二転三転するポイント還元制度の経緯を追ってみた

ポイント

2019年10月の消費税増税による消費者の負担を和らげるため、突然、それまでの法案にはなかった、「ポイント還元制度」が出てきました。

内容はある程度、定まってきましたが、各業界からの反発も多く、二転三転している状態です。

いったいどういうことになっているのか、経緯を追ってみました。

※日付はニュースなどに取り上げられた日であり、政府の公表日ではありません。あくまでも目安の日付として捉えてください。

ポイント還元制度そのものの解説は、こちらをご覧ください。

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1.2018年10月~12月

2018年10月1日

消費税増税による景気対策として、ポイント還元制度の導入が検討されていることが明らかになりました。
ポイント還元率は購入額の2%程度で、導入期間は2019年10月1日より1年程度、対象となるのは中小事業者の店舗となっていますが、「中小」の具体的な判断基準はこの時点ではまだ決まっていませんでした。

2018年10月15日

ポイント還元制度の適用対象となる「中小」の定義を、資本金1億円程度までの企業や小売店との認識を麻生太郎財務相が示しました。

2018年10月26日

中小店舗の中には、小売りや外食などのフランチャイズチェーン(FC)加盟店があり、代表的な例としては大手コンビニチェーンなどが挙げられます。

この場合には資本金1億円という線引きを、大元の企業で判断するのか、店舗自体で判断するのかが課題となっていましたが、 経済産業省と財務省は、店舗自体の資本金で判断し、FC本部の直営店は対象外とする方向で検討を始めました。

2018年11月7日

世耕弘成経済産業相は11月7日午後の参院予算委員会にて、ポイント還元の対象店舗について、「基本的には中小企業基本法で定められた中小企業になるのではないか」と述べました。

中小企業基本法では業種によって基準がやや異なりますが、たとえば、小売業は資本金5,000万円以下または従業員50人以下、サービス業は資本金5,000万円以下または従業員100人以下を中小企業としています。

2018年11月22日

安倍首相は、当初2%程度とされていたポイント還元率を、5%に大幅アップする方針を表明しました。

「キャッシュレス決済を利用する消費者は、ほとんどいない。」という声が現場の中小店舗から上がっており、以前から増税分の2%を相殺するだけでは、消費者を動かす効果は薄いという議論があったためとされています。

増税分を倍以上も上回る還元率でお得感を出し、参加する事業者を増やすとともに、消費税増税による景気低迷を絶対に防ごうという狙いがあります。

また、実施期間は、増税後9ヶ月間になりました(2019年10月1日~2020年6月30日)。

制度が終了するのはちょうど2020年7月から開催される東京五輪直前であり、キャッシュレス決済の普及を東京五輪に間に合わせたいという政府の考えが分かります。

東京五輪終了時にはポイント還元制度も終了していますが、五輪開催前後の経済効果は凄まじく、増税による消費低迷の懸念はどこへやらとなっているでしょう。

2018年12月11日

ところが、政府は、2018年12月11日、コンビニや外食といったフランチャイズチェーン(FC)については、中小企業も含めて全店のポイント還元率を2%にする方向で調整に入りました。

フランチャイズチェーン(FC)では、FC本部の直営店と、主に個人や中小企業が営むFC加盟店の2種類が存在しますが、すでに述べたとおり、国が還元費用を負担するのはFC加盟店のみであり、FC直営店は対象外となっています。

つまり、直営店と加盟店のすべての店舗で同じ還元率を実現するためには、FC本社が直営店のポイント還元費用を負担する必要があり、「還元率5%の負担は重過ぎる」という反発があがっていました。

そこで、FC店舗については一律で還元率を2%にする方向で調整に入りました。

2018年12月26日

セブンイレブン・ジャパンとファミリーマートは、直営店と加盟店の全店舗で2%のポイント還元を行うことを表明しました。ローソンもその予定となっていますので、大手コンビニ3社で実施される予定です。

2.2019年1月~

2019年1月8日

政府は、ポイント還元対象から、換金性が高い金券や、もともと消費税が非課税のものなど、一部の業種・商品を除外する方針を固めました。

主に下記の4つになります。

  • 換金性の高い商品、金融商品
  • 住宅、自動車
  • 消費税が非課税のサービス
  • 風俗店、反社会的勢力と関連する事業者
2019年1月18日

ポイント還元の対象は個人だけではなく事業者(企業)も対象になることがわかりました。
たとえば、企業が中小店舗で文房具や食品などを購入すれば5%のポイントが還元されます。

ただ、ポイント還元制度は、本来は、消費者の負担を軽減するための制度ですので、企業が利益が得ることは本来の目的から外れるばかりか、ポイントを目当てにした取引が多くなり、財源を圧迫しかねません。ポイント還元のためには、約4000億円の財源を確保していますが、足りなくなるおそれがあります。

特に、消費税の納税を免除されている免税事業者は、益税にプラスしてポイント還元でも利益を得ることになります。

政府の見解としては、個人の買い物か、事業者としての買い物なのかを見分けることは難しく、ポイントを付与せざるを得ないということです。

2019年2月15日

政府はポイント還元制度のための広報・宣伝費に約400億円もの予算を充てることが明らかになりました。

ポイント還元については、国の予算から還元する方針で経済産業省が2798億円を計上していますが、経費の詳しい内訳は明らかにしていません。関係者によれば、そのうち約400億円を広報と宣伝に使う方針であることが判明しました。
これは、政府全体の1年間の広報予算83億円の約5倍にあたり、政府内からは「あり得ない額だ」と批判の声が出ています。

