キャッシュレス社会の本質とは何か?~分かり易く深堀りします~

執筆
荒井薫
労働省→公認会計士→コンサルタント→事業会社CFO&国際ブランド付きプリペイドカード事業の立ち上げをやりました。子供の頃から物書きになりたかったため、書く感性を磨きながら、皆さんに様々な情報をお伝えしていければと思っています。
キャッシュレス社会の本質

1.キャッシュレス決済社会とキャッシュレス社会の違い

消費税増税後に政府が発表する各種統計調査によると、キャッシュレス決済に対して2%又は5%のポイント還元策を行っていても、やはり消費税増税後の消費は落ち込んでいます

しかしながら、キャッシュレス決済ポイント還元策は、それなりに成功しているようで、キャッシュレス決済は着実に浸透しています。色々なメディアを見ても、5%還元を目当てにキャッシュレス決済を使う人が確実に多くなっています。

このような状況の中で、これから日本のキャッシュレスはどこに向かうのか?について、改めて焦点を当てて考えてみたいと思います。

そこで、基本に立ち返って、キャッシュレス社会の本質を分かり易く深掘りしてみたいと思います。まずは、キャッシュレス社会とキャッシュレス決済社会は似て非なるものであることから説明していきたいと思います。

1-1.キャッシュレス決済社会とは?

キャッシュレス決済とは、個人や企業が物の売買をしたり、お金の貸し借りを精算する時に、現金(キャッシュ)を使わずに、キャッシュレスで行うことをいいます。

韓国のキャッシュレスの実情を説明した記事でも説明をしていますが、この場合、キャッシュレス決済をするために、予めプリペイドカードや交通カードなどにチャージをする時に現金をチャージすることを否定していません。
毎回決済や送金をする際に、現金(キャッシュ)を使わないことがポイントになります。

つまり、通貨が存在する形は紙幣や貨幣であることを許容しているという前提で、人々の経済活動の在り方のスタイルだと言えます。

関連記事(外部サイト)

1-2.キャッシュレス社会とは?

経済産業省が、「キャッシュレス社会への取組み」という資料を一般に公開していますが、これを読んでも、説明をしているのはあくまでもキャッシュレス決済社会の域を超えていません。

【経済産業省HP】「キャッシュレス社会への取組み」

しかしながら、今年に入って、世界では「法定デジタル通貨」の発行が現実味を帯びてきています。
私は、キャッシュレス社会とは、キャッシュレス決済社会のもう一つ上のフェーズの定義だと理解するようになりました。

すなわち、キャッシュレス社会とは
通貨発行権を持つ国家が、自国の通貨を発行する際に、従来は紙幣や貨幣を使って通貨を発行してきたものを、一部または全部を法定デジタル通貨(紙幣や貨幣という形を持った物理的な物ではなくデータとして存在するもの)で発行する社会
と言え、これが最近の国際社会の流れを汲んだ場合の真のキャッシュレス社会だと理解しています。

1-3.通貨発行権とは何か?

通貨発行権とは、文字通り、国がその国の経済活動に使う法定通貨を発行する権利です。

多くの国では、中央銀行に通貨発行権を委ねていますが、その発行量、通貨そのものについては、どの国も政府が厳密に管理しています。
従って、その国の信用がすなわちその国の通貨の信用に直結します。外国為替市場において、日々、秒刻みで為替レートが変わるのはそのためです。

その国の通貨をどのようにするのかを決めるのは政府であり、それが偽造は非常に困難な紙幣や貨幣という「物理的な物」になったのは、近代国家になってからです。それ以前は、主に金、銀、銅などが通貨として使われていました。

以前の記事でも説明をしていますが、法定デジタル通貨は、言葉通り、デジタルの形で通貨が発行されたものを指します。それは、その発行の可否は通貨発行権のもと、政府の判断で決められます。

2.キャッシュレス社会という概念について

中国やスウェーデンなどで先行している法定デジタル通貨発行への取組みにより、それが秒読み段階となってきた今日において、キャッシュレス社会とは、一部または全部の通貨が、今の紙幣や貨幣に変わって、デジタル通貨で発行される社会であると考えたいと思いますし、考えるべきです。

今、世界中でキャッシュレス決済が推進されているのは、キャッシュレス社会に移行するためには、まずは日常的な経済活動をキャッシュレスで行うキャッシュレス決済が社会全体に浸透することが必要であるという暗黙のコンセンサスがあるからだと思います。

2-1.法定デジタル通貨とブロックチェーン技術

なお、ここでいう法定デジタル通貨は、中国やスウェーデンが発行しようとしているブロックチェーン技術を用いたものだけを指すのではなく、データの形(デジタル)で存在するものであれば、それは法定デジタル通貨とすることは理論的には可能です。

しかしながら、サーバーで集中管理される電子マネーと同様の仕組みの法定デジタル通貨では、今の電子マネーや、銀行口座に預けてある口座残高と同じであり、それでは、新しい機能を期待することは出来ないですし、電子マネー以上にセキュリティを強化する必要性があると思われますので、リスク管理が数段コスト高になるので、現実的とは言えません。

将来的にはブロックチェーン技術も進化していくものと思われます。その結果、今よりももっと使い勝手が良い技術にブラッシュアップされる可能性が高いでしょう。
従って、実際には法定デジタル通貨はブロックチェーン技術で管理されるものである可能性が高いですが、「ブロックチェーン技術で管理されるもの=法定デジタル通貨」という理解は間違いであり、

