新型コロナで話題のバーチャル株主総会とは?種類や注意点を解説

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、さまざまな活動のオンライン化が進んでいます。
この機会に、以前から注目されていた株主総会のオンライン化も、さらに加速するのではないかと期待されます。

インターネットの発達により、インターネットを通じて株主総会の議事を傍聴したり、株主総会に出席したりすることができるようになりました。
このようなオンライン参加型の株主総会を、経済産業省の用語で「バーチャル株主総会」と呼んでいます。

バーチャル株主総会が実現すれば、株主にとってさまざまなメリットがあります。
しかし一方で、会社法の制定当時には必ずしも十分に想定されていなかった開催形態でもあるため、その実現には会社法上の問題をクリアする必要があります。

この記事では、バーチャル株主総会に関して、開催形態のパターンやメリットのほか、「4.バーチャル株主総会に参加・出席する株主が注意すべきことは?」で株主側の注意点を解説します。

1.バーチャル株主総会とは?

バーチャル株主総会は、インターネットを通じたオンライン参加を可能とした、新しいスタイルの株主総会です。

バーチャル株主総会の登場により、株主総会には以下の4つの開催形態が考えられるようになりました。

  • リアル株主総会
  • ハイブリッド参加型バーチャル株主総会
  • ハイブリッド出席型バーチャル株主総会
  • バーチャルオンリー株主総会

1-1.リアル株主総会

リアル株主総会とは、取締役や株主などが一堂に会する物理的な場所において開催される株主総会です。
従来から行われていた形態の株主総会ですが、オンラインによるバーチャル株主総会と区別するために、「リアル株主総会」と呼ばれています。

1-2.ハイブリッド参加型バーチャル株主総会

ハイブリッド参加型バーチャル株主総会とは、リアル株主総会を開催する一方で、インターネットを通じてリアル株主総会での審議などの様子を確認・傍聴することができるスタイルの株主総会です。

「ハイブリッド」とは、リアル株主総会とバーチャル株主総会の両方を開催するという意味を持ちます。
その上で、「参加型」と、後に解説する「出席型」の2つに大別されます。

「参加型」の場合、法的には株主総会に出席していることにはなりません
バーチャル参加の株主はあくまでもオブザーバーに過ぎないということです。

そのため、バーチャル参加の株主については、以下のように株主総会開催中の権利行使の制限があります。

  1. バーチャル参加の株主は、株主総会中にオンラインで議決権を行使することはできません。
    そのため、事前に書面や電磁的方法による投票を行うか、またはリアル株主総会に出席する代理人に対して議決権行使を委任する必要があります。
  2. バーチャル参加の株主には、質問権(会社法314条)や議案提出権(会社法304条)もありません。
    もっとも、バーチャル参加の株主の意見を取り入れるため、株主総会開催中にコメントの投稿を認めるなどの方法は考えられます。
    ただしこの場合も、会社の役員はコメントに対して回答したり、反応したりする義務はありません。

1-3.ハイブリッド出席型バーチャル株主総会

ハイブリッド出席型バーチャル株主総会とは、リアル株主総会を開催する一方で、インターネットを通じて株主総会に「出席」することができるスタイルの株主総会です。

「出席型」の場合、バーチャル参加の株主も、リアル株主総会に出席している株主と同じ取扱いがなされます。
つまり、議決権や質問権、議案提出権といった株主としての権利も、リアル株主総会に出席している株主と同様、株主総会開催中にオンラインで行使することができます。

1-4.バーチャルオンリー株主総会

バーチャルオンリー株主総会とは、リアル株主総会を開催することなく、取締役や株主などが、インターネットを通じてのみ株主総会に出席できるスタイルの株主総会です。

バーチャルオンリー株主総会は、株主総会に出席する手段がバーチャル参加しかないため、必然的に「出席型」のバーチャル株主総会となります。
そのため、株主はオンライン上で議決権や質問権、議案提出権などを行使することができます。

2.バーチャル株主総会は会社法上認められるか?

