軽減税率の財源はどこから?

お金 財源

2019年10月から消費増が増税されると同時に軽減税率の制度が始まりましたが、この2つは矛盾した政策です。消費税の増税は国民からお金を集める政策であり、軽減税率は集めるお金を減らす政策だからです。
日本は、世界有数の赤字国家です。高齢化と労働者人口の減少はまだまだ続くので、まだまだ社会保障費は膨張し、税収入はまだまだ減り続けます。

政府はこの危機的状況のなかで、どのようにして軽減税率の財源をひねりだしたのでしょうか。
結論は「将来にツケを回す」ことで軽減税率を実現したのですが、そこに至る経緯は複雑です。

1.日本の赤字

財務省発表によると、2019年6月末時点で、日本政府の借金は、国債と借入金を合わせて約1,105兆円です(*1)。
この借金はまだまだ増える傾向にあります。例えば2017年の国の予算は97兆円でしたが、そのうち34兆円を公債金という借金でまかなっています。

巨大な借金の原因は、医療、子育て、介護、年金、生活保護などにかかるお金「社会保障費」です。それで政府は「消費増税による増収分は社会保障の充実と安定のために使う」「社会保障費の安定財源にする」と説明しています(*2)。

*1:財務省:国債及び借入金並びに政府保証債務現在高(令和元年6月末現在)
https://www.mof.go.jp/jgbs/reference/gbb/201906.html
*2:知ってほしい!消費税のこと。暮らしのこと。 | 政府広報オンライン
https://www.gov-online.go.jp/cam/shouhizei/tsukaimichi/

2.なぜ消費税を増税するのに軽減税率を導入するのか

消費税増税が必要になったのは、国と地方自治体の借金が膨れ上がったからです。借金を返すためには、国民から集めるお金を増やさなければならなかったのです。
ではなぜ、消費税増税でお金を増やそうとしているのに、軽減税率を導入して、集めるお金を減らそうとしているのでしょうか。

それは消費税の増税が国民生活に与える影響が大きいからです。そこで、生活に特に深く関わる飲食料品などについては、10%ではなく8%を適用することにしました。
8%に負担を軽減しているので、軽減税率といいます。

3.消費税増税の増収と軽減税率の減収

消費税を8%から10%に上げたことで、約5兆6,000億円の増収になります。
ただ、軽減税率を実施することで、約1兆円の減収になります。
つまり「消費増税+軽減税率」によって約4兆6,000億円(=5兆6,000億円-1兆円)の増収になります。

4.軽減税率の財源は

政府と財務省は当初、「税収を5兆6,000億円増やして、なんとかやりくりしよう」と考えていたわけです。ところが、国民の消費増税への反発が強かったため、軽減税率によって「1兆円おまけ」することにしました。
そうなると、政府も地方自治体もやりくりできなくなります。政府と地方自治体がやりくりできなくなると、行政サービスが低下したり停止したりするので、それは回避しなければなりません。それで政府は、次のようにやりくりすることにしました。

  • 社会保障の事務費を浮かしたり余剰金を使ったりする:1,000億円
  • 低所得者向けの医療費・介護費の負担軽減策「総合合算制度」の見送り:4,000億円
  • たばこ増税と給与所得控除の縮小:3,000億円
  • 免税事業者への課税など:2,000億円

これでちょうど1兆円になります。
つまり、節約したり、他の負担を増やしたりして、軽減税率がつくった「穴」を埋めるわけです。

ただ、これはあくまでも政府の試算ですので、実際にはこのとおりにならない可能性も高いです。

本質は「将来へのツケ回し」

軽減税率の減収のやりくりを紹介しましたが、それは本質的な話ではありません。なぜなら「お金には色がついていない」からです。ある人が100万円の税金を支払っていたとします。しかしその100万円が道路整備に使われるのか社会保障に使われるのか学校建設に使われるのかはわかりません。

したがって、「軽減税率の減収の穴を埋めるために、節約したり、他の負担を増やしたりした」と説明されても、穴埋めが必要な赤字事業は軽減税率以外にもたくさんあるので、どのお金がどの事業の穴埋めに使われているかは、本来は確認のしようがありません。

軽減税率の減収の財源の「本質」は、冒頭で紹介した34兆円の公債金という借金です。政府の借金は、将来の国民の借金です。なぜなら公債金(国債など)として調達したお金は「今の国民」が使いますが、そのお金は「将来の国民」が支払わなければならないからです。
つまり、軽減税率の減収の穴埋めをしているのは、将来の国民、すなわち今の子供たちやこれから生まれてくる子供たちです。

まとめ

消費増税は国民生活へのインパクトが大きすぎるので、政府は軽減税率を導入しました。軽減税率を実施するには財源が必要で、そのために節約したり別の負担を増やしたりしました。
しかし子供たちにツケを回していることには変わりありません。

服部
監修
服部 貞昭(はっとり さだあき)
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を2000本以上、執筆・監修。
「マネー現代」にも寄稿している。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
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