、住民税5%)の税額が必要となるため、場合によっては半額以下の税額に収まります。

<収用による控除>
  • 要件:所有者不明土地が公共設備の拡充などを目的として収用された場合
  • 控除額:最大5,000万円

※どちらも2019年6月1日以後に行う譲渡へ適用

所有者不明土地でありながら所有者への減税・控除制度というと矛盾しているように思われるかもしれません。実は、探索した結果、所有者が見つかった場合、所有者にとってはそのまま所有しても売却しても税金が課税されます。

そのため、知らされていない所有者の負担を軽減し、素早く土地活用できるために設けられた制度です。関わりがない制度に見えますが、思わぬときに巻き込まれる問題でもあるため、しっかりと把握しておきましょう。

2-3.空き家に係る譲渡所得の特別控除の拡充・延長

所有者不明土地と同じく社会問題となっているのが空き家です。解体するのにも費用が必要となるため、住人がいないまま放置され、倒壊の危険性が増した空き家が急増しています。そこで、今回の改正では空き家を解消するべく次のように制度が拡充されました。

<改正前>
  • 相続開始直前(亡くなる直前)まで住んでいた自宅
  • 相続開始から3年後の12月31日までに相続した住宅、または住宅を除去した土地を譲渡した場合
<改正後>
  • 要介護認定を受け相続開始直前まで老人ホームなどに入所していたこと
  • 入所から相続直前まで住宅用として利用され、事業や価値付けされていないこと
  • 適用期限が2019年12月31日から2023年12月31日に4年間延長される

※2019年4月1日以後に行う譲渡へ適用

以前の制度では老人ホームなどに入所した場合には適用されず、利用できる相続人が少ないことが問題視されていました。

今回の改正では控除上限である3,000万円は変わりませんが、老人ホームなどに入所した場合も対象とされ、今まで以上に制度が使いやすくなりました。

3.ふるさと納税制度の見直し

今回の改正の中で納税者が最も興味を持っているポイントが、ふるさと納税制度の見直しです。自治体へ寄付をすることで、返礼品をもらいながら税金の控除が受けられると人気のふるさと納税。しかし、返礼品の内容や還元率の高さが問題となっていたため、次のように制度が厳格化します。

<見直し内容>
  • 指定を受けた自治体のみがふるさと納税の対象となる
  • 返礼品の還元率は30%以下
  • 返礼品は地場産品に限る

※2019年6月1日以後に支出された寄付金へ適用

今回の見直しによって、今までよりも還元率が低くなるだけでなく、例外が許されなくなりました。つまり、高還元率の返礼品をもらうために寄付をしても、指定された自治体でなければ控除が受けられません。

そのため、高還元率のふるさと納税を謳う詐欺などが現れる可能性があり、指定を受けた自治体なのかきちんとチェックする一手間が増えるでしょう。

4.源泉徴収における源泉控除対象配偶者等の見直し

働いている給与所得者にとって重要となる配偶者控除。実は、今回の改正で次のように控除の枠が改定し、事実上の増税となります。

<改正前>

  • 夫婦2人とも配偶者控除の対象となる場合にはお互いに控除できる

<改正後>

  • 2人とも該当する場合でも、どちらか片方しか適用できない

※2020年1月1日以後に支払われる給与や公的年金等、2020年分以後の所得税へ適用

配偶者控除は年収が150万円以下の場合に、最大で38万円の所得控除が受けられる制度です。そのため、2人とも年収が150万円以下で、それぞれ給与所得、年金所得の場合にはお互いに配偶者控除を指定することで、二重に控除が受けられていました。

そこで、こうした控除の二重活用を禁止するためにどちらか一方にのみ配偶者控除が可能になるように改正しています。今まで控除枠を2重に利用していた世帯では控除額が半分になるため、大幅な増税となる可能性があるため注意しましょう。

5.投資関連の制度変更

5-1.NISA制度の要件緩和

資産形成の1つとして人気を集めている株式などの投資。中でも、少額投資の際に控除などを受けられるNISAは幅広い層から注目されています。今回の改正では、このNISA制度も次のように変更します。

<改正前>
  • 海外転勤などにより一時的に出国する場合、保有していた商品は全て課税口座へ払い出される
  • 帰国後も払い出した商品はNISA口座に移動できない
  • NISA口座の開設はその年の1月1日時点において20歳以上
  • ジュニアNISA口座は20歳未満
<改正後>
  • 一時的に出国する場合でも継続適用届出書を提出すれば継続してNISA口座を使用できる
  • 対象期間:帰国届出書を提出した日、または、継続適用届出書を提出した日から5年後の12月31日の早い方
  • NISA口座の開設はその年の1月1日時点において18歳以上
  • ジュニアNISA口座は18歳未満

※年齢要件については2023年1月1日以後に設けられる口座へ適用

NISAの改正のポイントは、一時的な海外居住でも継続して利用できるようになったことと、成人年齢の引き下げに伴う対象年齢の引き下げです。

今まで利用できなかった、利用を諦めていた人でも活用しやすくなったため、投資などに興味を持っている人はこの機会に始めてみるのがおすすめです。

5-2.仮想通貨に関する取得価額の計算方法の明確化

新しい投資方法として注目されている仮想通貨。良いニュースも悪いニュースもありますが、若い世代を中心に投資が盛んに行われて国内外で活発化しています。今回の改正では、仮想通貨の取得価格の計算方法について、次のように明確化されます。

<改正前>
  • 移動平均法を用いる
  • ただし、継続して適用することを前提に総平均法を使用できる
<改正後>
  • 移動平均法、または、総平均法

変わっていないように見えますが、改正前は条件付きで総平均法を認めるなど、曖昧な定義でした。

一方、改正後は特別な要件などはなく、状況に応じてどちらでも利用しても良いことになっています。どちらの計算法でもトータルで計算すると結果は同じであるため、計算しやすい方法での確定申告ができるようになりました。

6.森林環境税及び森林環境贈与税の新設

所得税ではありませんが、所得税に関連した税金となります。

今回の改正から新しく設けられた税金が、森林環境税と森林環境譲与税です。どちらもまだ仮称ですが、森林整備などに必要な財源を確保することなどを目的にして創設されました。

森林環境税

  • 税率:1,000円/年
  • 納税:市町村の個人住民税と併せて徴収される

森林環境譲与税

  • 森林環境税の収入額を市町村や都道府県に譲与する
  • 譲与割合:市町村90%、都道府県10%

※森林環境税は2024年度から課税、森林環境譲与税は2019年度から譲与

森林環境譲与税は徴収した国が徴収した金額を分配するものであるため、私たちに関連するのは森林環境税のみです。

森林環境税は所得などに関係なく、1人あたり1,000円を納税しなければいけません。現在は控除制度なども発表されていないため、年間1,000円の増税が確実に行われることをしっかりと覚えておきましょう。

まとめ

2019年の改正では、住宅ローン減税やふるさと納税、森林環境税など、多くの人や世帯に関係のある制度が改正されました。さらに、空き家などの控除を利用できる範囲が広がったことで、便利な制度がより手軽に利用できるようにもなりました。

そのため、今回の改正ポイントで気になる点をしっかりと把握して、上手に節税へつなげましょう。

参考

過去の所得税の改正内容は、こちらをご覧ください。

服部
監修
服部 貞昭(はっとり さだあき)
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を2000本以上、執筆・監修。
「マネー現代」にも寄稿している。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
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