農家にも大影響、インボイス制度と農協特例
2023年10月から始まるインボイス制度が、農家に大きな影響を与えます。 特に、中小零細農家にとっては、死活問題とな…[続きを読む]
「インボイス制度は個人事業主に消費税を正しく納めてもらうための制度」というイメージはありませんか? この記事では、インボイス制度が導入された結果、一般家庭の家計にどのような影響が出るのか、生活必需品などの値段がどう変わるのか解説します。
目次
インボイス制度で値上がりが見込まれるのは主に、個人事業主が多い業界が提供する商品・サービスです。具体的には次の通りです。
日本の農家の零細農家の多くは消費税の免税事業者(インボイスを発行できない事業者)です。
インボイス制度では、スーパーなど小売店がそうした農家から仕入をしても、仕入税額控除を利用することができません。
なお、「仕入税額控除」については聞き覚えがない方も多いかと思いますが、「事業者がモノやサービスを購入する時、仕入税額控除を使えないと事業者の利益が減ってしまう」という事だけ分かっていれば十分です。
話を戻して、インボイス制度導入後、インボイス制度に対応できない零細農家からの仕入れにおいて、スーパー等、小売店側の利益は少なくなってしまいます。
結果として食品の値段が上がる可能性があります。
なおこれは小売店や食品加工工場が農家から直接仕入をしているケースが該当します。農協などに委託販売をしている場合はインボイスの発行は免除されます。
先ほど挙げた「食料品」と同様の理屈です。
日本の農家には免税事業者が多いため、インボイス制度の開始後は飲食店側の負担が増えて価格に転換される可能性があります。
特に、食材にこだわっている飲食店ほど負担増が見込まれます。
2024年1月以降、物流を担うトラックドライバーの手が足りなくなることが見込まれています。
これを「物流の2024年問題」と言って、ドライバーの収入減や運送業者の廃業などが起き、物流にかかるコストが上昇するだろうと言われています。
この問題に拍車をかけるのがインボイス制度の導入です。
運送業者には免税事業者(インボイスを発行できない事業者)が多いこともあり、インボイス制度においては、こうした運送事業者に商品を運んでもらうとなれば、仕入税額控除が利用できず、荷主の負担が増えることになります。
といって、自社でドライバーを雇ったり、インボイスを発行できる課税事業者の運送業者に依頼をするとしてもやはり今までよりもコストがかかる結果になるでしょう。
いずれは配送料の値上げという形で、私たちにも負担のしわ寄せがくる可能性は高いと言えます。
漫画家、作家、イラストレーターにも免税事業者の個人事業主は多いです。
そして、彼らから原稿を仕入れる出版社からすると、今後は仕入税額控除を利用できず原稿を仕入れる際の負担が増加するために、書籍や雑誌、漫画の価格上昇につながる可能性があります。
CMなどで「これからは電気は自分で作る時代」なんてフレーズを聞いたことがある人もいるでしょう。
現在は一般家庭でも太陽光パネルなどで発電し、電力会社に電力を売ることが可能です。
電力会社に電力を売る一般家庭は多くが免税事業者であり、電力の販売のために課税事業者に転向するとは考えにくく、電力会社は電力の買取の際に仕入税額控除を利用できなくなります。
こうして、インボイス制度が始まれば電力会社が電力を買い取る際の負担が増えます。
電力会社の負担増について、経済産業省は毎月の電気料金(再エネ賦課金)に上乗せする方針を発表しています。
こちらは前述の「ネットの配送料」と同様の構造です。
引越しというと「サカイ引越センター」や「アート引越センター」などの大きな引っ越し業者が思い浮かびますが、日本には引越を請け負う免税の運送業者も多くいます。
事業者がオフィスや事務所の引越をする際にそのような免税事業者を利用している場合、インボイスが発行できず、仕入税額控除を利用することができません。
結果、こうした零細な運送事業者が事業者からの依頼を受けることができなくなると、引越業界全体の市場価格も上がっていく可能性があります。
免税事業者のタクシー会社、個人タクシーはインボイスを発行することができません。
ですが、ビジネスでタクシーを利用する場合、仕入税額控除を適用するのにインボイスが必要です。
