マイホームを売却した時の軽減税率の特例、他制度との併用
個人がマイホームを売却して利益が出ると、その利益に対して所得税がかかります。しかし、マイホームという性格上、その売却にかかる税金については、いくつかの特例があります。
ここではその特例のうち、マイホームを売却した時の軽減税率の特例について詳しく解説します。
目次
1.マイホームを売却した時の譲渡所得の仕組み
特例を解説する前に、マイホームを売却した時の譲渡所得の基本的な仕組みについて見ていきましょう。マイホームなどの土地や建物を売却した場合には、所得税や住民税がかかります。
1-1.譲渡所得
所得税では、収入の種類に応じて10の所得に区分し、所得や税金の金額を計算します。マイホームなどの土地や建物を売却した場合は、その中の譲渡所得に該当します。
譲渡所得の金額は、次のように計算します。
収入金額は、マイホームの売却代金です。
取得費は、売った土地や建物の購入代金やリフォーム代、不動産業者への仲介手数料、登録免許税、不動産取得税など、購入のためにかかった費用です。
譲渡費用は、不動産業者への仲介手数料、印紙税、取り壊し費用など売却のためにかかった費用です。
特別控除は一定の要件を満たした場合のみ適用できます(最高で5,000万円まで)。
1-2.税率
土地や建物を売却した場合の税金は、その性格上、他の所得と分けて計算されます。これを分離課税といいます。
一般的な土地や建物を売却した場合の所得税や住民税の税率は、所有期間によって異なります。
所有期間(譲渡した年の1月1日現在で判断) | 所得税・住民税の税率 |
---|---|
所有期間が5年以下(短期譲渡所得) | 所得税30%、住民税9%の合計39%(別途、復興特別所得税0.63%) |
所有期間が5年超(長期譲渡所得) | 所得税15%、住民税5%の合計20%(別途、復興特別所得税0.315%) |
2.マイホーム売却にかかわる5つの特例
土地や建物を売却したときの譲渡所得の仕組みについて見ましたが、マイホームを売却した場合には、特例が5つ設けられています。
2-1.譲渡益に関する特例
収入金額 ー(取得費 + 譲渡費用)>0となり、譲渡益が出た場合に使える特例が、次の3つです。
特例 | 内容 |
---|---|
3,000万円の特別控除 | 一定のマイホームを売却した場合に、 3,000万円の特別控除が受けられる特例。 |
軽減税率 | 一定のマイホームを売却した場合の税率が 通常よりも軽減される特例。 |
買い換えの特例 | 一定のマイホームを売却し、別のマイホームを買い換えた場合に、 譲渡益にかかる税金を繰り延べることができる特例。 |
2-2.譲渡損に関する特例
譲渡損が出た場合に使える特例が、次の2つです。
特例 | 内容 |
---|---|
居住用財産を買い換えた場合の 譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例 |
一定のマイホームを売却し、別のマイホームを買い換えた場合に、 譲渡損を他の所得と損益通算し、それでもまだ損失が残っている場合に 翌年以降3年間繰り越せる特例。 |
特定居住用の譲渡損失の 損益通算および繰越控除の特例 |
一定のマイホームを売却し、別のマイホームを買い換えた場合に、 譲渡損を他の所得と損益通算し、それでもまだ損失が残っている場合に 翌年以降3年間繰り越せる特例。 ただし、損益通算、繰越控除が認められる金額に制限あり。 |
今回はこのうち「軽減税率の特例」を解説します。
3.軽減税率の特例
3-1.税率
土地や建物を売却した場合は、その所有期間によって短期・長期に分け、それぞれで税率が決まっています。原則、長く所有している方が税率が安く設定されています。マイホームを売却したときの軽減税率の特例とは、一定の要件の場合に、長期譲渡所得の税率よりもさらに低い税率で、税額を計算できるというものです。
マイホームを売ったときの軽減税率は次のとおりです。
所有期間 (譲渡した年の 1月1日現在で判断) |
課税譲渡所得金額 収入金額 -(取得費+譲渡費用) -特別控除額 |
所得税・住民税の税率 |
---|---|---|
