マイナンバーは海外ではどう使われている?個人番号制度の国際比較

世界

日本では何かと問題が多いマイナンバー制度ですが、世界各国におけるマイナンバー事情をいろいろな視点で紹介します。

個人番号制度はどの様な理由で各国で導入されたか、そして、医療・福祉面にどんなメリットを持たせているのでしょうか?

他方で、日本では議論が激しいプライバシー権について、外国ではどの様な議論がされているのかについても考察していきます。

1.マイナンバーを導入したきっかけはいろいろ

1-1.日本

「マイナンバーは、社会保障、税、災害対策の3分野で、複数の機関に存在する個人の情報が同一人の情報であることを確認するために活用されます。」(内閣府)

日本政府が、マイナンバーを取り入れようとした最も大きな理由は、行政効率化です。

これまで、それぞれの行政機関ごとに住民票コード、基礎年金番号、健康保険被保険者番号など、それぞれの番号で個人の情報を管理していましたが、時間と労力を費やしていたため、その効率化を図るためです。

マイナンバー 目的

出典:総務省HP

1-2.韓国

韓国では住民登録番号(Resident Registration Number)といって、出生または国籍の取得によって国民が住民登録を行う際に、国が国民に付与する固有番号があります。

法律制定当時は、日本の植民地統制政策であった法律を踏襲して作られているため、「国家が国民を統制監視するための性格を持つ制度である」とみなされていました。

興味深いのは、1968年に北朝鮮の特殊部隊要員が大統領を殺害しようとした事件があったことが政府の法律改定のきっかけとなり、北朝鮮からのスパイ識別の便宜などの目的で18歳以上の国民全国民に識別番号を付与し、住民登録証を発給しています。

1-3.デンマーク

デンマークの導入きっかけは日本と似ています。

1924年にデンマーク全市民の名前、住所、家族構成などの情報を地方自治体が管理していたところ、1960年代には登録情報の利用需要が増え、既存サービスの枠組みでは提供することができなくなりました。それを機に、電子化の潮流をも受け、1968年にCPR(Central Persons Resistration)が作られました。

初めは公的な目的で発足していますが、一人に一番号しかないことから、民間でも個人証明として使われるようになりました。

1-4.フランス

フランスは個人情報の取り扱いにセンシティブな面もあり、発足は他の欧州の国に比べてやや遅れています。
2002年に電子政府構築が本格的に始まり、3つのIDカード関連の政策が打ち出されています。
電子健康保険カード(Carte Vitale)のバージ ョンアップ(Vitale2)と、国家身分証明カード(CNIE:Carte Nationale d'Identite Electronique)の電子化、日常生活カード(CVQ:Carte de Vie Quotidienne)の提供です。このうち、電子健康保険カードが最も普及し活用されています。

電子健康保険カード(Carte Vitale)は医療費払い戻し手続きをオンライン化し、利用者の手続き簡略化を図っています。導入前は患者は病院や薬局でまず医療費全額を払い、その記録を社会保険庁に送付してから一定額の払い戻しを受けるような仕組みで、政府も利用者も手間がかかっていました。

国家身分証明カード(CNIE:Carte Nationale d'Identite Electronique)は券面に顔写真、氏名、生年月日、 国籍、出生地、住所、性別、発行機関名、発行年月日、本人の署名等が掲載されているカードで、身分証明書として使われています。政府はこの目的について、国家身分証明カードの偽装による詐欺やテロ犯罪対策であると説明していますが、政府による個人情報の一元管理で個人の自由 やプライバシーが侵害される、政府に悪用される可能性がある、などといった批判が強いようです。

日常生活カード(CVQ:Carte de Vie Quotidienne)については、地方自治体の様々な公共サービスを一枚のカードで安全・手軽に利用できるように、認証と識別機能、場合によっては決済機能もついているICカードです。このプロジェクトは、全国化はしていませんが、先駆的・実験 的な取り組みとして、図書館や公共施設、交通機関など身近な場面で IC カードを利用することで国民の電子政府に対する理解や関心を高めるという意義を持って いました。

1-5.アメリカ

アメリカでは、社会保障番号(Social Security Number, SSN)が使われています。

1943年の大統領命令により連邦機関がこの番号を個人識別システムに用いることが義務付けられています。

初めは、納税者の識別のために採用され、のちには入院および患者のカルテ、または金融サービスエリアにおいて過去の破産申請の履歴などの管理がされています。

1-6.シンガポール

シンガポールでは、イギリス統治下の 1948 年に、不法移民を排除し、自国民を特定する目的で国民 ID が導入されています。

1-7.スペイン

スペインの国民 ID は、フランコ体制下の 1944 年に、スペイン内戦による生存者、死者、 行方不明者を特定するために導入されています。

2.医療・福祉におけるケーススタディ

2-1.日本

日本のマイナンバーカードも医療・福祉面で便利に利用できるようになる可能性はありますが、まだ実行まで時間がかかりそうです。

例えば病院では、健康保険証、診察券、支払いにクレジットカードを利用するほか、紙の処方箋を受け取り、薬局では処方箋と健康保険証を確認してもらうといった手続きを当たり前のように行っていますが、マイナンバーカードは、これらを一つのカードで行えるようになる可能性を秘めています

