税務調査はどう変わるのか?法定デジタル通貨が発行される近未来図

執筆
荒井 薫(あらい かおる)
労働省→公認会計士→コンサルタント→事業会社CFO&国際ブランド付きプリペイドカード事業の立ち上げをやりました。子供の頃から物書きになりたかったため、書く感性を磨きながら、皆さんに様々な情報をお伝えしていければと思っています。
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税務調査_法定デジタル通貨

1.もうすぐ法定デジタル通貨の時代がやって来る?!

本サイトでは、最近話題急上昇となっている「デジタル人民元」に注目をしています。

私達が「デジタル人民元」に注目をしている理由は2つあります。

一つは、日本人を取り巻く国際環境に中長期的に大きな影響を与える可能性があるからであり、もう一つは、Fintechの中でも「法定デジタル通貨」は、本サイトにとって身近な経理業務、財務業務、税務等に大きな影響を与えることが想定されるからです。

前回の記事では、「デジタル人民元」を理解するために、「法定デジタル通貨」について分かり易く説明をしましたが、今回は、その法定デジタル通貨が実用化される時代に、私達の業務や税務がどうなっていくのか未来図を考えてみたいと思います。

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1-1.法定デジタル通貨とは?(おさらい)

多くの人は、通貨と言うと「紙幣や貨幣」を思い浮かべると思います。つまり、通貨というのは形を持っていて、数えることが出来て、お財布の中に入れておくものであるという認識です。

では、「法定デジタル通貨」とは何をイメージすれば良いのでしょうか?

前回の記事の中で、デジタル人民元を説明する際に、「元という法定通貨に基づく中国政府のお墨付きの電子マネー」という説明が一番分かり易かったようです。

この説明に基づいて「法定デジタル通貨」を説明すると、「円やドルという法定通貨に基づく各国政府のお墨付きの電子マネー」というのが比較的分かり易いと思います。

実際には、ブロックチェーン技術を使った場合には、単なる電子マネーと違い、お金の移動についてログを持つことになるので、オペレーションは違って来ますが、まずは簡単な定義で理解するところから始めましょう。

1-2.法定デジタル通貨時代はいつ来るのか?

では、法定デジタル通貨が発行されるのは、いつのことなのでしょうか?

今年の春くらいまでは、「まだ当面先のこと」だというのが関係者の認識でしたが、2019年の夏くらいから、関係者の認識は一気に変わりました。

下記は、先日の日経新聞の記事ですが、中国政府がデジタル人民元を発行するのは、かなり近々のことのようで、最近では関係者の発言から2020年であろうと考えられています。

ここ数か月で、法定デジタル通貨の時代は一気に現実味を帯びてきたということになります。

「デジタル人民元の発行視野 中国、国内利用を優先 「リブラ」の脅威に先手」

1-3.では、日本はどうなるの?

日本については、現状では中央銀行である日銀は、具体的な発行の可能性に関しては静観しているようです。

しかし、日銀でも数年前からブロックチェーン技術を使った法定デジタル通貨の研究を、欧州中央銀行と共同で進めています。

「Project Stella」と呼ばれており、日銀のHPには、その共同調査報告書が誰でも読めるように公開されています。

Project Stella:日本銀行・欧州中央銀行による分散型台帳技術に関する共同調査報告書(第3フェーズ)
こちらのサイトでは、Project Stellaのすべての報告書をダウンロードして入手することが出来ますので、興味がある方は是非ご覧になってください。

2.未来の経理業務

どうやら、法定デジタル通貨の時代はそう遠くないようです。

法定デジタル通貨の時代になると、私達は、お財布の代わりにデジタルウォレット(セキュリティがしっかりしたモバイルSuicaのようなものをイメージすると分かり易いと思います)でお金を管理して、

デジタルウォレットの通貨利用履歴(いわゆるログ)に基づいて大半の記帳業務が出来るようになると思われます。

社員の仮払いは?仕入先への支払いは?売掛金の入金は?給与の支払いは?
さて、私達の経理・財務業務はどんな風に変わるのでしょうか?
未来の経理・財務業務を想像してみましょう!

2-1.買掛金の支払いと売掛金の入金は大きく変わる!