所有期間が10年超 | 6,000万円以下の部分 | 所得税10%、住民税4%の合計14% (別途、復興特別所得税0.21%) |
6,000万円超の部分 | 所得税15%、住民税5%の合計20% (別途、復興特別所得税0.315%) |
軽減税率の特例を受けるためには、次の要件をすべて満たしていることが必要です。
3-2.適用を受けるための要件
①売却した物件に住んでいたこと
この特例を受けるためには、あくまで売却した物件がマイホーム(居住用)である必要があります。
通常にマイホームとして使用していた場合は問題ありません。
ただし、別荘やこの特例の適用を受けるためだけに入居した家、仮住まいとして一時的な目的で入居した家は、通常にマイホームとして使用していたと考えられないため、特例の適用はありません。
また、生活の拠点となる家が2つ以上ある場合は、どちらか1つ(主にマイホームとして使用していた方)のみ特例の適用ができます。
②売った年の1月1日現在において、家屋や敷地の所有期間がともに10年を超えていること
所有期間の判定は、売った年の1月1日現在で行います。家屋と敷地どちらも10年超の所有期間が必要なため、家屋と敷地を購入した時期が異なる場合は注意が必要です。
③売った年の前年及び前々年にこの特例を受けていないこと
前年及び前々年に軽減税率の特例を受けている場合は、本年度に軽減税率の特例を受けることはできません。
④売却したマイホームについて、他の特例を受けていないこと
軽減税率の特例をうけるためには、他の特例との併用に注意が必要です。詳細については後述しますが、併用が可能な特例と併用できない特例があるので注意が必要です。
⑤親子や夫婦など特別の関係がある人に対して売ったものでないこと
軽減税率の特例をうけるためには、原則、第三者にマイホームを売却する必要があります。
3-3.必要書類
この特例を受けるためには、次の書類を添えて確定申告をすることが必要です。
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)〔土地・建物用〕
軽減税率の特例を受ける、受けないに関わらず、土地や建物を売却したら、譲渡所得の内訳書の提出が必要となります。 - 売ったマイホームやその敷地の登記事項証明書
- マイホームを売った人の住民票に記載されていた住所とそのマイホームの所在地とが異なる場合は、戸籍の附票の写し、消除された戸籍の附票の写しなど、マイホームを売った人がそのマイホームで生活していたことを証明する書類も必要です。
4.特殊なケース
軽減税率の特例の適用を受けるための要件を見てきましたが、ここからは特殊なケースについて解説します。
①単身赴任、転勤等でしばらく住んでいなかった場合
軽減税率の特例の適用を受けるためには、売却した物件がマイホームである必要があります。単身赴任や転勤等で一時的にマイホームを離れていた場合なども、配偶者等がマイホームに住んでおり、単身赴任後にマイホームに戻ると考えられる場合は、通常にマイホームとして使用していたと考えます。そのため、軽減税率の特例の適用を受けることが可能です。
②他人に貸していた場合
軽減税率の特例の適用を受けるためには、売却した物件がマイホームである必要があります。そのため、原則、他人に貸していた場合は軽減税率の特例の適用を受けることができません。ただし、元々マイホームとして使っていた家を他人に貸していた場合は、所有者がマイホームとして居住しなくなった日から3年以内(3年を経過する日の属する年の12月31日までの間)に売却した場合には軽減税率の特例の適用を受けることが可能です。
③建物と土地の所有者が異なる場合
建物と土地の所有者が異なる場合は、原則、軽減税率の特例の適用を受けることができません。ただし、建物と土地を同時に売却している場合で、建物と土地の所有者が同居し、かつ生計を一にしている親族である場合は、軽減税率の特例の適用を受けることが可能です。
④すでに家屋を取り壊した場合
すでに家屋を取り壊した場合は、次の要件すべてを満たす場合のみ軽減税率の特例の適用を受けることが可能です。
- 家屋が取り壊された日の属する年の1月1日において、その敷地の所有期間が10年を超えていること。
