消費税増税前に金を買うと儲かるのか?

金地金

「金(きん、ゴールド)を消費増税前に買って、消費増税後に売れば儲かる」と聞いたことはありませんか。金と消費税は「特別な関係」にあるので、そのような儲け話が流布しています。

金は、買うときも売るときも消費税がかかるので、「消費税率の差」が生まれる増税時に「うまみ」が発生するのは事実です。
しかし、理論上は儲けることができるのですが、実際は、うまくいくとは限りません。

1.金の売買にも消費税がかかる

ここでは、個人が金の地金を、貴金属会社で買ったり売ったりする、取引を考えていきます。
地金とは金属の塊のことでで、金の地金といえば金だけの塊のことです。

金の売買では、消費税は次のように関わってきます。

  • 個人が金を買うときは、個人が貴金属会社に消費税を支払う。
  • 個人が金を売るときは、個人が貴金属会社から消費税を受け取る。

例えば、個人が本体価格100万円の金を貴金属会社から買えば、個人は貴金属会社に、消費税10%込110万円支払います。
その後「相場がまったく動かず、同じ本体価格のまま」この個人がこの金を貴金属会社に売れば、貴金属会社は個人に消費税10%込110万円を支払います。

つまり、次の3つの条件がそろったときは、個人も貴金属会社も、得も損もしません。

  • 消費税率が変わらない
  • 相場がまったく動かず、本体価格が同じ
  • 手数料がかからない

ところが、この3つの条件が1つでもそろわないとき、得や損が生じます。

2.増税前に金地金を買うと有利なのか

消費税の増税前に金を買い、消費増税後に金を売ると、「理論上は得をする」メカニズムについてみていきましょう。
さらに「実際はそれほどうまくいかない」ことも紹介します。

2-1.消費増税前後の売買で理論上は儲けることができる

「相場がまったく動かず、本体価格が同じ」で「手数料がない」場合、個人が消費増税前に金を購入して、増税後に金を売却すると儲けることができます。
儲けるまでの流れをみていきましょう。

  • <消費税8%のとき>
    個人が本体価格100万円の金を貴金属会社から買う。
    →個人は貴金属会社に消費税8%込108万円を支払う。
  • <消費税10%に増税後>
    個人が本体価格100万円の金を貴金属会社に売る。
    →貴金属会社は個人に消費税10%込110万円を支払う。

上記の2つの取引では、個人は「108万円を支払い」「110万円を受け取っている」ので、都合2万円の儲けになります。

ただこれは理論上の話で、実際はこれほどうまくはいきません。
消費増税前後で金を売買しても儲からない可能性があるのは、金相場が目まぐるしく動き、金の売買で手数料が発生するからです。

2-2.リスク要因その1:相場が動く

まず、金相場の動きについて考えてみます。ここでは手数料がないものとして考えます。

消費税8%のころに、金200グラムを本体価格100万円で買ったとします。このとき個人は貴金属会社に消費税8%込108万円を支払います。

その後、金の価値が2%下落して、金200グラムの本体価格が98万円になったとします。そして、このとき、消費税が10%に上がったとします。
個人が金200グラムを本体価格98万円で貴金属会社に売れば、貴金属会社は個人に消費税10%込107万8千円支払います。

個人は「108万円支払って」「107万8千円受け取った」ので、2千円損してしまいます。
つまり「消費税2%上昇効果」より「金相場2%下落」のほうが強いことがわかります。

なお、金の取引は日本だけでなく世界中で行われていますので、金そのものの価値が変動しなくても、為替相場の影響を受けることも注意が必要です。

2-3.リスク要因その2:手数料(小売価格と買取価格の違い)

ある貴金属会社のある日の取引価格が次のようになっていたとします。

  • 1グラムの小売価格、消費税10%込5,000円(本体4,545円、税455円)
  • 1グラムの買取価格、消費税10%込4,900円(本体4,455円、税445円)

この貴金属会社は手数料を取るために、安く(4,900円)買って、高く(5,000円)売ります。
金相場がまったく動かず、手数料のレベルも変えなかったとします。
そして消費税が8%から10%になったとします。

個人がこの貴金属会社から消費税8%のときに金200グラムを買うと、個人は貴金属会社に981,720円を支払うことになります。
計算式は次のとおりです。

(200グラム×税抜小売価格4,545円/グラム)×消費税8%=981,720円
(注意:消費税は8%で計算しています)

