クラウドソーシングにおける源泉徴収の問題と解決策

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 クラウドソーシングという働き方をする個人事業主やフリーランサーが増えました。こうした働き方をする人の源泉徴収やマイナンバーはどうすればいいのでしょうか?

問題になるポイントと解決策について解説します。

1.クラウドソーシングとアウトソーシングについて

簡単にクラウドソーシングとはどのようなビジネス形態なのかを説明します。外部委託という面ではアウトソーシングとも似ていますが、両者の意味合いは異なっています。

クラウドソーシングとは?

クラウドソーシングは2000年代中旬以降に誕生した造語で、新たなビジネススタイルの1つです。クラウドソーシング運営会社が、クラウドワーカーと呼ばれる、仕事をしたい人(受注者)を多量に抱え、仕事を頼みたい人(発注者)は運営会社を通じてワーカーに仕事の依頼をします。

また、仕事が完了した場合の納品報告等も運営会社を通じて発注者に行います。業務の契約から納品・完了に至るまで運営会社を通して行うというモデルです。しかも、多くの場合、運営会社のウェブサイト上で発注/受注を行いますので、電話やメールを使う必要がありません。

報酬の支払い/受取に関しても、運営会社を通して行いますので、お互いに名前や住所を知らなくても安心してやりとりできる仕組みであり、近年、利用者が急増しています。

代表的な運営会社にはクラウドワークスランサーズシュフティなどがあります。

アウトソーシングとは?

アウトソーシングは1980年代にアメリカで注目されはじめたビジネス用語で、日本語では外部委託とも訳される言葉です。

こちらは単に企業で抱えていた仕事を、専門業者に委託することを指しています。ビジネスが発注者と受注者の二者間である点がクラウドソーシングの大きな違いです。

2.クラウドソーシングでの源泉徴収

クラウドソーシングで得た報酬も、もちろん所得の対象として扱われます。
所得が発生すれば所得税(法人の場合は法人税)を納める必要がありますが、誰が所得税を納めるのか正しい理解が必要です。

個人への支払いの場合、源泉徴収が必要な場合がある

まずは一般的な話ですが、個人(個人事業主、フリーランサーなど)に対して報酬を支払う場合、特定の報酬・料金に該当する場合は、源泉徴収が必要です。すべての業務で源泉徴収が必要なわけではなく、一部の業務に限定されています。

クラウドソーシングの人気業務としては、ライティング、入力業務、デザイン、プログラミングなどがありますが、このうち、ライティング、デザインに関しては源泉徴収が必要です。

どのような業務で源泉徴収が必要かは細かく規定されていますので、詳しくは、下記のサイトをご覧いただくか、税務署/税理士等にご相談ください。

【参照サイト】国税庁:No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは

運営会社は手数料のみで源泉徴収はしない

クラウドソーシングビジネスの場合、運営会社は発注料金の2割程度をシステム手数料として受け取りますが、運営会社はあくまでも仕事の受発注を仲介しているだけで、ワーカーに対して賃金を支払っているわけではありません。

したがって、運営会社がワーカーに対して源泉徴収をすることはありません

発注者に源泉徴収の義務がある

クラウドソーシングビジネス上では、受発注契約は発注者/受注者の二者間で行われますので、発注者が受注者に対して報酬を支払います。形式的には運営会社が介在しており、発注者はいったん運営会社に支払い、運営会社が受注者に対して支払いますが、あくまでも報酬の支払い元は発注者です。

したがって、源泉徴収をする義務があるのは発注者になります。ただ、実際に源泉徴収するかどうかは発注者の方針によって異なり、源泉徴収を行っていない発注者(多くは法人)も多くあります。

報酬を受け取ったワーカーは、確定申告が必要

運営会社のシステム手数料が2割としますと、クラウドワーカーは、システム手数料を引かれた8割分の報酬を受け取ることになります。

もし、源泉徴収されていれば、この8割分の金額からさらに源泉徴収分が引かれることになります。源泉徴収されていなければ、確定申告時に所得税を納める必要があります。

いずれにしても、所得税の金額は年間所得に対して決まりますので、翌年の2月16日~3月15日の間に確定申告をする必要があります。もし源泉徴収されていて多く納め過ぎていれば還付金として返還されますし、不足があれば追加で納めることになります。

