著作権法改正でオンライン授業が便利に!授業目的公衆送信補償金制度

新型コロナウイルスの影響で、各学校においてオンライン授業の取り組みが加速しています。

授業の中では、教育上の目的から著作物を複製等した教材を利用することがあります。
こうした教材をオンラインで配布することができれば非常に便利ですね。

しかし、従来の著作権法では、授業目的での著作物の公衆送信に関するルールが必ずしも使いやすいものにはなっていませんでした。
そのため、以前から授業目的での著作物の公衆送信に関するルールの改正が議論され、2018年7月13日に改正著作権法が公布されていました。

改正著作権法は当初2021年4月から施行されるものとされていましたが、新型コロナウイルスの影響でオンライン授業のニーズが高まったことを受け、2020年4月28日から前倒しで施行されました。

この改正著作権法で新たに創設されたのが、「授業目的公衆送信補償金制度」です。
授業目的公衆送信補償金制度によって、学校側・著作権者側の両方が、授業目的での著作物の公衆送信に関してメリットを受けられるようになることが期待されています。

この記事では、授業目的公衆送信補償金制度の内容や、従来のルールから変わった点などについて詳しく解説します。

1.著作物を授業で利用できるのはなぜ?

そもそも、著作物を授業で利用できるのはどのような法律上の根拠に基づくのでしょうか。

全体の解説の前提となるポイントですので、簡単に解説します。

1-1.著作物の複製等は原則として著作権者の許可が必要

著作権者は、著作物を他人に勝手に利用されない権利(著作権)を持っています。

たとえば著作物の複製行為や、インターネット等を通じた配信(公衆送信)などについても、著作権者以外の人が行うためには原則として著作権者の許諾が必要です。

1-2.非営利の教育機関での授業では例外的に複製・公衆送信が認められる

ただし、次のような場合には、例外的に著作権者の許諾なく著作物を利用することが認められています。

  • 著作物を他人が無許可で利用しても著作権者の権利が制限される度合いが小さい場合
  • 公益上の要請から著作物の利用を認める必要性が高い場合

この例外の一つが、非営利の教育機関における授業目的の複製および公衆送信です。

学校などの非営利の教育機関(※)は、授業の過程で著作物を利用する目的であれば、必要な限度において著作物を利用(複製または公衆送信)できるとされています。

※塾・予備校などは営利目的の機関なので除外されます。

2.授業目的での著作物の利用|改正前のルール

授業目的での著作物の複製や公衆送信が認められているといっても、どんな場合でも著作権者の許諾なく行えるというわけではありません。
著作権法には、授業目的での著作物の複製や公衆送信に関するルールが規定されています。

このルールが今回の著作権法改正の対象となっているのですが、まずは法改正前のルールについて解説します。

2-1.対面授業の現場でのみ無償・無許諾で可能

法改正前の著作権法においては、以下に該当する複製および公衆送信が、著作権者の許諾なく、かつ無償で行うことができるものとされていました。

  • 対面授業で使用する資料として著作物を印刷・配布する場合
  • 対面授業で使用した資料や講義映像を、遠隔合同授業(同時中継)で他の会場に公衆送信する場合

しかし、上記以外の複製・公衆送信については、授業目的であっても例外が認められませんでした。
つまり、授業目的で上記以外の複製・公衆送信を行う場合には、原則どおり著作権者の許諾を得て行う必要があったのです。

たとえば、以下のようなケースについては著作権者の個別の許諾が必要でした

  • 対面授業の予習・復習用の資料をメールで送信する場合
  • オンデマンド授業で講義映像や資料を送信する場合
  • スタジオ型のリアルタイム配信授業を行う場合

2-2.改正前の問題点

著作権法の従来のルールには、学校側・著作権者側からのいずれの視点から見ても問題がありました。

学校側にとっては、無許諾・無償で行えるもの以外の公衆送信については著作権者の個別の許可が必要であり、たいへんな手間がかかるものでした。
そのため、手続きが面倒なので利用を断念したり、著作権法に違反する形で無許諾で利用したりといった事態が発生していたのが実情でした。

一方著作権者側にとっても、法制度上、授業目的の著作物の利用については一切対価を得られない仕組みになっていました。

  • 著作権者の創作意欲の向上
  • 授業目的で複製された著作物が違法に流出してしまうリスクに対する補償

この2点のような観点から、授業目的の著作物の利用についても著作権者に対価を支払うべきではないか、という議論が以前からなされていました。

3.改正著作権法によるルールの変更内容とは?