そして消費税が10%になった段階で、個人が200グラムの金を売ると、個人は980,100円を受け取ることになります。計算式は次のとおりです。

(200グラム×税抜買取価格4,455円/グラム)×消費税10%=980,100円
(注意:消費税は10%で計算しています)

個人は「981,720円を支払い」「980,100円を受け取っている」ので、1,620円損してしまいます。

2-4.結論「有利には違いないが、リスクが大きい」

以上みてきたように、金を買ったあとに相場が下がり、しかも売買手数料が高い貴金属会社と取り引きすると、消費増税前後売買のメリットが相殺され、さらに損することも十分あり得ます。
消費増税前後の金の売買は有利には違いないのですが、「それだけ」を頼りに金投資をすることはリスクが大きいでしょう。

もちろん、金投資で儲けることはできます。金相場が安いときに買い、金相場が上がったときに売れば、手数料を支払ってでも、儲けることができます。
また、金相場がかなり上昇すれば、金を買ったあとに消費税が減税されたとしても、儲けることはできます。
つまり金投資の成功・失敗は、消費税の動きだけでは決まらない、ということです。

3.過去の消費税増税時の金の値動き

3-1.増税前後の金価格

消費税増税は過去3回行なわれています。

  • 1997年4月 :3→5%
  • 2014年4月 :5→8%
  • 2019年10月:8→10%

このとき、金の小売価格(税抜)はどのように動いているでしょうか。田中貴金属工業の以下のWEBページで確認してみましょう。

【参照】田中貴金属工業株式会社|日次金価格推移

1997年4月:消費税3→5%のころの金の値動き

  • 1997年3月:月平均1,439円/グラム
  • 1997年4月:月平均1,440円/グラム(3月比0.07%増)

※月平均の価格であることにご留意ください。

4月の価格は3月の価格より、わずか1円高いにすぎません。手数料が発生することを考慮すると、このときは「消費増税前後の金売買」はしなかったほうがよかった、といえます。

2014年4月:消費税5→8%のころの金の値動き

  • 2014年3月:月平均4,446円/グラム
  • 2014年4月:月平均4,322円/グラム(3月比2.8%減)

4月の価格は3月の価格より4.1%安くなっていますので、「消費増税前後の金売買」はしなかったほうがよかったでしょう。

2019年10月:消費税8→10%のころの金の値動き

  • 2019年9月:月平均5,256円/グラム
  • 2019年10月:月平均5,223円/グラム(9月比0.6%減)

10月の価格は9月の価格より0.6%安くなっていますので、「消費増税前後の金売買」はしなかったほうがよかった、といえます。

ただ、価格が安いときと高いときをピンポイントで見ると、得をするタイミングも存在しえます。
日々の相場の情報が記載されている「三菱マテリアル GOLDPARK」サイトの小売価格を参照してみます。

【参照】三菱マテリアル GOLDPARK|2019年金価格チャート

  • 2019年 9月30日: 8%税込5,653円/グラム→税抜5,234円/グラム
  • 2019年10月28日:10%税込5,810円/グラム→税抜5,282円/グラム(9月比0.9%増)

もし、小売価格と買取価格の差が0.9%以下の差であれば、「消費増税前後の金売買」は意味があったといえます。
ただ、実際のところ、このようにピンポイントで有利なタイミングを狙うことは難しいでしょう。

3-2.金相場の値上がりのほうが重要

ここで「違った見方」をしてみてください。
田中貴金属工業の小売価格を参照すると、金の価格は、1997年3月の1,439円/グラムから、2019年10月の5,223円/グラムへと、約3.6倍近く上昇しています。

「消費増税前後の金売買など考えるよりも、金相場の値上がりを期待したほうが、大儲けできるチャンスがあるかもしれない」といえそうです。

まとめ

消費増税前に金を買い、消費増税後に金を売る「金の投資法」は、金相場が値下がりせず、貴金属会社の手数料が安い、という2つの条件が重なれば、うまくいくでしょう。
しかし金相場は常に上がったり下がったりしますし、貴金属会社は、自社が損しないように手数料を設定しています。

そのため、もし次に消費増税が行なわれることがあっても、「消費増税前後の金売買」投資は、慎重に検討したほうがよいでしょう。

金投資についてもっと知りたい方は、こちらをご覧ください。

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監修
ZEIMO編集部(ぜいも へんしゅうぶ)
税金・ライフマネーの総合記事サイト・ZEIMOの編集部。起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)を中心メンバーとして、税金とライフマネーに関する記事を今までに1300以上作成(2024年時点)。
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