会社法が制定された当時は、株主総会へのバーチャル参加は、必ずしも十分に想定されたものではありませんでした。
そのためバーチャル株主総会の開催については、会社法の解釈上の問題が存在します。

特に会社法上、取締役が株主総会を招集する際には、株主総会の「場所」を定めなければならないものとされています(会社法298条1項1号)。
つまり、物理的な場所で開催されない株主総会は、そもそも想定されていないのです。

この規定との関係で、バーチャル株主総会の開催が認められるのかどうかが論点になっています。
それぞれの開催形態について、どのように整理されるかを見ていきましょう。

2-1.ハイブリッド参加型バーチャル株主総会の場合

ハイブリッド参加型バーチャル株主総会では、株主にはリアル株主総会への出席権が保障されています。
その上で、バーチャル参加はリアル株主総会への参加が難しい場合の補助的な手段として、株主の選択肢を増やすものです。

そのため、ハイブリッド参加型バーチャル株主総会の形態は、会社法上認められている株主の権利をより厚く保護するものであり、開催も問題ないと考えらています。

なお参加型の場合、バーチャル参加の株主は、株主総会の開催中に議決権や質問権、議案提出権などを行使することができませんが、株主がリアル株主総会に出席すれば、これらの権利を行使することができます。
したがって、株主に権利行使の機会は与えられているといえますので、この点は特に問題ないと考えられます。

2-2.ハイブリッド出席型バーチャル株主総会の場合

ハイブリッド出席型バーチャル株主総会も、参加型と同様、株主総会に参加する方法の選択肢を増やすという意味で、株主にとってメリットがあります。
そのため、出席型の場合も、参加型と同じく、会社法上認められると考えられます。

なお出席型の場合、リアル株主総会に出席する株主と同様、オンラインでの議決権などを行使することが可能です。

役員などの話を対面で聞く場合と、オンラインで聞く場合とでは、伝わり方に多少の差があることは否定できません。
このような状況で、オンラインでの議決権行使が有効かどうかは、会社法上の明文がないことから論点になっています。

しかし結論としては、リアル株主総会が行われている場所とバーチャル参加の株主の間で、情報伝達の双方向性・即時性が確保されていれば問題ないと解されています。

なお、バーチャル参加の株主による議決権の行使は、株主総会欠席時に認められる電子投票(会社法298条1項4号)とは異なり、株主総会会場での議決権の行使と同様に取り扱われます。

2-3.バーチャルオンリー株主総会の場合

バーチャルオンリー株主総会には、株主総会の「開催場所」が存在しません。

先にも解説したように、現行の会社法では、物理的に全く開催されないという株主総会の形態は想定されていません。
したがって、現行法下ではバーチャルオンリー株主総会の開催は困難と考えられています。

3.バーチャル株主総会のメリットは?

バーチャル株主総会には、株主が株主総会に参加する方法の選択肢を広げることのほか、さまざまなメリットがあります。

どのようなメリットがあるのか、具体的に見ていきましょう。

3-1.遠方からの参加が可能になる

バーチャル参加の場合、実際に会場に来場する必要がないため、遠方の株主にとって参加がしやすいというメリットがあります。

3-2.同日に開催される複数の株主総会に参加することができる

日本では、株主総会は多くの会社が同じ時期(6月など)に開催する傾向にあります。
そのため、複数の会社の株主になっている場合には、必然的に株主総会の日程が重複しやすくなります。

バーチャル参加が認められている場合には、同時に複数の株主総会の様子を確認したり、近い時間に開催される株主総会を順次確認したりすることが可能になるというメリットがあります。

3-3.透明性の向上・情報開示の充実

バーチャル参加が認められることにより、遠方などを含めてより多くの株主が株主総会に参加できるようになります。
つまり、より多くの株主によって会社がモニタリングされるようになるので、会社運営の透明性が向上します。

