インボイス制度、媒介者交付特例をわかりやすく図解
クラウドワークス、ランサーズなどを利用している人は、インボイス制度の「媒介者交付特例」を利用しますので、今までどおり、クライアントに対して自分の個人情報を伝える必要がありません。副業をしている人も、本名がバレないですみます。
媒介者交付特例とは何か? インボイス登録は必要なのか? などを、具体例や図を使ってわかりやすく解説します。
目次
1.インボイスを発行すると取引先に本名がバレる
2023年10月1日以降、課税事業者が消費税の仕入税額控除を行うには、インボイス登録事業者が発行したインボイス(適格請求書)が必要になります。
インボイス制度では、請求書を発行したのが誰であるかわかるように、請求書に登録番号を記載します。この登録番号は、インボイス登録事業者(適格請求書発行事業者)として、国税庁に登録した事業者に付与されます。
(1)インボイス登録すると、個人事業主の本名が公開される
インボイス制度の問題のひとつが、個人事業主の本名が公開されてしまうことです。
国税庁では、インボイス登録した事業者の公表サイトを作っています。請求書に記載されている番号を入力して、インボイス登録事業者かどうかを確認するために利用するものです。
番号を検索してヒットすると、個人事業主の場合は、氏名または名称、つまり、本名が表示されます。法人の場合は、会社名、住所が表示されます。
個人事業主の場合、屋号やペンネーム・芸名で仕事をしている人の、本名がわかってしまいます。
また、クラウドワークス、ランサーズ、ココナラなどのクラウドワーカーも、基本は本名を出さずに業務をしていることが多いですが、インボイスを発行すると、相手(クライアント)に本名が伝わってしまいます。
副業をしている人は、本名がバレてしまうと問題になるかもしれません。
(2)請求書の送付先から、世間に本名がバレる可能性あり
個人事業主の登録番号を知り、本名を知ることができるのは、請求書の送付先のみです。つまり、請求書をもらった人が、本名をばらさない限り、一般の人に知られることはありません。
たとえば、漫画家やクリエイターなどの場合、イベント会場などで直接、一般消費者に販売するのであれば、通常の領収書を発行するだけで大丈夫です。インボイスは必要ありません。
取引先が、小規模な事業者、つまり、免税事業者や簡易課税事業者の場合も、インボイスを必要としませんので、通常の請求書を発行するだけで大丈夫です。
インボイスの発行が必要になるのは、取引先が、原則課税の課税事業者の場合です。原則課税の課税事業者は、だいたい、課税売上5,000万円を超えている事業者が多いです。
ある程度、大きな事業者ですので、通常は、個人情報を守って、本名をばらすようなことはしないと思いますが、担当者によっては、人気マンガ作家の本名を知って、ついSNSに書き込んでしまうといったことが、起こらないとも限りません。
現状、これを明確に規制するような法律はないようで、相手の倫理観に委ねられてしまっています。
2.媒介者交付特例で、取引先に本名がバレない
そうすると、取引先に本名を知られないようにする方法がほしいところですが、実はその方法があります。それは、「媒介者交付特例」とよばれるものです。
本名をバレないようにすることが目的の制度ではありませんが、結果的に、本名がバレずにすみます。
(1)中間業者(媒介者)のインボイス発行でOK
ここでは、出版業界を具体例として解説しますが、他の業界でも同じです。
漫画家やクリエイターと、出版社との間に、中間業者が入ります。「媒介者」ともいいます。
漫画家やクリエイターは、出版社に直接、自分の作品を提供するのではなく、中間業者に販売を委託します。
そして、中間業者は、出版社に販売します。その際に、インボイス(適格請求書)を発行しますが、中間業者の名称と登録番号を記載します。
そして、中間業者は、インボイスの写しを、委託者である漫画家に発行し、保存します。委託者は、インボイスの写しを保存します。
ここでは、漫画家などの、委託者の氏名と登録番号は、取引先の出版社に通知されないというところがポイントです。漫画家などの個人事業主の本名は、取引先にはわからないようにできるのです。
ここでは、漫画家やクリエイターを例に出しましたが、クラウドワーカーや農家など、他の業界でもまったく同じ仕組みを利用できます。
委託販売の事務の効率化が目的
参考までに、媒介者交付特例は、個人情報の保護が目的ではありません。
委託販売をしているケースでは、販売をしている中間業者が、委託者ごとにインボイスを発行するのは大変な事務作業となりますので、事務の効率化のために、中間業者が自身の名称と登録番号を記載してインボイスを発行すればいいようにしたのです。
結果として、委託者の氏名や登録番号は記載しなくてもよく、エンドのクライアントにも伝わらずにすみます。
(2)免税事業者は媒介者交付特例を利用できない
媒介者交付特例を使うには、次の両方の条件を満たす必要があります。
- 漫画家などの委託者も、中間業者の受託者も、どちらもインボイス登録事業者であること
- 漫画家などの委託者が、中間業者の受託者に、自分がインボイス登録事業者の登録をしていることを取引前までに知らせていること
免税事業者の場合は、残念ながら、この特例を利用できません。
