新型コロナでオンライン授業に~学費の返金や通信費の支援は?~
コロナの影響で学校設備が使えない中、学費が返還されないこと・ネット環境整備の費用負担に不満の声が上がっています。そこ…[続きを読む]
新型コロナウイルスの影響で、各学校に対して登校自粛の要請がなされています。
各学校はこの状況に対して様々な対策を講じています。
オンライン授業の提供を開始した学校もあれば、やむを得ず休校にしたという学校もあるでしょう。
しかしいずれにしても、学生が通常の学校生活を送れているとはとても言えない状況です。
このような場合に、「授業料を全額支払わなきゃいけないの?」「授業料の一部でも返してもらうことができる?」などの疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
こうした疑問に対してお答えするため、この記事では法的な観点から、新型コロナウイルスの影響でオンライン授業になった場合、休校になった場合、授業料の支払いや返還はどうなるか等を解説します。
なお、この記事はあくまで「法的な観点」からの解説ですので、より一般的な解説は下記記事をお読みください。
目次
まずはそもそもの前提から考えてみましょう。
学生が学校に入学した場合、学生と学校の間には「在学契約」と呼ばれる契約が存在することになります。
この在学契約に基づき、学生は学校に対して入学金や授業料などを支払い、学校は学生に対して授業などの教育を受ける機会を提供します。
とはいえ、学校が学生に提供すべきサービスの内容はかなり抽象的で、つかみどころが難しい面があります。
授業をどのような形で行わなければならないか、どの程度の難易度の授業を提供すべきなのか、どのくらい親切に指導すべきなのかなど、様々な要素がありますが、法的にはどのように考えられるのでしょうか。
日本国憲法23条は、「学問の自由」について定めています。
そして、学問が発展するためには、学問の承継が自由闊達に行われる必要があると考えられています。
そのため、学問の自由の一内容として「教授の自由」というものが憲法上保障されていると解されています。
教授の自由とは、わかりやすく言うと、大学教授が学生に対して学問を自由に教えることができるということを意味します。
教授の自由の考え方からすると、大学教授が学生に授業をする場合の方法については、基本的に大学教授の自由ということになります。
なお、「教授の自由」の考え方は、小学校・中学校・高校の教諭についてもある程度当てはまります。
もちろん、小学校・中学校・高校の場合は、教育の機会均等などの観点から一定の制限を受けるべき面はあります。
しかし、授業を行う方法については、一定の裁量が教諭に認められていると考えられています(最判昭和51年5月21日など)。
このように、教育機関である学校は、授業を行う方法については広い裁量権を持っているということを念頭に置いておきましょう。
そうは言っても、学生と学校の間には在学契約があるので、教授の自由の名の下にどんなことをやってもいいというわけではありません。
学校側の提供するサービスが十分でなければ、債務不履行に該当する可能性があります。
もっとも、学校が授業を行う方法について広い裁量権を持っていることを考えると、よほどひどいケースを除けば、在学契約上の学校の義務は履行されたと判断される可能性が高そうです。
学生が学校側を訴えて授業料の返還が認められた裁判例はいくつかあります。
その一部を紹介します。
授業料の返還が認められた裁判例には、たとえば以下のようなものがあります。
上記の例もそうですが、授業料の返還が認められる裁判例の傾向としては、
というケースが多いといえます。
しかし、今回の新型コロナウイルスの影響によるオンライン授業化などの流れは、入学後に自然災害的に発生した事象を原因とするため、上記の事例とは性質が異なります。
そもそも、これだけ全国的に感染症が蔓延してしまい、登校解禁の目途が全く立たないようなケースは前例がありません。
また、オンライン授業という形態が可能になったのもつい最近のことですので、過去の事例から今回の状況についての結論を類推するのは非常に困難といえます。
ここからが本題ですが、新型コロナウイルスの影響によるオンライン授業化・休校が行われた場合、授業料の返還を請求することはできるのでしょうか。
先例に根拠を求めることが難しいのであれば、理論的に考えていくしかありません。
着目すべき観点は以下の2つです。
まず、オンライン授業が提供されている場合には、原則として授業料の返還を請求するのは難しいと考えられます。
オンライン授業は、対面の講義が提供できないことによる代替手段と位置づけられます。
オンライン授業においては、対面の講義と同様、教授や教諭から学生に対して情報・知識の提供が行われます。
また、必要に応じてビデオ通話などを利用して、教授・教諭と学生、または学生同士のコミュニケーションを取ることも可能です。
そのため、オンライン授業は対面講義の代替手段として不十分とはいえず、学校は在学契約上の債務を履行したと判断される可能性が高いでしょう。
なお、学校生活では、友達などと交流することも重要な要素であることは否定できません。
しかし、学校はこうした交流の場を提供してはいますが、学校が学生に提供すべきサービスの中核はあくまでも授業を行うことであって、友達との交流の場の提供については副次的なものと考えられます。
したがって、登校自粛で友達と交流することができなくなったとしても、学校に債務の不履行があるということは難しいでしょう。