インボイス制度導入後は、インボイスに対応しているタクシー会社への需要が高まり、一方で、免税事業者のタクシー会社、個人タクシーはビジネスマンからの配車依頼を受けにくくなるでしょう。
このことは、免税事業者のタクシー会社、個人タクシーの売上に大きな影響を与え、タクシー運転手が淘汰される可能性があります。
結果として、タクシーの賃料もいずれは値上げとなる可能性は高いでしょう。
車の修理が必要になったら、ディーラーに依頼するという人が多いでしょう。
修理の依頼を受けたディーラーは、下請けの板金屋に作業を依頼することになります。
ディーラーから依頼を受ける板金屋の中には免税の零細業者も多く、インボイスを発行することができません。
下請けに対して強気な態度をとるディーラーが多いことをふまえると、仕入税額控除を利用できない分、下請けの板金屋が値下げを要求され、打撃を受ける可能性は大いにあります。
結果としてこうした零細業者が数を減らしていき、車の修理にかかるコストが上がっていく可能性があります。
建築業界でも、現場を担う下請け業者の多くが「ひとり親方」や零細業者で、免税事業者、つまりインボイスを発行できない事業者であることが多いです。
建築業者が新しい家を建てる時、免税事業者のひとり親方や零細業者に依頼をすれば、インボイスを発行してもらうことができず、仕入税額控除は利用できません。
このため、建築業者にかかる負担が大きくなり、その負担が住宅の価格に転換される可能性があります。
前項で、インボイス制度の導入により新築住宅の価格が上がる可能性があるとお伝えしました。
そうなれば当然、いずれは家賃にも影響がでると見込まれます。
インボイス制度で値上がりしそうなモノやサービスについて駆け足で紹介しましたが、もう少しだけ詳しく、インボイスとは何か、どうして値上がりにつながるのか紐解いていこうと思います。
まず、そもそもインボイス制度とは、
請求書やレシート、領収書に正しい消費税を記載しましょうね
という制度で、「正しい消費税を記載した請求書」等のことを適格請求書(インボイス)と呼ぶことになります。
これだけ聞くと、なんだか大したことない制度のようにも思えますが、事業者全般に大きな負担となる制度で、その負担は一般家庭にも「値上げ」という形で跳ね返る可能性が大いにあるんです。
どうしてそうなるのか見ていきましょう。
前章で、インボイス制度について、
と説明しましたが、実はもう一点、重要なポイントがあります。
それは、
ということ。
会社で経理などを担当していない限り、「仕入税額控除」という言葉に聞き覚えがない人も多いかと思います。
詳しい説明は割愛しますが、重要なのは、
ということ。
それさえわかれば、事業者がモノ・サービスを購入する時、仕入税額控除は絶対に利用したい控除だということも納得いただけるかと思います。
これをふまえて、インボイス制度が事業者に与える影響について次のように言うことができます。
インボイス制度開始後は……
ここまで、インボイスを発行できない相手からモノや商品を購入すると、買い手の事業者の利益が減るという話をしましたが、「だったらみんなインボイスを発行すればいいだけの話では?」と思う方も多いと思います。
ですが、ここでもう一点重要なポイントがあります。
それは、
ということ。
課税事業者というのは、消費税を納税する義務のある事業者のこと。一方、日本には消費税の納付を免除された「免税事業者」も多く、多くの個人事業主が免税事業者に該当します。
インボイスを発行できないと事業者からの注文は減るかもしれない。
でも、インボイスを発行するにはこれまで免除されていた消費税を納付しないといけない。
ということで、個人事業主にとってインボイス制度は悩ましい制度で、インボイス制度の導入に伴い廃業を検討する個人事業主がいるというのも事実でしょう。
ここまで、インボイス制度とは何か、事業者にどんな影響をあたえるのかについてお話ししました。
では、どうしてインボイス制度の開始によって一般家庭にも影響が出るといえるのでしょうか。
主なパターンとしては次の3通りがあります。
具体的にはどんなモノ・サービスの値段があがるのかは、第一章で説明した通りです。
インボイス制度で値上がりが予想されるものとしては次のものが挙げられます。
値上げの流れには次のようなパターンが考えられます。