2-2.デンマーク

デンマークは、社会保障として医療・教育・福祉が提供されており、関連の組織・団体 で,CPR(個人番号)が多用されています。

医療面においては、ポータルサイトが構築され、そこで診察の予約、検査結果の報告、処方医薬品の情報共有などが行われています。

2-3.フランス

フランスは3つのIDカードがあると紹介しましたが、その内の電子健康保険カードは医療費払い戻し手続きをオンライン化し、利用者の手続き簡略化を図っています。

導入前は患者は病院や薬局でまず医療費全額を払い、その記録を社会保険庁に送付してから一定額の払い戻しを受けるような仕組みで、政府も利用者も手間がかかっていました。医療費の払い戻しが便利になりました。

2-4.オーストラリア

オーストラリアでは医療分野に利用が限定された ID (Healthcare Identifiers)が発行されています。

通常は個々の医療機関が独自に患者のデータを保有していますが、こ れらの患者の既往歴データを取得することにより医療の安全性向上が期待されています。

ID 管理のために保有している個人身分関連情報は氏名、生年月日、性別のみであり、 プライバシー保護のために ID カードは発行されていません。

2-5.タイ

タイの国民 ID はそのデータベースのデータと、被用者社会保障制度、公務員医療給付制度等の各種データベー スは紐づけられており、医療情報や保険加入状況の相互参照を行っています。

3.プライバシー権に関する議論

3-1.日本

日本ではマイナンバーカードが批判されている理由に、プライバシー権侵害の懸念が大きくあります。

この中で、政府は様々な安全対策を図っていると説明しています。具体的には、そもそもマイナンバーの利用範囲や各機関の間で情報連携の範囲を法律で制限するとともに、マイナンバーだけでは手続きができない様になっています。システム面でも、情報の分散管理や、システムへのアクセス制御、通信の暗号化などが取り入られている他、個人番号カードのICチップに入れたソフトの利用には暗証番号が必要とされています。

しかし、この様な工夫があるとしても、個人情報がマイナンバーとセットになっているため、悪意を持ってマイナンバーを入手し、個人情報を不正に収集し悪用しようとする人が現れる恐れはあります。

3-2.フランス

フランスでもプライバシー権侵害の懸念が大きく示されています。

特に医療情報については、非常に繊細な個人情報であるため、カードに医療情報を記憶させることについては、個人情報保護、セキュリティ面での不安からの危惧が市民団体やマスメディア、政治家などから強く示されています。

そのために、カードに医療情報を搭載せずに、患者の病歴・治療歴などの医療情報を医療関係者が管理・共有することで、適切で効率的な医療を行うようになりました。

3-3.カナダ

カナダの個人番号は個人情報と結びついているため、悪意のある者に SIN(個人番号)を知られた場合には、個人情報の取得やプライバシーの侵害が生じうるため問題視されています。

他にも、政府の給付金、税の還付金、銀行の金利を略取される可能性があったり、自分の SIN が不法就労のために使用された場合には、 実際には受け取っていない所得に対して課税される可能性もあることが懸念されています。

こんな事情もあり、カナダでは身分証明書として個人番号カードを使用しないように注意が呼びかけられています。

3-4.ドイツ

ドイツでも長年、プライバシー問題が懸念されていましたが、IT の浸透や国民意識の変化、課税の公平 性の確保、番号による利便性などにより、個人番号の利用は既に人々の生活と密接に繋がっています。

国民のプライバシ ー懸念に配慮するために、番号は税務での利用のみに限定され、他の行政機関の利用は法律で禁止されています。

4.おわりに

海外では、マイナンバー(個人番号)に関する政策は日本と比べると比較的進んでいています。

また、プライバシー関連問題も議論されていますが、生活面の便利さが先立っていることがわかります。

日本のマイナンバーカードは義務付けられていない他、便利さをまだ身近に体感できないからか、あまり普及が進まないのかもしれません。

今後の技術の発展に伴って、安全面がより確保されるようになると、生活や行政にもたらすメリットが強調され、いずれは普及する可能性は大きいのではないでしょうか。

服部
監修
服部 貞昭(はっとり さだあき)
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を2000本以上、執筆・監修。
「マネー現代」にも寄稿している。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
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