空き家を譲渡した場合の3000万円特別控除の特例
相続した家を利用せず空き家になってしまうケースが増えていますので、その空き家を売却した場合に3000万円の特別控除を受けられる制度ができました。
目次
1.空き家の譲渡所得の3000万円特別控除の概要
制度の目的
国土交通省では「空き家の発生を抑制するための特例措置」と呼ばれており、年々増加する空き家を抑制することを目的に創設された制度です。最大3,000万円を所得から控除することができ、相続人が空き家を手放しやすくなります。
「居住用財産を譲渡した場合の特別控除」や、「居住用財産の買換えに係る特例」とも併用できますので、これらとあわせれば高い節税効果が得られます。
制度概要
国税庁では「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例」と呼ばれています。一定の条件を満たす家屋または土地の譲渡所得から3,000万円を特別控除する制度のことです。2016年から制度の運用が開始されました。
適用期間 | 2016年4月1日~2023年12月31日(※) |
---|---|
家屋の要件 | ・相続直前に被相続人が居住していたこと ・非相続人以外に居住していた者がいないこと ・1981年5月31日以前に建築された家屋であること ・相続開始後、譲渡時まで誰も使っていないこと |
譲渡の要件 | ・譲渡価額が1億円以下 ・家屋を譲渡する場合は現行の耐震基準に適合するものであること |
特別控除額 | 3,000万円 |
※適用期間は、2019年の税制改正で4年間延長されました。
2.空き家の現状と税制の課題
空き家の現状…年々空き家戸数が増えている
空き家の状況については総務省による「住宅・土地統計調査」によって把握できます。これは5年ごとに調査されており、最新が2013年住宅・土地統計調査結果です。
この調査によれば2013年時点の空き家の総戸数は820万戸で、2008年調査の659万戸よりも大幅に増えていることが分かります。また、2013年時点では日本に約6,000万戸の住宅があり、そのうち13.5%が空き家なのです。こうしたことを受け、国土交通省では「空き家の抑制」が喫緊の課題であると判断しています。
不動産を売却すると譲渡所得に所得税が課される
通常、相続した不動産を譲渡すれば、「譲渡所得税」が課税されます。譲渡所得税は譲渡益に対して所得税が課されるもので、下記の通りに計算します。
所得税額=譲渡益×譲渡所得税率
譲渡所得税率には、所有期間:5年を境に「短期所得税率」と「長期所得税率」の2種類があります。
譲渡した年の1月1日時点の所有期間が5年以下の場合は、短期所得税率:39%(所得税30%、住民税9%)が適用されます。
譲渡した年の1月1日時点の所有期間が5年超の場合は、長期所得税率:20%(所得税15%、住民税5%)が適用されます。
空き家を相続で取得した場合は、取得日は引き継がれ被相続人が取得した日が取得日となりますので、たいていの場合、長期譲渡所得となりますが、それでも20%の税率が課されるため、処分に躊躇するケースもありました。
3.制度の対象になる空き家とポイント
「空き家の譲渡所得の3000万円特別控除」の適用を受けるにあたって、3つのポイントがあります。
相続発生日を起算点とした適用期間について
この特例の適用期間は2016年4月1日~2019年12月31日であり、この期間中に譲渡することが必要になります。
なお、相続発生後4年目に入る12月まではこの特例を受けられます。つまり、2016年1月2日~12月31日までに相続があった人も、2019年12月31日までは申請ができます。
相続した家屋・敷地について
特例の対象となる家屋は「空き家」である必要があります。「空き家」かどうかは、下記の4つの条件全てに当てはまる物件となります。
- 相続開始直前まで被相続人の居住用に供されてきた
- 相続開始直前まで被相続人だけが居住してきた
- 1981年5月31日以前に建築されている
- 相続開始から譲渡までの間に事業、貸付、居住の用に供されていないこと
相続後、空き家の家屋、または、家屋と敷地の両方を譲渡することもできますし、空き家を取り壊して更地にした土地だけを譲渡することもできます。
譲渡そのものについて
譲渡時には下記の2つの条件を満たす必要があります。
- 譲渡価格が1億円以下の不動産である
- 家屋を譲渡する場合は耐震基準に適合する
家屋を譲渡する際には、耐震性基準を満たさないときは、耐震リフォームを行ってから譲渡する必要があります。
家屋を取り壊して更地の土地を譲渡するときは、耐震リフォームは関係ありません。
4.特例措置のメリットとデメリット
メリット
この制度を利用する最大のメリットは、税金の負担を少なくして空き家を処分できることです。空き家となっている家屋・土地を売却して、それを相続税の支払いに充てることもできます。
また、空き家が無くなることで管理する手間を省けるのもメリットと言えるでしょう。管理だけでも大変な手間になるので、それが減るのは嬉しい点です。
デメリット
空き家のまま譲渡してこの制度を利用するには、リフォームが必要になるケースもあります。売却するためにももちろんですが、あわせて耐震基準等も満たす必要があるからです。
また、土地だけ売却するにしても空き家を解体しなければなりません。この場合も解体費用が発生するので、相続人にある程度の負担が発生します。
そのほか、買い手を見つける必要があります。買い手が見つからなければ、売値を下げる必要もあり、満足のいく売却にならないこともあります。
5.特例措置を受けるための必要書類
特例措置を受けるためには下記の書類を税務署に提出する必要があります。詳細は税理士などにご相談ください。
家屋または家屋と敷地を譲渡する場合
- 譲渡所得の金額の計算に関する明細書
- 被相続人居住用家屋及びその敷地等の登記事項証明書等
- 被相続人居住用家屋又はその敷地等の売買契約書の写し等
- 被相続人居住用家屋等確認書
- 被相続人居住用家屋の耐震基準適合証明書又は建設住宅性能評価書の写し
家屋の取壊し、除却又は滅失後の敷地等を譲渡する場合
- 譲渡所得の金額の計算に関する明細書
- 被相続人居住用家屋及びその敷地等の登記事項証明書等
- 敷地等の売買契約書の写し等
- 被相続人居住用家屋等確認書
6.他の特例との併用、選択
住宅関連には各種の特例制度がありますが、「空き家の譲渡所得の3000万円特別控除」はこれら各種の特例と併用、選択することができます。
居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除との併用
マイホームを譲渡した場合に譲渡所得から3,000万円を控除できる特例ですが、これと併用できます。ただし、両方合わせて上限3,000万円となります。
居住用財産の買い換え等に関わる特例との併用
マイホームの買い換え等に関わる特例には次のようなものがありますが、これらと併用できます。
住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)との併用
返済期間10年以上の住宅ローンを利用してマイホームを購入したときに利用できる控除制度ですが、これと併用できます。
相続税の取得費加算の特例との選択
相続により取得した不動産を、相続税の申告期限から3年以内に売却したときは、相続税として支払った金額の一部を譲渡所得の計算上「取得費」に加算することができる特例ですが、これとはどちらかの選択になります。