- その敷地の売買契約が、家屋を取り壊した日から1年以内に締結されたものであること
(家屋を取り壊す前から住んでいない場合は、住まなくなった日から3年目の年の12月31日までに売却すること)。 - 家屋を取り壊してから売買契約を締結した日まで、その敷地を別の用途で使用していないこと。
⑤売却したマイホームが店舗兼住宅の場合
売却したマイホームが店舗兼住宅の場合は、住宅部分のみが特例の適用の対象となります。ただし、住宅部分が全体の90%以上であるときは、すべてを住宅部分とみなします。
⑥売却先が親族の場合
売却先が親族の場合は、軽減税率の特例の適用を受けることができません。そのほか、内縁関係にある人や特殊な関係のある法人などに売却した場合も特例の適用を受けることはできません。
5.他の特例との併用
軽減税率の特例をうけるためには、原則、他の特例との併用はできません。しかし、実際には、併用が可能な特例と併用できない特例があります。ここでは、軽減税率の特例と他の特例の関係を見ていきましょう。
①3,000万円の特別控除との併用:可
一定の居住用財産を売却した場合には、収入金額から取得費や譲渡費用を差し引いた売却益から、さらに3,000万円の特別控除を差し引くことができる特例があります。この特例と軽減税率の特例は、併用可能です。3,000万円の特別控除を差し引いた後の金額に軽減税率を乗じて税額を計算します。
②買い換えの特例との併用:不可
軽減税率の特例は、買い換えの特例との併用ができません。そのため軽減税率の特例を適用する年の確定申告で、買い換えの特例を適用している場合には、重複することができません。
③住宅ローン控除との併用:不可
軽減税率の特例は、住宅ローン控除との併用ができません。軽減税率の特例を適用する年の確定申告で、住宅ローン控除との併用ができないのはもちろんのこと、売却したマイホーム以外の家で、前年、前々年に住宅ローン控除を受けている場合は、軽減税率の特例を使用することができないので注意が必要です。
6.計算例
軽減税率の特例と3,000万円の特別控除は併用が可能です。3,000万円の特別控除は所有期間の制限がないため、通常軽減税率の特例を受ける場合は、3,000万円の特別控除も併用します。では、具体例を見ていきましょう。
①譲渡所得金額の計算
3,000万円の特別控除がある場合は、先に3,000万円の特別控除をしてから軽減税率を適用します。
まずは、譲渡所得金額を求めるため、上記の数字を計算式にあてはめてみましょう。
(課税)譲渡所得金額=収入金額2億円-(取得費5,000万円 + 譲渡費用1,000万円) - 特別控除額 3,000万円=1億1,000万円
②6,000万円以下の部分の計算
譲渡所得金額が6,000万円を超える場合は、6,000万円以下の部分と6,000万円超の部分を分けて計算します。
6,000万円以下の部分の税率は、所得税10%(別途、復興特別所得税0.21%)、住民税4%です。
所得税 6,000万円×10.21%=6,126,000円(復興特別所得税込み)
住民税 6,000万円×4% =240万円
③6,000万円超の部分の計算
6,000万円超の部分の税率は、所得税15%(別途、復興特別所得税0.315%)、住民税5%です。
(課税)譲渡所得金額1億1,000万円-6,000万円=5,000万円
所得税 5,000万円×15.315%=7,657,500円(復興特別所得税込み)
住民税 5,000万円×5% =250万円
④合計税額(②+③)の算出
6,000万円以下の部分の税額と6,000万円超の部分の税額を合計し、合計税額を算出します。
所得税 6,126,000円+7,657,500円=13,783,500円(復興特別所得税込み)
住民税 240万円+250万円 =490万円
所得税と住民税の合計税額は、13,783,500円+490万円=18,683,500円です。
3,000万円の特別控除を受けるための要件として、特例を受けるための申告(確定申告)をする必要があります。今回の例では納める税金がありましたが、3,000万円の特別控除を受けた結果、納める税金がない場合であっても、忘れずに確定申告をしましょう。