上記の問題点を改善するために、今回施行された改正著作権法においては、授業目的での著作物の複製や公衆送信に関するルールが変更されました。

簡単にいえば、従来どおり対面授業での使用は「無償・無許諾」が維持され、オンライン授業での利用は「有償・無許諾」となりました(従来は「無償・要許諾」)。

具体的にどのようにルールが変更されたのかについて、以下で解説します。

3-1.無償・無許諾の複製・公衆送信については現状維持

まず、以下の場合に著作権者の許諾なく無償で著作物を複製または公衆送信できるというルールは維持されました(著作権法35条3項)。

・対面授業で使用する資料として著作物を印刷・配布する場合
・対面授業で使用した資料や講義映像を、遠隔合同授業(同時中継)で他の会場に公衆送信する場合

上記の複製や公衆送信についても、著作権者に対して対価を支払うようにすべきという議論もありました。
しかし、いきなりルールを変えることで従来できたことができなくなってしまうと、教育現場が混乱する可能性が高いということが考慮され、今回の改正対象からは除外されました。

この点は今後の検討課題とされています。

3-2.その他の公衆送信について補償金制度を導入

一方、従来は著作権者の個別の許可が必要だったその他の公衆送信については、補償金制度が導入されることになりました(著作権法35条2項)。

補償金制度の対象となっている公衆送信を行いたいと思う教育機関は、文化庁長官が指定する補償金徴収分配団体に補償金を支払います。

補償金を支払った教育機関は、著作権者の許諾なく著作物を授業目的で利用(公衆送信)できるようになります。

従来は著作権者の個別の許可が必要であったところ、補償金徴収分配団体に窓口が一本化され、利用許諾の手続きが簡便になったことに大きなメリットがあります。

補償金の支払いのタイミングについても、たとえば年1回まとめて支払えばよいなど、事務処理上の手間に配慮した設定となっています。

また、著作権者側も、補償金徴収分配団体から著作物の利用に関する補償金を受け取ることができるメリットがあります。
従来は、授業目的の著作物の利用に関しては一切対価を得られなかったことと比べると、大きくルールが改善したということができます。

なお、補償金徴収分配団体としては、文化庁長官により、一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)が指定されています。

令和2年度に限り補償金は無料

新型コロナウイルスの影響によりオンライン授業のニーズが高まっていることに対応し、著作物の授業における円滑な利用を促進するため、令和2年度に限定して(令和3年3月31日まで)、特例的に補償金の金額が無料とされています。

令和3年度以降については、補償金徴収分配団体が各教育機関の代表者で構成される団体への意見聴取を行ったうえで補償金額を決定し、文化庁長官に認可申請を行うことになります。

5.補償金制度によってできることと注意点

5-1.補償金制度によってできるようになること

補償金制度の新設により、従来は著作権者の個別の許諾が必要とされていた以下のような公衆送信が、補償金の支払いを条件として著作権者の許諾なく可能になります。

  • 対面授業の予習・復習用の資料のメール送信
  • オンデマンド授業による講義映像や資料の公衆送信
  • スタジオ型のリアルタイム配信授業の公衆送信

5-2.授業目的で著作物の公衆送信を行う際の注意点

授業目的で著作物の公衆送信を行う場合であっても、以下のような場合には著作権者の個別の許可が必要となるため、注意が必要です。

①著作権者の利益を不当に害する利用は許されない

ただし、著作権者の利益を不当に害することとなる場合には、授業目的の例外規定に基づく無許諾での公衆送信は認められません(著作権法35条1項但し書き)。

「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に該当するかどうかは、学校等の教育機関でコピー・配信が行われることによって、現実に市販物の売れ行きが低下したり、将来における著作物の潜在的販路を阻害されたりするかという観点から判断されます。

たとえば、児童生徒が購入するドリルなどの教材を丸ごとコピーして配る行為などがこれに該当します。

②誰でも見られるウェブサイト上に著作物をアップしてはいけない

補償金制度に基づいて無許諾で著作物の公衆送信を行う場合には、受信者を授業を受ける児童生徒等に限定する必要があります。

したがって、誰でも閲覧できるウェブサイトに著作物をアップすることは認められず、この場合は著作権者の許諾が必要となります。

③教育委員会等の組織が主体となって教材や授業動画を作成・配信する場合

補償金制度の対象となるのは、あくまでも個々の教員と児童生徒等です(著作権法35条1項)。
そのため、教育委員会等の組織が主体となって教材や授業動画を作成・配信する場合には、著作権者の許諾を得る必要があります。

6. まとめ

以上に解説したように、著作権法の改正により、学校等の教育機関での授業において、著作物をより簡便に利用できるようになりました。

これを機に著作権法の内容について理解を深め、法律のルールに沿った形で著作物を利用するよう心がけてください。

服部
監修
服部 貞昭(はっとり さだあき)
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を2000本以上、執筆・監修。
「マネー現代」にも寄稿している。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
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