源泉徴収の対象金額は手数料を引かれる前の金額

源泉徴収の対象となる金額はシステム手数料を引かれる前の金額になります。

なぜなら、報酬はあくまでも発注者から受注者に対して支払われるものであり、運営会社が受け取るシステム手数料は仲介したことに対する報酬にすぎないからです。

受注者が実際に受け取る8割の金額が源泉徴収の対象になると間違えている方もおりますが、ご注意ください。

3.源泉徴収なし/ありの場合の計算例

源泉徴収なし/ありの場合の計算例を見てみましょう。

源泉徴収なしの場合

契約金額:10,000円(税抜)とします。消費税10%では、税込:11,000円で、これが発注者が支払う金額です。

システム手数料を2割とすると、2,200円(税込)ですので、差し引くと、8,800円(税込)となり、これが受注者が実際に受け取る金額です。

源泉徴収ありの場合

同じく、契約金額:10,000円(税抜)(税込:11,000円)とします。

源泉徴収額は次の表のようになります。

支払金額(=A) 税額
100万円以下 A×10.21%
100万円超 (A-100万円)×20.42%+102,100円

契約金額:10,000円(税抜)に対しては、源泉徴収額=10,000円×10.21%=1,021円となります。

発注者が支払う金額は、税込の契約金額から源泉徴収額を差し引いた金額、11,000円-1,021円=9,979円です。
一方、受注者が受け取る金額は、システム手数料2割を差し引いた金額ですので、9,979円-2,200円=7,779円です。

所得税の課税対象額

上記の場合、受注者の収入は税込契約金額の11,000円です。

所得=収入-経費」と計算します。システム手数料は経費ですので、所得金額=11,000円-2,200円=8,800円です。この金額が所得税の課税対象額となります。

このうち消費税800円については、消費税の納税義務者であれば消費税として納税し、残りの8,000円を所得として申告します。
消費税の納税義務者でなければ、消費税を納税する必要はありませんが、消費税を含めた8,800円を所得として申告します。

基本的には、2年前の売上が1,000万円(税込)以下であれば消費税の納税義務はありませんが、他にも要件がありますので、詳細は関連姉妹サイトをご確認ください。

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4.支払調書とマイナンバー

発注者が源泉徴収をする場合、翌年1月にそれを証明する支払調書を作成して税務署に提出しなければなりません。支払調書には報酬を受け取った人の氏名・住所・支払金額等を記入しますが、平成28年分からはマイナンバーの問題も発生します。

支払調書とは?

支払調書とは、特定の報酬・料金を個人に支払った方が作成して税務署に提出する書類であり、支払金額が一定の金額を超える場合のみ提出が必要になります。

クラウドソーシングで多いライター、デザインなどの業務の場合、支払金額の合計が5万円を超えていれば提出が必要です。

支払調書には、支払いを受けた人の氏名・住所・個人番号(マイナンバー)・区分・支払金額・源泉徴収税額および、支払者の氏名(会社名)・住所・個人番号または法人番号を記入します。これらの情報を基にして、税務署は誰がいくら所得を得たか確実に把握しようとしています。

支払調書

【出典】国税庁:平成28年分 給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引

なお、支払調書を報酬支払先の個人に対して発行する書類と勘違いされている方もおりますが、これは間違いですのでご注意ください。報酬支払先の個人から支払調書の発行を求められたとしても、発行する義務はありません。

ただ、個人の方から支払合計金額を教えてほしいと依頼されたとき、別途、書類を作成するのは大変ですので、税務署に提出した支払調書をそのまま渡すことが多いようです。

支払調書とマイナンバー問題について

マイナンバー制度の導入によって、支払調書にもマイナンバー(個人番号)を記載する必要が発生しました。

ところが、クラウドソーシングの場合、基本的にはクラウドワーカーとはウェブサイト上でやりとりしますので、ワーカーの本名や住所なども特定できておらず、支払調書を発行できない恐れもあります。

さらにマイナンバーとなるとハードルは高くなります。マイナンバーは個人を特定できる機密情報であり、情報を提出するほうも受け取るほうも細心の注意が必要です。受注者側としては、会ったこともない相手に個人情報を出すのは気が引けますし、発注者側としても個人情報を管理する必要があり負担が増えます。

