消費税10%増税の影響はかなり大きく想定外の落ち込み

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2019年10月の消費税10%増税の影響は、かなり大きいといえるでしょう。その影響は、よいものがなかったわけではありませんが、多くは悪い影響です。

首相は2020年2月に「個人消費が、消費税率引き上げに伴う反動減の影響を受けた」と認めました(※1)。消費増税はさらに、実質国内総生産(GDP)の押し下げ要因にもなりました。
また2020年初頭から新型コロナウイルスが世界的に大流行し、日本経済に追い打ちをかけています。そのため、消費税減税を要望する声も高まっています。

※1【参照】日本経済新聞:首相「増税の反動減も影響」 GDP速報値

1.GDPなど各種経済指標に与えた影響

消費増税の悪影響を、各種の経済指標で確認してみましょう。

1-1.GDP7.1%減の大幅落ち込み

内閣府は2020年2月に、2019年10~12月期の実質GDPを発表しました。結果は、前期比1.8%減(前年比の年率7.1%減)と、大幅に落ち込みました。名目では、前期比1.5%減(年率5.8%減)でした。

消費増税に加えて台風の影響や暖冬による消費の落ち込みも押し下げ要因になっています。
実質GDPの前年比の年率での減少は、5四半期ぶり(15カ月ぶり)になります。

落ち込みを牽引したのは、GDPの半分以上を占める個人消費で、2019年10~12月期は前期比2.8%減でした。
個人消費の落ち込みは政府も予測していて、キャッシュレス決済のポイント還元策などを打ち出していました。しかし、その効果は薄かったと指摘するエコノミストもいます。

【参照】内閣府:2019年10~12月期四半期別GDP速報 (2次速報値)

1-2.国民の自己防衛意識がくっきり

総務省が発表した2020年1月の家計調査によると、2人以上世帯の平均消費支出は月278,173円で前年同月比3.9%減(実質)でした。
過去3カ月も2019年10月の同4.0%減、11月の同1.4%減、12月の同3.3%減となっていて、減少傾向が止まりません。

【参照】総務省統計局:家計調査(二人以上の世帯) 2020年1月分

1-3.大企業景況感6.2ポイントマイナス、景気判断は下降が優勢

内閣府と財務省の法人企業景気予測調査でも厳しい数字が出ています。
2019年10~12月の大企業の景況感はマイナス6.2ポイントでした。景況判断も「下降」が「上昇」を上回り、これは2四半期ぶり(6カ月ぶり)となります。

もちろん、消費増税だけが「犯人」ではありません。米中経済摩擦や、それによる世界経済の減速、そして自然災害も景気を悪化させる大きな要因になっています。
しかし、消費増税をしなければ、悪化要因をひとつ増やさなくて済んだと考えることもできます。

2.企業の明暗が分かれる

2-1.軽減税率導入で外食のテイクアウトが増加

消費増税では、一部の業界には良い影響もありました。軽減税率が導入されたことで、外食のテイクアウトや、コンビニの食料品に「割安感」が出て売上を伸ばしています。

牛丼チェーン吉野家を運営する吉野家ホールディングスは、2019年10月の持ち帰りの売上は前年同月比5%増でした。
また、コーヒーショップのタリーズは、注文数に占めるテイクアウトの割合が前月比5ポイントアップしました。モスバーガーでも10月はテイクアウトが好調でした。

コンビニ最大手のセブン-イレブンジャパンの2020年2月の既存店売上高は、前年同月比0.8%増でした。セブンが前年の実績を超えたのは、2019年10月から5カ月連続です。

2-2.恩恵を活かせない企業も

軽減税率は「持ち帰り飲食料品」を扱う企業には恩恵になるはずですが、それを活かせていない企業もあります。

「企業努力」が大きいようで、同じコンビニ業界でも、ファミリーマートの2020年2月の既存店売上高は同0.9%減、ローソンは同0.4%減でした。
また、スーパー大手のイオンの社長は、政府の消費増税対策について「スーパーマーケット業界に不公平」と批判しています。消費増税対策のキャッシュレス還元は、大手企業が対象外となっているからです。

3.新型コロナウイルスでリーマン超の落ち込み

消費増税より大きな影響を与えているのが、新型コロナウイルスです。

内閣府より2020年6月に発表された2次速報値では、2020年1~3月期のGDPは、実質で0.6%減(年率2.2%減)、名目で0.5%減(年率1.9%減)でした。2019年10~12月期に続いて2期連続の前年割れです。

公益社団法人日本経済研究センターは、2020年4~6月期の実質GDPは前期比年率20%以上の減少が見込まれ、2020年度の経済成長はマイナス7%になると予測しています。

これは、2008年に実質3.7%減、2009年に実質2.0%減となったリーマンショック時の落ち込みを上回るレベルです。

仮に緊急自体宣言が再度発動されれば、さらに経済成長がマイナスになる可能性もあります。

また、みずほ総合研究所は4月17日に「2019~2021年度 内外経済見通し」を公表しました。そのなかで、コロナ影響は長期化し、正常化は2021年末になるとしています。また、コロナ終息後(AC:After Corona)も、コロナ発生前(BC:Before Corona)には戻らず、生活様式や消費構造、サプライチェーンなど、様々な分野で大きな変化があるとしています。

【参照】内閣府:2020年1-3月期GDP速報(2次速報値)
【参照】公益社団法人日本経済研究センター:第182回<速報>徐々に経済再開も、20年度マイナス7%成長
【参照】みずほ総合研究所:2019~2021年度 内外経済見通し

まとめ

消費増税の「影響」といえば、自動的に「悪影響」ととらえる人が多いのではないでしょうか。そもそも日本の景気は2019年ごろから悪化し始めていて、同年10月の消費増税はバッドタイミングだったといえます。そこに新型コロナウイルス禍が追い打ちとなり、GDPを揺るがす事態に進んでしまいました。

与党議員から、景気刺激策として「消費税をゼロ%にする」提言も出されたほどです。これには財務大臣が「直ちにゼロにする発想はない」(※2)と火消しに走りましたが、大変な事態であることには変わりありません。

※2【参照】時事ドットコムニュース:消費税「ゼロの発想ない」 新型コロナ対策で―麻生財務相

服部
監修
服部 貞昭(はっとり さだあき)
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を2000本以上、執筆・監修。
「マネー現代」にも寄稿している。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
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