アリペイ(Alipay)は何故スーパーアプリなのか
中国のお店に行ったらレジで必ず聞かれるのは「支払はアリペイですか、WeChatですか」という質問です。ご存知の通り、中国で支付宝(Alipay)と微信支付(WeChat pay)を使っていない人は赤ちゃん以外いないと言えるぐらい、この二つのアプリが、中国のキャッシュレス決済市場を独占しています。
しかし、この二つのアプリにできることは、店頭でのキャッシュレス決済だけではありません。アプリが全中国の国民に広がった大きな理由として、その「圧倒的な便利さ」があげられます。
想像がつかないほど、多種多様なサービスが一つのアプリで提供されています。もちろん、すべてのサービスがアリババグループから提供されているわけではなく、ほかのスタートアップなどとの連携により大規模なサービスを実現していますが、多くのサービスと紐づく膨大なデータが一つの会社に流れていることをも意識しつつ、読んでいただけると、いろいろと考えさせられます。
この記事では、アリペイ(Alipay)の店頭決済以外の機能について解説します。微信支付(WeChat pay)については、また別の記事で紹介します。
アリペイのメインサービス
アリペイアプリを開くと、たくさんアイコンが出てきます。これらのアイコンは一つ一つ異なるサービスを提供しています。
国民的によく使われるアプリは、すぐにタップできるようにホームで表示されています。送金・受取、両替レート確認、Uber、航空券や鉄道チケット予約など、生活に密接する便利なミニアプリが集まっています。
メインとなるサービスは10個ありますが、そのうち特に多く利用されている八つのサービスを紹介します。
送金・受取(Transfer)
「送金・受取」機能はアリペイの核にあたる機能です。友達、お店、取引先と自由に送金・受取ができ、その記録もきちんと残されて、確認ができるようになっています。
送金・受取機能をベースに、ここではほかにも様々な周辺サービスが提供されています。
ここでできること:
- Alipayユーザー、銀行口座、海外口座へ送金
- 最近の取引情報を確認
- 自分のAlipayアカウントをWeChatから友達等に送れるように、専用コードを発行する
- 複数人に送金
- 家賃を振り込み日に自動送金・受取確認
- 近々発生する、返済・記念日・仕送り・家賃振り込みのための送金を設定し、自動振り込みか、その日にリマインドするように設定する
- オーディオで送金を指示する
データ容量チャージ(Top-up Center)
「通信データがなくなりそう!」そうなったときに、ここから、Alipay残高を使ってデータチャージができます。
日本にはデータ通信提供会社が複数ありますが、中国は国営の会社が独占して提供しているため、こんなサービスとの連携が簡単に可能になっているのですね。
おつり投資(「余额宝」)
「一万元振り込めば、三十日間で19.44元が収益になる」
「19.44元」という収益率は毎日変動します。年率換算で2.33%の利回りです。低金利に慣れた日本人にとっては、なかなか魅力的な利回りですね。
少額で投資ができるサービスですが、少しゲーム性も含めて、投資額を自分で設定し、「願い事」を書き、定期的に振り込むように設定したり、「消費するたびにお金を増やす」というコンセプトで、Alipayを使った消費でおつりが出るたびに積み立てる、等の設定ができたりします。
また、実際どれぐらい収益になるか、オペレーションできるツールもあります。少し警戒心を持つ人が安心して使ってくれるように、デザインしたのでしょう。
両替レート(Exchange Rate)
Alipayを海外で使う際のレートをここから確認できます。普通の銀行のレートよりはお得に設置するのをAlipayは心がけています。すぐ確認できるので、安心できますね。
クーポン(Coupon)
主に観光における現地のクーポンが入っています。そのほかにも、免税手続きのための支払QRコードの発行、ホテルの予約ができます。実は旅券の申請・予約もここから移民管理局のサービスにつながって、すぐ申請できるようになっています。海外旅行が大好き、でも旅券の申請を毎回しなくてはいけない中国パスポート所持者に対しては、便利なサービスです。
公共料金の支払い(Utilities)