また、マイナンバーの情報提示に当たっては、単純に番号を知るだけでなく、本人確認を行う必要があります。

【参考外部サイト】国税庁:番号法に基づく本人確認方法

もちろん、ワーカーが了承すれば本名・住所を伺いマイナンバーの提示を受けられるでしょうが、必ず全てのワーカーからマイナンバーを聞き出せるとは限りません。

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5.氏名・住所・マイナンバーがわからない時の解決策

源泉徴収をするが支払調書を発行しない

クラウドワーカーの氏名・住所・マイナンバーがわからず、支払調書を書けない場合には、解決策として「源泉徴収をするが支払調書を発行しない」という方法が考えられます。つまり、源泉徴収は正しくしているが、相手の情報がわからないので支払調書の書きようがありませんというものです。現状では一番の解決策といえるでしょう。

ただし、この場合でも、支払先の個人に対してマイナンバーを提供してくれるように依頼し、一度は拒否されたとしても法律で定められた義務であることを伝え提供を求める必要があります。

国税庁のマイナンバーに関するFAQには次のように記載されています。

法定調書の作成などに際し、従業員等からマイナンバー(個人番号)の提供を受けられない場合でも、安易に法定調書等にマイナンバー(個人番号)を記載しないで税務署等に書類を提出せず、従業員等に対してマイナンバー(個人番号)の記載は、法律(国税通則法、所得税法等)で定められた義務であることを伝え、提供を求めてください。

それでもなお、提供を受けられない場合は、提供を求めた経過等を記録、保存するなどし、単なる義務違反でないことを明確にしておいてください。

経過等の記録がなければ、マイナンバー(個人番号)の提供を受けていないのか、あるいは提供を受けたのに紛失したのかが判別できません。特定個人情報保護の観点からも、経過等の記録をお願いします。

【引用】国税庁:法定調書に関するFAQ

つまり、マイナンバーがわからないから書きませんでしたというのはNGで、マイナンバーの提供を受けるべく努力する必要があるのです。

多くの企業にとって、日々の業務で忙しい中で、さらにマイナンバー提供依頼の業務がプラスされるのは非常にきついところですが、法律で定められた義務ですので、顧問税理士と相談するなどして、対策を考えられたほうが良いでしょう。

源泉徴収をしないのは危険

現状、クラウドソーシングで個人に対して支払をしている発注者が源泉徴収をしていないケースはかなりあると思われます。源泉徴収義務があるとわかっていながら面倒なために行わない発注者もいますし、そもそもクラウドソーシングで源泉徴収義務があることを知らない人もいるでしょう。

だからといって、源泉徴収をしないのは非常に危険であるといえます。なぜなら、源泉徴収は支払者の義務であり、追徴課税の対象になる可能性があるからです。

仮に、源泉徴収をせず、支払を受けた個人が正しく確定申告をしたとしても、義務を果たさなかった支払者側には別途、源泉徴収分を課税される恐れがあります。もちろん、これでは二重課税になってしまいますが、支払者側としては個人が正しく確定申告をしたかどうかはわかりませんので、税務署から突っ込まれたら反論することは難しいです。

よって、相手の情報が全くなかったとしても、源泉徴収に該当する業務であれば、まずは源泉徴収をしておくのが良いといえます。

発注者の支払いと受注者の受取りのタイミングにずれが生じる

クラウドソーシングでは、多くの場合、運営会社が報酬のやりとりを仲介しています。発注者は発注時に運営会社に対して費用を支払いますが、受注者が運営会社からその報酬を受け取るのは納品完了時です。つまり、発注者から見ると、お金が出たタイミングと、報酬を支払った(受注者が報酬を受け取った)タイミングがずれるのです。

源泉徴収は実際に報酬を支払った(受注者が受け取った)タイミングで行いますので、会計処理がややこしくなることが予想されます。運営会社に支払ったタイミングでは、「仮払い」の扱いにしておき、納品完了時に「仮払い」から「支払報酬」に仕訳をするというような対応が必要になってくるでしょう。

クラウドソーシングというと、面倒な事務処理がなく簡単に仕事を受発注できるというイメージがありますが、もともと一部の業務に関しては源泉徴収が必要でしたし、さらにマイナンバーが登場して、事務処理がかなり大変になってきたといえます。

発注者も受注者もこのあたりをよく検討したうえで、クラウドソーシングを利用する必要があるでしょう。

服部
監修
服部 貞昭(はっとり さだあき)
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を2000本以上、執筆・監修。
「マネー現代」にも寄稿している。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
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