上記はあくまでも座学が中心である場合の話で、芸術系・音楽系の大学や、実験が必要な学科などでは話が変わってきます。
こうした大学・学科のように、実技指導や実験がカリキュラムの主要部分を占める場合、オンライン授業ではカバーしきれない部分が生じてきます。
よって、実技指導や実験が実施不可能になった場合には、在学契約上の学校の債務が一部履行されていないと判断される可能性はあると考えられます。
一方、学校が自主休校をして、全く授業を実施しない場合には、在学契約上の学校の債務は履行されていないものと考えられます。
もっとも、開講が遅れたとしても、補講でカバーできる場合には問題ありません。
しかし、新型コロナウイルスの影響がどの程度長引くかは現状予測できず、相当長期間にわたる可能性もあります。
その場合、休校期間を補講でカバーすることができなくなってしまうでしょう。
こうしたケースでは、結局在学契約上の学校の債務は履行されないままとなってしまいます。
ここまでの説明を簡単にまとめると、次のようになります。
上のまとめのように、休校等により在学契約上の学校の債務が履行されていないと判断され、かつ休校等について学校に責任がある場合には、学校側の債務不履行ということになります。
自粛要請などを受けて登校自粛とすること自体は、やむを得ない措置でしょう。
しかし、現代においては、オンライン授業を提供するなど、実際に登校をしなくても授業を受けられる仕組みが存在します。
したがって、このような仕組みを利用した授業の開講を代替手段として十分検討していたかどうかがポイントとなるでしょう。
たとえば、オンライン授業の導入にコスト面での大きな支障があるなど、代替手段を講ずることが極めて難しいためにやむを得ず休校(休講)にしたという事情がある場合には、学校側の責任が否定される方向に働くと考えられます。
一方、何らオンライン授業の可能性を検討せずに漫然と休校にしたような場合には、学校側の債務不履行が認められ、授業料の返還が認められる可能性が高いといえます。
休校等により在学契約上の学校の債務が履行されていないと判断されるものの、休校等ついて学校に責任がない場合、学校側の債務不履行は成立しませんが、危険負担の問題となります。
危険負担とは、義務の不履行について当事者双方に責任がない場合に、どちらが損失を被るかというルールをいいます。
民法の原則は「債務者主義」といって、債務を履行できなかった側が、その対価を受け取る権利を失うこととされています(民法536条1項)。
よって、学校を休校にした場合は、授業をするという債務を履行できなかった学校側が授業料を受け取る権利を失うため、学生は授業料を支払う義務を負わないことになります。
つまり、授業料を返してもらえるかどうかという点については、債務不履行の場合と結論は同じになります。
しかし、この債務者主義のルールは、特約により排除することが可能です。
特に授業料に関しては、学則において、「授業料は事情を問わず一切返還しない」という趣旨の内容が規定されていることがあります。
この場合には、債務者主義のルールが上書きされて、学生は休校であっても授業料を支払う義務があるということなりそうです。
ところが、この点に関しては消費者契約法上の問題があります。
詳細は次の4.で解説します。
消費者契約法10条は、消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものは無効とすることを定めています。
消費者契約とは、消費者と事業者との間で締結される契約をいいますが(消費者契約法2条3項)、学生と学校の間で締結される在学契約についても消費者契約法の適用があるとされています(最判平成18年11月27日)。
したがって、消費者契約法10条の規定は、在学契約にも適用されることになります。
先に解説したとおり、学校が授業を行わなかった場合には、学校に責任がある・ないにかかわらず、学生は授業料を支払う義務がないというのが民法の定める原則的なルールです。
よって、「授業料は事情を問わず一切返還しない」という学則は、消費者である学生の義務を加重する内容といえます。
そうすると、こうした学則が「信義則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」であるかがポイントということになります。
この点、少なくとも、学校側に責任がある場合にも授業料の返還を認めないとする部分は明らかに不公平であり、消費者契約法10条により無効となる可能性が高いと考えられます。
一方、学校側に責任がない場合については微妙なところです。
しかし、法人である学校と個人である学生の社会的・経済的立場の差を考えると、学生寄りの判断がなされる可能性は大いにあると考えられるでしょう。
新型コロナウイルスの影響で親の収入が減ってしまったなどの理由で、授業料の支払いが困難になってしまった場合、どのように対処すればよいのでしょうか。
あくまでも一例ですが、以下のような手段が考えられます。
その他詳しい対処法はこちらの記事でご紹介していますので、ぜひ読んでみてください。
新型コロナウイルスの影響によるオンライン授業化や休校については、前例のない新しい問題のため、未解明の部分が多いのが実情です。
しかし、新型コロナウイルスが収束しないうちは、全国で同様の問題が発生することになるでしょう。
この問題については今後の事例の動向が注目されるところです。