このサービスから支払える料金は7種類です:
- 光熱費
- 水道代
- ガス代
- ケーブルテレビ代
- 固定電話代
- Wifi費用
- 建物管理費
芝麻信用(個人信用スコア)(Zhima Credit)
Alipayアプリ内での支払いに基づく様々な要素に基づき、個人信用にスコアがつけられます。そのスコアに基づいて、アリババが運営する金融会社のローンを受けやすくなったり、アリババグループ内の電子商取引サイトにおいて信頼できるプロフィールを持つことができたりします。
中国のマッチメイキング企業「Baihe.com」はサービスの一部として「芝麻信用(zhi ma xin yong ジーマー信用)」のデータを利用しています。一方、アリババライバルのWechatを運営するテンセントは独自の信用システム「テンセント・クレジット」を運用しています。
航空券・鉄道チケット予約(Air&Rail)
航空券、高速鉄道、旅行バス、ホテルの予約がここでできます。アリババ傘下の旅行サービスサイト「飛ぶ豚(飞猪)」につながります。
日常生活関連
まだまだ三分の一しか紹介しきれていませんが、いかがでしょうか。使ってみたいと思ったサービスはありましたか。それとも、日本ではこんなアプリは実現が難しいと思いましたか。
生活インフラがほとんど国営というところもあって、連携が比較的簡単で、すぐ実現できる、という点は大きいです。お金や信用についてよりオープンで敏感な中国で育ったアプリからその国の国民性も観察できるかと思います。
ここからは、さらに、都市生活関連のミニアプリを紹介していきます。
日常生活に関するサービス(City Service)
このミニアプリからできること:
- 積立金確認
- 交通ICカードチャージ、コード提示
- 罰金支払い
- 社会保険支払い
- 納税手続き
- 病院予約
- 光熱費支払
- チャリティー
- 上海図書館サービス
- 古本売買
- 本の貸し出し
- 体育館貸し切り予約
- マラソン申し込み
- 講座情報
- 不動産賃貸、売買
- 競売不動産買受
- 就活
- 証明写真撮影
- 教育資金計算機
- 「タオバオ大学」講座視聴
- 全国統一試験情報確認
- 納税
ありとあらゆるサービスがありますね。
配送サービス(My Packages)
アリババ傘下の物流サービス「菜鸟裹裹」、他社の「顺丰速运」につながっていて、送りたいものを家まで取りに来てくれます。また、荷物がどこまで届いたかを追跡できます。もちろん支払いもここから直接支払うことになります。
健康管理(Health Care)
アリババ傘下の「アリ健康」が運営するアプリにつながります。中国は、人口が多いわりに、病院が少ないため、治療に行っても行列が長く、病人としてはとても大変です。
このサービスは全国多数の医療機関とつながっています。医師との面談治療を予約したり、薬を家まで届けてもらったり、健康保険を購入したりできる以外、ダイエット管理関連ツールも整備されています。
ダイエット管理ツールでは、毎日の運動量を記録したり、食べたものを撮影することで自動にカロリーや栄養素を計算し記録したりしてくれます。
家計簿(Money Tracker)
ここでは、アリペイで記録された支払・受取記録が見え、カテゴリー別に記録されています。つまり、ほとんどすべてをAlipayで支払えば、家計簿を作る必要性もなくなる、ということです。
電子領収書作成(E-invoice)
事業者向けに、中国の消費税「増値税」の電子領収書を作成するサービスです。中国では、領収書は電子発行でも法律上大丈夫です。
自動車管理(My Car)
自動車関連のサービスです。
このサービスでできることは自分の車に限られていません:
- 停車違反車の検挙
- 罰金支払い
- ETCチャージ
- 運転手ポイント記録
- 交通違反検挙
- 年ごとの検査予約
- 他人に運転してもらうサービス
- 保険購入
- ガソリンカードのチャージ
車についての情報がここに集約してくれるので、車好きには自車管理にとても便利なサービスかもしれません。
海外通信(Oversea Data)
このサービスでできること:
- 海外でのデータを購入
- 海外Wifi、電話カードを購入
- ビザを業者に申請
金融サービス
次は、金融サービスを見ていきます。
花呗(Huabei)借呗(Jiebei)