法定デジタル通貨であれば、銀行口座を介する必要なく、デジタルウォレットからデジタルウォレットへの送金で決済することが可能になるはずです。
法定デジタル通貨が発行される場合には、その利用履歴などのログはブロックチェーン技術で管理されることとなるでしょう。

ここでは、ブロックチェーン技術の専門的な説明は省きますが、ブロックチェーン技術で管理される法定デジタル通貨と、単なる電子マネーの決定的な違いは、その資金の流れを改ざん不可能なログで管理出来るところです。

ですから、売掛金の入金や買掛金の支払いなど、毎月継続して発生する比較的多額な支払から、法定デジタル通貨が利用されるようになると筆者は予想をしています。
ブロックチェーン技術を使ったログが効率よく活かされるシーンだと考えています。

そして、銀行口座を介さないので、送金手数料が無料またはかなり安くなるという利便性も期待出来ると思います。

2-2.海外の子会社にはどうやって資金を送るの?

デジタル人民元に関する記事を読んでも、当面、法定デジタル通貨は、それぞれの国の国内決済や送金をその利用範囲と想定しているようです。

通貨単位が異なる国際送金に関しては、デジタル通貨であっても為替換算が必要となります

将来的に複数の国が法定デジタル通貨を発行するようになっても、法定デジタル通貨のまま海外で受け取って貰うためには、管理に使われるブロックチェーンに関して一定の互換性を必要とする可能性が高いと思われます。

この辺りは、世界の主要国において、法定デジタル通貨発行に対する温度感はかなり違うので、各国とも当面は国内利用を想定するはずです。

ですから、海外送金については、しばらくは従来通りの方法を使って行うこととなるでしょう。

2-3.社員のお給料の支払いはどうなるの?

社員のお給料は、会社のデジタルウォレットから社員のデジタルウォレットに送金されることで、その支払いが可能になると思われます。

売掛金や買掛金と同様に、毎月反復継続的な支払いがあるわけですから、給料の支払いこそ法定デジタル通貨を使うメリットは大きいと思います。銀行を介さないので、振込手数料を銀行に支払う必要がありません。

そうなると、現在、日本では毎月1回給料を支払っていますが、欧米諸国のように月に2回給料を支払ってもらうことも可能になるかもしれません。

社員とその所属する企業の場合、お互いのプライバシーを確保するために、ブロックチェーンによるログは、
社員に給与を支払う段階で一旦リセット(少なくとも各自のデジタルウォレット内では)されることが好ましいと思われます。

会社としては、社員にどこの取引先から来たお金なのかなどの情報を社員に知られてしまうことは一定のリスクがあるからです。この辺りの実務は、まだ今の段階では見えない部分が大きいです。

3.法定デジタル通貨になると税務調査はこんな感じ?

法定デジタル通貨には、ブロックチェーン技術が使われると想定出来ます。ブロックチェーン技術が使われると、経理担当部署にとっては余り歓迎したくない税務調査の様子も様変わりするでしょう。どんな風に様変わりするのでしょうか?

3-1.10年後、FGG-bub会社に税務調査がやってきた!

AIを活用した税理士や弁護士のマッチングサイトや、金融、経済、税務に関する専門メディアを運営しているFGG-bub会社に税務調査が入りました!
と言っても、税務署職員は、会社にすぐにはやって来ません。

FGG-bub会社では、原則として会社が1か月に動かす資金総額の90%以上を法定デジタル通貨で行っている企業として税務署に予め登録をしているからです。

この登録をしていると、税務署は、最初に税務調査Phase1権限を行使して、会社のデジタルウォレットにアクセスをして、デジタル通貨のログを収集し、AIを用いて不自然な資金の流れがないかどうかをまずはチェックすることになっているからです。

通常、このPhase1権限の範囲で大きな問題が発見されなければ、税務署よりヒアリングシートが送られて来て、そのやり取りだけで税務調査が終わることもあります。

けれども、FGG-bub会社では、外注先として多くのライターを抱えており、またインターンには外国人の学生を積極的に採用しているので、主に資金の流れに関して従来通りの訪問調査が入ることになりました。

3-2.高齢ライターへの報酬支払方法の指摘

FGG-bub会社では、第一線の業務を引退した公認会計士や税理士を活用して、「簡単お助け税務相談」サービスというのをやっています。

従来は記事をアップしていたものを、会員に登録をすればその記事に関して、チャットで簡単に質問が出来るという優れものです。

このサービスを担っている公認会計士や税理士の方々は比較的高齢なので、法定デジタル通貨での報酬の支払いではなく、銀行振り込みを使っています。

法定デジタル通貨で支払うと、その支払いに紐付けされる源泉徴収税の情報を使って簡単に確定申告が出来るのですが、銀行振り込みをしている場合には未だ紙で源泉徴収票を発行しています。