さらに、バーチャル参加の株主に向けた情報提供が行われたり、バーチャル参加の株主の質問を取り入れたりすることによる、情報開示の充実も期待されます。

3-4.会場費を削減できる可能性がある

バーチャル参加の株主が増えれば、相対的にリアル株主総会への出席者が減ることになります。
そのため、広い会場を確保する必要がなくなり、会場費を削減できる可能性があります。

3-5.新型コロナウイルスなどの感染症対策になる

最近では、新型コロナウイルスの影響により、コミュニケーションのリモート化が推奨されています。

株主総会へのバーチャル参加はリモートで行うことができますので、これらの感染症対策になることが期待されます。

4.バーチャル株主総会に参加・出席する株主が注意すべきことは?

バーチャル株主総会は、リアル株主総会とは勝手が異なる部分があります。
そのため、参加者である株主の側でも、事前にしっかり準備をしておくことが大切です。

4-1.受信環境を整える

まず大前提として、株主総会の様子を快適に視聴できる程度の受信環境を整えておく必要があります。

回線や端末の質が悪いと、音声や映像が途切れてしまうなど、株主総会への十分な参加が困難になってしまう可能性があるので注意しましょう。

4-2.議決権の行使について

株主総会にバーチャル参加をする場合、リアル株主総会出席時ともっとも大きく異なるのが、議決権行使の方法です。
参加型と出席型のそれぞれに注意点がありますので、事前にしっかり確認しておきましょう。

参加型の場合:書面・電磁的方法による事前投票または代理人による投票

参加型の場合、バーチャル参加の株主は、株主総会開催中に議決権を自ら行使することはできません。
そのため、それ以外の方法で議決権を行使する必要があります。

一つの方法としては、書面(会社法311条1項)または電磁的方法(同法312条1項)により、事前に投票を済ませてしまうことが考えられます。
ただし、書面投票や電磁的方法による投票は、会社によっては認められていない場合もあるため注意しましょう。

もう一つは、代理人にリアル株主総会に出席してもらい、議決権を行使してもらう方法が考えられます(同法310条1項)。

出席型の場合:事前に投票方法を確認しておく

出席型の場合、株主総会開催中にリアルタイムでオンライン投票を行う必要があります。
スムーズに投票の手続きを進められるよう、会社から提供されるマニュアルなどを確認しておきましょう。

なお、もし事前に書面や電磁的方法による投票をしていて、かつバーチャルでも株主総会に出席して投票をするという場合には、どちらの投票が有効になるかという問題が生じます。
念のため事前の投票を済ませておき、当日の予定が合えばバーチャル参加をすることを考えている場合には、それぞれの投票がどのように取り扱われるかを事前によく確認しておきましょう。

5.バーチャル株主総会の運営は大変

このように、株主の視点から見ればメリットの多いバーチャル株主総会ですが、会社の側から見ると、その運営はかなり大変です。

そもそも、リアル株主総会のみを開催する場合でさえ、株主総会の準備は弁護士のフルサポートを受けた大掛かりなものになります。
バーチャル株主総会では、これに加えてバーチャル参加の株主のケアをしなければなりません。

たとえば、

  • 配信システムの構築
  • (出席型の場合)議決権の行使、質問、議案の提出などのシステムを構築
  • システム不具合時の対応
  • 不規則発言(コメント)への対応

など、追加で対応が必要になる事項も数多く存在します。

そのため、バーチャル株主総会を運営する場合、会社にかかるコストはかなり大きくなってしまう可能性が高いでしょう。
このあたりは、会社の側でもノウハウを蓄積するなどして解決すべき課題といえます。

6.まとめ

新しい株主総会のスタイルであるバーチャル株主総会は、会社にとっては準備が非常にたいへんではあるものの、株主にとってはメリットの大きい制度です。

新型コロナウイルスの影響もあり、バーチャル株主総会は今後ますます注目され、より多くの会社に広がっていく可能性が高いといえます。

服部
監修
服部 貞昭(はっとり さだあき)
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を2000本以上、執筆・監修。
「マネー現代」にも寄稿している。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
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