「hua」はお金を使うという意味で、「jie」はお金を借りる、という意味です。「bei」は「もっと気軽くしたら?」というニュアンスで話すときに付ける語尾です。
この二つとも、アリババ傘下のサービスで、「Huabei」はタオバオ等のネットショップで使えるクレジットサービスで、クレジットカードと似ていて、返済日までに返済すれば利息は付かなく、遅れたら利息が付き、分割払いも対応しています。
「Jiebei」は少額借金ができるサービスで、申請した限度で借金して、直接Alipay残高に振り込まれることになります。
保険(Insurance)
これも、アリババ傘下の保険サービスで、様々な保険商品を購入できます。家族や収入などの情報を入力したら、AIが自分に適切な保険をお勧めしてくれます。自動車保険、健康保険、年金保険、旅行保険など、いろんなタイプの保険があります。
教育・福祉
ここからは、教育・福祉関連サービスを紹介します。
学校生活(Campus Life)
ここでできること:
- 学生カードにチャージ(中国では、ほとんどの大学の学生は構内で生活が完結します。そのため、構内サービス、食堂、シャワールーム、洗濯機等を一枚のカードで支払えるようにしているところが多いです。)
- バイト情報
- 大学英語試験成績検索
- 証明写真撮影
- 洗濯マッチング(ほかの人と一緒に洗濯機を使いたい人をマッチング)
- CV作成
- 学費支払
- 就活情報
まだすべてがフル活用されているわけではないですが、全部使えるようになったら、かなり便利になる学生生活が想像できます。日本で似ているような役割を果たしているのは、PASMOとSuicaのICカードでしょうか。
また、これの中高生版として、「K12」というサービスがあります。
このアプリでは、学費を支払ったり、電子学生証を発行したり、お小遣いを管理したりすることができます。また、学校と連携して、顔認証技術で学校のセキュリティー管理、支払管理ができるサービスもあります。例えば、まず学生の顔データを入力して、構内に入る際に顔を認証させ不審者でないか確認する、食堂の支払いを顔をスキャンさせて支払を済ませる等。学校内のセキュリティーは万全、混雑食堂もスムーズに進む、とはいえ、未成年の中高生の顔データもアップデートされるのかと考えると、抵抗感は少し感じますね。
チャリティー(Alipay Love)
ここでは、寄付プロジェクトがたくさん羅列されていて、自分が寄付したいプロジェクトにいくつでも送金することができます。プロジェクトの種類もいろいろあって、例えば:
- 貧しい地域における子供の教育
- 白血病の子への治療費
- 年金がない年より華僑の生活費
- 貧しい老人の食費
- 文化遺産の伝承
- 少数民族文化の伝承
- 盲人カフェ調理師への夢基金
また、寄付の方式も、工夫されていて、いろんな形式での寄付が可能になっています。例えば:
- 毎度のおつりから寄付
- 毎月定期的に自動寄付
- 毎週定期的に自動寄付
- 歩いて寄付
「歩いて寄付」とは。と思う方がいると思いますが、これは自分が一日中に歩いた歩数に比例して、提携した企業(主に医療機関、製薬会社)が、寄付金を任意のプロジェクトに出す、という仕組みになっています。例えば、一日一万歩歩いたとして、自分が歩数を「寄付」すると、企業が「0.1元」寄付金を出してくれます。
まとめ
隣国中国で使われるスーパーアプリと呼ばれる、アリペイですが、生活費用から賃貸借金などのお金の管理、学校教育や旅行で必要になるサービスまで、また社会貢献などにもつながるという、ありとあらゆるものが詰め込まれています。全部は紹介されていませんが、全体像が分かるぐらいまでは紹介できたかと思います。
こんな大規模なサービスを一つの会社が全部開発しているのではなく、いろんな会社との連携サービスがあって、成り立っています。
人と人の「つながり」の複雑さ、密接さ、新しいものへ踏み出すフットワークの軽さ、日本と比べて必ずしも高くないプライバシー情報流出への警戒感、このような中国社会が、このようなアプリの拡大を可能にしたのではないでしょうか。
日本は同じようなアプリができる・できないかはともかく、日本の文化、人々の感覚に合ったアプリがこれからも開発され、日本社会でも生活がより便利になったらいいですね。