2020年アメリカ大統領選挙は何が違うのか?女性が民主党の副大統領候補に
日本時間8月12日、民主党バイデン氏が、副大統領候補にカマラ・ハリス上院議員を選んだことを発表しました。また、共和党の大統領候補となるトランプ氏の指名受託演説は、党大会の場所とは別に、ペンシルベニア州ゲティズバーグかホワイトハウスで行うつもりであるとのことです。
今年はアメリカ大統領選挙の年です。トランプ氏が大統領に就任して以来、米中の対立は激しくなり、それは貿易交渉の域を超えています。そして、コロナ禍により、今はアメリカ国内外において混乱、対立が頻発しています。
このような中で、民主党は早々にベテラン政治家のバイデン氏を事実上大統領候補に選びました。そして、目下大統領選挙に関連する最大の関心事は、バイデン氏が誰を副大統領候補に選ぶか?となっています。
既に、女性を選ぶことをコミットしている民主党ですが、何故女性なのでしょうか?その背景と真意を分かり易く解説します。
目次
1.2020年アメリカ大統領選挙の今後の日程について
4年ごとに日本のメディアでも大々的に取り上げられて、見方によっては日本の首相が誰になるかよりも日本人の関心も高いかもしれないアメリカ大統領選挙が、今年も近づいています。
けれども、今年はコロナ禍の影響で、大規模な選挙運動や集会が出来ないこともあり、異例の展開となっています。そのため、日本のメディアでの取り上げ方も普段とは違っていて、そのことに違和感がある人も多いのではないでしょうか?
アメリカでは、2大政党である民主党と共和党がそれぞれ党大会において、正式に大統領候補を選出することになっています。今年のスケジュールを簡単に確認しましょう。
1-1.共和党大会
8月24~27日に予定されている共和党大会は、開催地は南部フロリダ州の州都であるジャクソンビルとなっています。
フロリダ州は、現州知事が共和党であり、トランプ大統領が希望する規模の党大会を開催することを受け入れたことから、当初の予定地である南部ノースカロライナ州シャーロットから変更されています。
現職大統領が任期1期目の場合、通常は現職大統領が大統領候補に選ばれるため、2期目への期待感を盛り上げることが党大会のミッションとなります。
1-2.民主党大会
当初は7月に予定されていましたが、コロナの感染拡大を懸念して2020年8月17〜20日に延期されました。開催場所は、イリノイ州シカゴの隣に位置するウィスコンシン州のミルウォーキーです。
大統領を出していない党では、通常は、この党大会までに候補者を一人に絞り込めずに、複数の候補者がこの党大会において最終投票で競い合い、大統領候補が決まることも多いのですが、今年は早々とバイデン氏に決定されています。そのため、この民主党大会でも、そのミッションは、バイデン氏を大統領候補として現職のトランプ氏を破るために、党の結束を図り、気運を盛り上げることになります。
8月に2つの党大会が、ほぼ同じタイミングで開催されるのは極めて異例のスケジュールですが、党大会が終わると11月の投票までに、3回の大統領候補によるテレビ討論会と1回の副大統領候補によるテレビ討論会が行われることになっています。
2.2020年大統領選挙の最大の注目点は民主党副大統領候補者
民主党のバイデン氏は、副大統領候補を女性にすると明言していて、現在民主党幹部も交えて、その副大統領候補の選任作業が行われています。
今は、数人まで絞られているそうですが、多くの民主党の有力議員や知事などの名前が挙がりました。そして、コロナ禍と黒人差別問題を発端とする人種差別問題が激しくなるにつれて、女性に加えて、複数の条件が追加されて候補者が絞られています。
現在、民主党の副大統領候補は、「女性、有色人種、リベラル」が条件となっているようです。
2-1.何故「女性、有色人種、リベラル」なのか?
バイデン氏、トランプ氏、ペンス氏(現副大統領)は、すべて「男性、白人」であり、今のアメリカ社会で最大の問題になっているコロナ禍と人種差別問題においては、「男性、白人」は、一般大衆にとって潜在的に対立する属性であるという点が同じで、大枠として個性を発揮する余地が限られています。
特に、共和党の現職であるトランプ氏とペンス氏は、「男性、白人、超保守」と偏ったバランスとなっています。
一方、民主党は、この部分に焦点に当てることとして、「女性、有色人種、リベラル」な存在感のある人を副大統領候補にすることで、前向きな差別化が図れることが期待されると踏んでいます。
2-2.「女性、有色人種、リベラル」な政治家を求めるのはアメリカの閉塞感
アメリカ大統領選挙は、4年ごとに、日常的にアメリカ社会に蔓延する閉塞感を打破する気運を高めるトリガーであるとも言えます。
それは、特にオバマ氏が大統領に選ばれた時から鮮明になっています。
「初の黒人大統領、若さ、社会融和策」を掲げたオバマ氏に期待して、その次は「白人、アメリカの伝統回帰(保守)、非政治家」のトランプ氏に期待が集まり、結果として大統領に選ばれたわけです。経済政策で一定の成果を出していたトランプ大統領の2期目は確実だと思われていたところに、世界中がコロナ感染に見舞われて、その状況は急変しました。
そして、コロナ禍と黒人差別問題が発端となり、「白人、男性」がリードする政治に対する潜在的な不満が一気に顕在化した中で、閉塞感を打破する「何か」を一般大衆が副大統領候補に求める声が大きくなったわけです。
そのキーワードが、「女性、有色人種、リベラル」であり、今回の大統領選挙で民主党の副大統領候補だけが、この条件を満たすことが可能となるため、現在大統領選挙の最大の注目点が民主党の副大統領候補という状況となりました。
2-3.「女性、有色人種、リベラル」を満たす候補者は誰か?