ここは勘違いしやすいところですが、漫画家などの委託者は中間業者の下請け業者ではありません。中間業者に販売を委託しているのであり、実際に販売しているのは、漫画家です。
中間業者(媒介者)が代理でインボイスを発行しますが、あくまでも、事務作業の効率化のため、代理しているだけです。取引の主体は、漫画家と出版社です。
委託者自身が課税事業者でない限り、インボイスを発行することができないのです。
(3)インボイスの写しに代えて、精算書でも可能
中間業者(受託者)が委託者に交付するインボイス(適格請求書)の写しについて、たとえば、複数の委託者の商品を販売した場合や、多数の購入者に対して日々インボイスを交付する場合などで、コピーが大量になるなど、インボイスの写しそのものを交付することが困難な場合には、インボイスの写しと相互の関連が明確な、精算書等の書類等を交付し、その精算書等の写しを保存することでも大丈夫です。
こちらは、国税庁のサイトに掲載されている「適格請求書等保存方式に関するQ&A」より抜粋した、委託販売精算書の例です。
請求書No.により購入者に発行したインボイスと紐づけています。インボイスですので、税率ごとに消費税の金額を明記しています。
3.発行するインボイスの書式
【一つの委託者の取引を1枚のインボイスで交付する場合】
通常のインボイス(適格請求書)と書式は同じです。
受託者(中間業者)の氏名または名称と、登録番号を記載します。委託者の氏名や登録番号の記載は不要です。
【複数の委託者の取引を1枚のインボイスで交付する場合】
複数の委託者の取引を1枚のインボイスで交付する場合は、それぞれの委託者の氏名または名称、および登録番号を記載する必要があります。また、それぞれの委託者ごとに、税率、税込価格(または税抜価格)、消費税額を記載する必要があります。
4.媒介者交付特例の具体例
いくつか、媒介者交付特例の具体例を紹介します。
(1)クラウドソーシング「クラウドワークス」「ランサーズ」等
クラウドワークス、ランサーズなどクラウドソーシング運営会社では、媒介者交付特例に対応します。
受注者であるクラウドワーカーと、発注者であるクライアントは、クラウドソーシング会社が運営するシステムを介して、業務委託の契約をします。
業務終了後、クラウドソーシング会社が自らの名称と登録番号を記載して、請求書(インボイス)をクライアントに発行します。
クラウドワーカーはクライアントに対してインボイスを発行する必要はありませんが、自身がインボイス登録事業者であることと、クラウドソーシング会社に対して、自分がインボイス登録事業者であることを事前に伝えておく必要があります。
(2)農産物の直売所
多数の農家からの農産物を販売する直売所も、媒介者交付特例に対応します。
農家は直売所に販売を委託しており、店舗は直売所を通して農産物を購入します。
中間業者である直売所は、自らの名称と登録番号を記載して、請求書(インボイス)を購入者に発行します。
農家は購入者に対して直接インボイスを発行する必要はありません。ただし、自身がインボイス登録事業者であることと、直売所に対して、インボイス登録事業者であることを事前に伝えておく必要があります。
(3)イラストコミッションサービス「Skeb」
こちらは、クリエイターを支援する、イラストコミッションサービス「Skeb」というサービスです。イラストを描いてもらいたいクライアントが、たった1回の簡単なやりとりで、クリエイターに制作してもらうことができます。
【出典】Skeb
Skebは、インボイス制度に関して、さきほどの媒介者交付特例を利用します。
もし、課税事業者であるクライアントからインボイスを求められた場合は、Skebが、クリエイターの代わりに、インボイスを発行します。
インボイスには、Skebの名称と登録番号が記載されますので、クリエイターの氏名と登録番号はクライアントに通知されません。
クリエイターがインボイス発行事業者であるかどうかにかかわらず、Skebはクライアントから消費税を受け取り、クリエイターも手取りが変わることはありません。
まとめ
さいごに、今回の媒介者交付特例を、もう一度整理しておきます。
漫画家やクリエイターなどの個人事業主と、出版社などの課税事業者の間に、中間業者が入ります。漫画家の代わりに、中間業者が出版社に販売します。
このとき、中間業者の名称と登録番号を記載したインボイスを発行しますので、漫画家などの個人事業主の氏名は、出版社には伝わりません。ただし、個人事業主も中間業者も、インボイス登録事業者である必要があります。
よくある質問
免税事業者でも媒介者交付特例を利用できるの?
媒介者交付特例を利用するためには、委託者も中間業者(媒介者)のどちらもインボイス登録事業者(課税事業者)である必要があります。免税事業者は利用できません。
媒介者交付特例の目的は個人情報の保護ですか?
媒介者交付特例の本来の目的は、委託販売の形態での、インボイスのやりとりを簡略化するためです。
たとえば、市場を介在した農作物の取引が良い具体例です。多数の農家が市場に農作物を持ち込み、店舗は不特定多数の農家から、それらの農作物を購入します。
どの農作物がどの農家からの仕入を特定し、それぞれの農家がインボイスの発行をしていたら、非常に煩雑になるため、中間業者である市場が代理でインボイスを発行すれば良いようにしました。
結果として、農家の個人名や登録番号は、店舗には伝わりません。