あくまでも国家が通貨発行権に基づき、法定通貨であると認めたものが通貨であると理解してください。

2-2.キャッシュレス社会のメリット

では、ここで改めてキャッシュレス社会のメリットを考えてみたいと思います。

ここでは、紙幣の利用量は極めて少なくなり、ブロックチェーン技術を用いた法定デジタル通貨が一定の目的の範囲で発行されている状況を想定してみます。

①貨幣、紙幣を発行するコスト、流通させるコストの削減

日本では、2019時点で、ATMは1台数百万円、設置場所の賃料、警備費や障害対応費などの維持費は月額約30万円です。現金輸送費などの人件費を含めた費用は銀行業界全体で年間約2兆円にもなります。

これに加えて、紙幣や貨幣の製造費用は1個または1枚あたり約2円~70円弱となっていて、依然としてキャッシュ大国の日本では大きな負担となっています。キャッシュレス決済が進めばこれらのコストの削減が可能です。

②脱税、マネーロンダリング防止

キャッシュレス決済に伴い取引に何かしらのログが残ることで、世界的にマネロンの温床と言われている日本のマネーロンダリング防止に繋がります。

さらに、一定額以上の送金に法定デジタル通貨を使うようになれば、通貨そのものに取引履歴のログが管理されることになるので、マネロン対策として有効なだけでなく、脱税がし難い仕組みになるので、課税の公平性を確保することにも資するはずです。

③貨幣紙幣を前提とした社会インフラコストの削減

2-2-1で説明をしたATM維持費用だけではなく、紙幣や貨幣の流通量が減ることで、銀行の両替業務や、お店でのキャッシュ管理業務も格段に減らせます。

一つ一つのコストは僅少でも、日本全体で見た場合には、その社会インフラコストは相当削減することが出来るはずです。

④強盗などの犯罪への抑制

お店のレジに多額のキャッシュがあるのが今までの常識でした。夜中に影響をしているコンビニや飲食店では、POSレジに入っている現金が狙われて、強盗に入られる被害も中々減りません。

キャッシュレスが進むと、そもそも強盗に入っても盗む現金がないということもあり得ますので、おのずと強盗犯罪などは減少すると思われます。
実際にスウェーデンではキャッシュレス決済が進んで、強盗犯罪が減少したという実績があります。

2-3.キャッシュレス社会のデメリット

もちろん、キャッシュレス社会がメリットだけのパラダイスな社会になるということではありません。
実際に、キャッシュレスが進んでいるスウェーデンや移民が多いアメリカなどではキャッシュレス社会の弊害も問題視されています。

①デジタルでの通貨管理に慣れない人が取り残されるリスク

これは既にスウェーデンで課題になっていることですが、高齢者、その国の社会の仕組みに不慣れな外国人や移民にとっては、キャッシュレス社会の仕組み自体が難しく、それを理解できないので、日常生活で不便を強いられる恐れがあります。

特にATMの減少により、日常的に必要な買い物に困る高齢者をどうするかは、深刻な課題です。

②ログ管理による過度な監視社会の実現可能性

これは、中国でのデジタル人民元の発行に関して、専門家の方々が口を揃えて強く主張していることです。

キャッシュレスによりすべての経済活動にログが残り、そのログを国家がその権力に基づいて自由に利用閲覧出来るとしたら、過度な監視社会が可能となり、それは民主主義制度の精神と相反することとなります。
また、個人のプライバシーを第三者が監視利用することも可能になるという恐れがあります。

③新しい経済犯罪への対応の必要性

強盗犯罪の抑制には有効なキャッシュレス社会ですが、新しい形の経済犯罪が生まれてくることは、仮想通貨が頻繁にハッキングされている現状を考えると容易に想像出来ます。

国家が必要とする、一定範囲の監視を可能とする仕組みが、ハッキングを容易とする弱点になり得るという悪循環が生じる可能性は高いと思われます。

④ 国際為替の新しい仕組み構築の必要性

中国で近々予定されているデジタル人民元も、当面中国国内での利用を想定しています。

国際為替に関しては、キャッシュレス決済に関してはVISAやMasterCardが発行するクレジットカードを使うことで可能ですが、法定デジタル通貨を前提とした海外送金の仕組み作りには、まだ時間が掛かりそうです

3.まとめ~なぜキャッシュレス社会を目指すのか~

3-1.キャッシュレス社会を必要とする世界の情勢

21世紀に入って、世界中でキャッシュレス化が進んでいます。その究極の目的とキャッシュレスの必要性はどこにあるのでしょうか?

それは、世界規模の経済活動が肥大化する中で、そのオペレーションコストとして、キャッシュマネジメントのコストが膨張してきたからだと思います。
世界中で経済活動が活発化するにつれて、その経済活動の効率性、迅速性、透明性の確保が、国際的な経済活動の円滑さを維持するために必要急務となってきているのです。

更には、先進国を中心とした経済成長の鈍化によって、一部の国では現金で資産を隠している人々にその富を吐き出してもらう必要に迫られています。日本もこの問題を抱えている国の一つです。

3-2.まとめ

キャッシュレス社会の本質は奥深いものですが、まずは、キャッシュレス決済社会がきちんと機能することが必要です。

日本では、キャッシュレス決済の浸透が、5%還元施策の終了により一過性で終わってしまうリスクもないとは言えません。
キャッシュレス決済社会が、脱税やマネロンを阻止することが出来る公平な社会を実現するための最初のステップであることを、もっと政府はアピールしても良いのではないでしょうか?

単に5%ポイント還元で踊らされているのでは?と半信半疑の人が未だ多い中で、キャッシュレス社会を目指すマイルストーンが政府から明確に出てくることを期待したいと思います。

執筆
荒井薫
労働省→公認会計士→コンサルタント→事業会社CFO&国際ブランド付きプリペイドカード事業の立ち上げをやりました。子供の頃から物書きになりたかったため、書く感性を磨きながら、皆さんに様々な情報をお伝えしていければと思っています。

Ad Exchange

この記事が役に立ったらシェアしてください!