税務署としては納税漏れを防ぐために、すべてのライターへの支払いを法定デジタル通貨でして欲しいとリクエストがあったのですが、

やはり、一部の高齢者にはデジタル通貨は受け入れられない現状を、FGG-bub会社の社長は丁寧に説明をしました。

けれども来年からは、法定デジタル通貨で支払った報酬の源泉徴収の方が早く税金の還付がされるようになると税務署から説明があり、

FGG-bub会社の社長は、今後はすべての報酬の支払いを法定デジタル通貨にして、会社としても更なるメリットを追求しようと考えています。

3-2.外国人インターンへの報酬についての調査

FGG-bub会社には、主に東南アジア諸国から日本に留学をしている学生インターンを積極的に雇っています。特に、法定デジタル通貨の先進国である中国からのインターン生には、経理業務の効率化を手伝って貰っています。

インターン生への報酬はすべてデジタル通貨で支払っているのですが、その中から母国に仕送りをしている学生が数名います。今のところ、海外送金をする時には、彼らはvisaの仕送りカードを使っています。

法定デジタル円からvisa仕送りカードにチャージをすると、visa仕送りカードのアカウントに入っている円を、母国でそのまま家族が持つvisaカードで使えるようになっているのです。

今まではカード利用で使っていたのですが、一人のインターン生について、最近末の弟が高校に入学するということで、現地でATMから現地通貨で引出しをしました。

本来は海外送金実績として税務署に提出をしなければならなかったのですが、うっかり失念してしまっていました。

こういう提出を失念すると、次のビザ更新の際に不利になるので、税務署からは注意を受けて、過去に遡って失念していた提出をするようにと指摘されました。

3-3.代表取締役社長の報酬は法定デジタル通貨で支払っています

FGG-bub会社では、数年前から代表取締役社長の報酬は全額法定デジタル通貨で支払っています。

会社から社長のデジタルウォレットに送金をする時に、通貨のログをそのままにすることを条件に、代表取締役の報酬額を柔軟に変更することが認められているからです。

最近ではAIを使った事業も軌道に乗り、代表取締役の報酬も安定的に支払うことが出来るようになりましたが、一時期AIへの投資が嵩んだので、代表取締役の報酬を臨機応変に減額出来るので、この制度を利用することにしました。

税務署としては、同族会社の会社と代表取締役の資金の流れが不明瞭なところは、税務調査でも一番労力を要するところです。

デジタル通貨のログをそのままにすることで、代表取締役による会社の私物化をけん制出来るので、税務メリットを作りこの制度を推奨しています。

FGG-bub会社はいち早くこの制度を取り入れたことで、メディアの取材なども受けたので、会社のPRにも役に立ち、税務署の印象も良くなりました。

ということで、FGG-bub会社では、今回の税務調査では、インターン生による海外送金実績の提出不備以外の指摘事項はなく、無事税務調査も終わりました。

4.まとめ

一部、筆者の想像力を駆使して、法定デジタル通貨時代を具体的に描いてみました。

これは、あくまでも筆者の想像の域ですが、少なくとも法定デジタル通貨が発行されると、今よりも資金の流れの透明性が確保されます。

ブロックチェーン技術を用いてどこまでのログが管理されるのか、そして、それはプライバシーの確保とどう共存させるのかなどについては、まだ見えないところが多々あります。

けれども、意図してデジタル通貨を使わずに多額の資金を動かすことで、企業のクレジットスコアリングが悪化する、マネーロンダリングのチェックが厳しくなるなど、金融機関からの企業の選別にも活用されることが予想されます。

本サイトでは、今後も引き続き法定デジタル通貨全般の動きについて、最新動向をウォッチして皆さんに分かり易い記事にしてお届けしたいと思います。

執筆
荒井 薫(あらい かおる)
労働省→公認会計士→コンサルタント→事業会社CFO&国際ブランド付きプリペイドカード事業の立ち上げをやりました。子供の頃から物書きになりたかったため、書く感性を磨きながら、皆さんに様々な情報をお伝えしていければと思っています。
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