また、消費者が使い切れなかったポイントに関する問題が浮上しました。

国は、消費者に付与されたポイント分をカード会社など決済事業者に支給します。消費者がポイントを利用できるのは、2019年10月1日~2020年6月30日の間ですが、もし、その間に消費者がポイントを使い切らずに余ってしまったら、国は決済事業者に対して過大に支給したことになり、その分は事業者側が得することになります。

2019年2月20日

世耕弘成経済産業相は衆院予算委員会で、一回の決済で付与されるポイントに上限を設ける考えを示しました。

2019年3月5日

経済産業省は、ポイント還元の補助対象となる決済事業者の募集を、3月6日から開始すると発表しました。

第1次募集は3月15日までで、4月以降も随時募集する予定です。4月からは小売りなどの加盟店も募集開始する予定です。

募集する決済事業者にはいくつか条件がありますが、特に重要なのは、手数料の条件です。
2019年10月から2020年6月までのポイント還元の実施期間中、加盟店が決済事業者に支払う手数料を販売額の3.25%以下にする必要があります。また、期間終了後に、手数料を変更するのかどうかも明示してする必要があります。

消費者が使い切らなかったポイントについては、事業者の利益になるということで問題になっていましたが、事業者に対して補助しないという方針が示されました。

2019年3月6日

ところが、経済産業省は、登録に必要な準備に時間がかかっているという理由で、決済事業者の募集を延期することを決定しました。第1次募集の締め切り3月15日に変更はありませんので、募集開始から締め切りまで非常に短くなる可能性があります。

2019年3月12日

約1週間遅れで、経済産業省は、キャッシュレス決済事業者の第1次募集を開始しました。期限は、3月20日17:00となりました。

4月以降も随時募集していく予定となっていますが、加盟店に参加希望の中小事業者に対するプラン作成などの準備の手間を考えると、実質、今回の募集でほぼ決済事業者が決まるのではないかと予想されます。

経済産業省の「キャッシュレス・消費者還元事業」のウェブサイトで、制度の詳細情報を記載した資料が掲載されました。
これで後戻りはなくなり、実施がほぼ確定されたと考えられます。

2019年3月22日

キャッシュレス決済事業者の第1次募集には、100社を超える事業者から応募がありました。

3.2019年4月~

2019年4月10日

政府は、3年間の課税所得の平均が15億円以上の企業を対象から外す方針を示しました。売上にすると、平均的に500億円程度の規模の企業になるようです。

資本金で判定すると、大企業の子会社など、売上金が多くても資本金が小さければ対象になるケースもあるため、このような企業を除外するための検討です。

2019年4月12日

第1次募集で審査を通ったキャッシュレス決済事業者として、116社が発表されました。

クレジットカード、電子マネー、QRコード、モバイル決済など各種のキャッシュレス決済手段を提供する事業者が含まれています。

この時点では、仮登録という状態であり、キャッシュレス決済事業者の募集は引き続き行い、5月ごろを目処に正式決定する予定です。

4.2019年10月~

開始後の動向です。

2019年10月21日

9月中旬くらいまでは、登録加盟店のリストが発表されていました(6,360ページの膨大なリストのPDF、現在はアクセス不可)。
10月21日時点で、登録加盟店は全国で610,466店です。

店舗形態 店舗数
固定店舗 小売業 276,934
飲食業 103,671
その他サービス業 143,243
EC・通信販売 66,942
移動販売等
(タクシー、屋台など)
19,676
合計 610,466

10月24日時点の登録申請数は約91万店です。制度対象とされる中小店は全国で200万店ありますので、およそ半分弱が登録加盟店となる予定です。

今後は、毎月1日、11日、21日のタイミングで加盟店登録がされていきます。

2019年12月1日

制度が始まった10月1日時点では対象店舗は約50万店でしたが、12月1日時点で約86万店、さらに約130万店まで増える予想となりました。

10月1日~11月4日までの1日平均の還元額は12.1億円であり、ポイント還元の金額ベースでも、想定を超える勢いで利用されています。

これによって、政府が当初、見込んでいた予算が足りなくなり、補正予算案を計上することになりました。
具体的には、2019年度予算を2,800億円→4,300円億円に増やし、2020年度予算を1,400億円→2,500~3,000億円程度に増やします。合計7,000億円程度となり、当初の想定を約3,000億円オーバーする予定です。

2019年12月16日

経済産業省は2019年12月16日、最新の利用状況を発表しました。

10月1日~11月25日までの決済金額は約1.9兆円、ポイント還元額は約780億円です。1日の平均額は約14億円であり、開始当初の約8億円から大きく増えています。

このうち、5%還元対象の中小店舗でのポイント還元額は約650億円(約80%)、2%還元対象のフランチャイズチェーン(コンビニ含む)のポイント還元額は約130億円(約20%)ですので、狙いどおり、中小店舗での決済が多く発生しています。

決済金額に占める決済手段の割合は、クレジットカードが約6割、QRコードが約1割、その他電子マネーが約3割です。PayPayやLINE PayなどのQRコード決済が大きく広まっている感がありますが、金額ベースではクレジットカードが圧倒的といえます。

監修
ZEIMO編集部(ぜいも へんしゅうぶ)
税金・ライフマネーの総合記事サイト・ZEIMOの編集部。起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)を中心メンバーとして、税金とライフマネーに関する記事を今までに1300以上作成(2024年時点)。
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