ここで重要なのは、この条件を満たしながらも、一般大衆が求めているのは政治の素人ではないということです。それくらい、現在のアメリカのコロナ禍と人種差別問題は深刻です。
以下、簡単に現在注目されている候補者を見ていきたいと思います。
① カマラ・ハリス上院議員
実力と実績では一番との評価もある、カリフォルニア州選出の上院議員であるカマラ・ハリス氏(55歳)は、両親はジャマイカとインドからの移民です。黒人として初のカリフォルニア州司法長官を務めた元検察官でもあります。
② バル・デミングス下院議員
南部フロリダ州選出の下院議員であるバル・デミングス氏(63歳)は、ウクライナ疑惑をめぐるトランプ大統領の弾劾裁判で検察官役の弾劾管理人を務めたことで、議会で存在感を強めました。フロリダ州は、民主党勝利のためには落とせない激戦区であるということも重要な要素となっています。
③ ランス・ボトムズ アトランタ市長
この5月末に起きた白人警官による暴力事件で黒人男性ジョージ・フロイドが死亡した事件に対する抗議活動が拡大する中、暴徒化したデモ参加者を名スピーチで鎮静化させて、一躍注目を集めています。
④ スーザン・ライス元大統領補佐官
オバマ大統領時代の国連大使、女性としてアメリカ史上3人目の女性大使であり、初のアフリカ系アメリカ人女性です。国連大使退任後は同政権で引き続き国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたワシントンの実力派政治家です。
3.民主党による社会の亀裂を修復するための施策は弱者優先の施策
この7月に入ってから再びコロナ感染者が増加しているアメリカでは、7月末には失業手当の付加給付がなくなり、従業員500人以下の企業が雇用を維持すれば、給与や賃料、光熱費など約2.5か月分、最大1,000万ドル(約11億円)までは政府が肩代わりするという給与保障プログラム(PPP)は予算を既に使い切っています。
このような中で、民主党候補のバイデン氏は、トランプ大統領のばらまき政策、金持ち優遇政策に対する批判を強めていて、自身の政策は、アメリカ国民の融合を図るために、中間層や貧困層に重点を置いた施策を訴えることが予想されています。実際に、先日公表されたバイデン氏の施策の中には、以下のような施策が含まれています。
- 最低賃金の引上げ
- 法人税を現行の21%から28%への引上げ、グローバル企業のアメリカ連邦税の支払強化策の実行
- マイノリティー層とそれ以外の所得格差の是正、住居選定の選択肢の拡大、起業家支援、教育機会の提供等の施策を実施
このような施策は、株式市場に対しては総じてネガティブであり、トランプ政権の経済政策で優遇されていた人々の反発も予想されます。
3-1.「女性、有色人種、リベラル」な副大統領候補の存在が緩和剤
しかしながら、政権内に「女性、有色人種、リベラル」な副大統領がいることで、現在アメリカ社会を混乱させているコロナ新型肺炎の主たる感染者であり、人種差別問題の犠牲者である社会的弱者を救い上げることが、再びアメリカ社会を融和させるためには必要であるというメッセージに強い説得力を持たせることが可能になります。
そして、それこそが今のアメリカに必要であるというメッセージを、広くアメリカ人が許容するような緩和剤的な存在となる戦略を描いているのではないでしょうか?
3-2.大統領候補者と副大統領候補者の条件
移民国家であるアメリカの大統領と副大統領候補の条件は、「生まれながらにしてのアメリカ合衆国市民であり、通算14年以上アメリカ合衆国に居住する、35歳以上の者」となっています。移民の国でありながら、移民1世は大統領や副大統領にはなれないのです。
それは、アメリカ人という人種を持たない移民国家であるアメリカの統合の象徴であり、政治のトップを担う者には、アメリカで生まれた者であることが求められる所以です。
3-3.アメリカンドリームはアメリカ国民すべての権利
コロナ禍と人種差別問題が深刻になる中で、その犠牲となっているのは、相対的な社会的弱者です。「男性、白人」だけでは、今のアメリカ社会に漂う閉塞感を打破することは出来ないほど、アメリカの分断社会は深刻です。
アメリカンドリームは、白人の専売特許ではないという不満が、社会的弱者である「女性、有色人種」の中で大きくなっています。
アメリカンドリームは誰のもの?という原点に返ると、いまここで、アメリカンドリームはアメリカ国民全員に平等に与えられているチャンスであると再認知されないと、アメリカの分断社会は、回復不能なほど深刻なものになる可能性があるわけです。
4.まとめ
バイデン氏は、8月初旬には副大統領候補を決定すると明言しています。誰が選ばれるかはわかりませんが、間違いないことは、民主党副大統領候補が選ばれると、それがトリガーとなり、今のコロナ禍と人種差別問題で揺れるアメリカに新しい選択肢が見いだせる可能性があるということです。
それは、アメリカ人にとっても、国際社会にとっても大変重要なことです。
コロナ禍は、各国で経済的弱者の存在を浮き彫りにしました。そして、国際社会では、アジア、欧州、アメリカ、アフリカ、ラテンアメリカの各大陸で、今まで水面下に隠れていた問題が浮き彫りになり、国同士の対立も深刻になっています。
どちらがアメリカ大統領になるかは未だわかりませんが、この状況で民主党の副大統領候補に選ばれる女性は、アメリカの歴史にも、世界の歴史にも刻まれる可能性のある重要なキーパーソンになる可能性があるということになります。
その変化を、閉塞感漂う社会に対してプラスに働くことを期待したいのは、アメリカだけでなく、アメリカに頼っている日本の本音でもあるかもしれません。
そして、仮に、ここまで高まった期待が裏切られた場合、アメリカの混乱はもっと深刻になるリスクがあることに気を付けておきたいと思います。