2019年ふるさと納税は見直しでどう変わる?制度の問題点と変更点
かねてから問題されていた点を改善するためにふるさと納税の制度が見直され、2019年6月1日からから新しい制度が始まります。
制度の見直しによって返礼品などのルールが変わるため、私たち納税者もどのように変化するか知っておくと便利に活用できます。
そこで、ふるさと納税の基本から現状の問題点、見直しの内容まで詳しく解説します。
1.ふるさと納税の概要
1-1.ふるさと納税とは
ふるさと納税とは、都道府県や市町村へ寄付を行い、そのお礼として返礼品を受け取れる制度です。寄付した金額は所得税や住民税から控除されるため、返礼品の分だけ税金がお得になります。
返礼品は飲食品や工芸品など、多種多様なものが揃えられており、返礼品から寄付先を選ぶこともできます。
所得税・住民税から控除になることや好きなものがもらえることから年々利用者が増加しており、誰でもできる節税対策の1つとして注目の制度となっています。
1-2.納税者のメリット
ふるさと納税を納税者から見ると、そのメリットは制度の本質である税金の控除と返礼品です。
ふるさと納税で寄付ができる金額は、もともと自治体へ納めなければいけない税金です。つまり、寄付するお金は必ず手元から出ていくものであるため、寄付金が家計の負担になることはありません。
また、ふるさと納税には寄付をする際に自己負担金の2,000円が必要です。
これだけ見ると損しているように思えますが、実際にもらえる返礼品は自己負担金を超えているものがほとんです。さらに、一回ごとではなくトータルで2,000円ですので、寄付の上限が高いほどお得にさまざまな返礼品を頂けます。
1-3.自治体のメリット
ふるさと納税の自治体が受けるメリットには、税収の確保が挙げられます。
自治体の税収はその地域の人口に比例しており、人口が少なくなると税収も少なくなってしまいます。一方、ふるさと納税は地域外の人からの寄付を受け取れます。そのため、人口以上の税収を確保できることが自治体側の大きなメリットです。
さらに、自治体が用意する返礼品は、地元の生産者などから買い付けて提供しています。つまり、ふるさと納税の寄付が増えるほど地場産業が活性化し、地域経済のサポートにも繋がります。
このように、自治体と産業、2つの経済支援を可能にすることが、自治体側の大きなメリットです。
2.ふるさと納税の現状と問題点
2-1.返礼品の競争が加熱している
ふるさと納税は思い入れのある自治体や、自治体の税金の使いみちを指定できる制度であるため、寄付先や金額を選ぶことを前提とした制度です。
しかし、現在では返礼品の良し悪しが寄付先を決める重要なポイントになり、より質の良い返礼品を用意することが自治体には求められています。
さらに、ふるさと納税の利用者は、同じ寄付金額でもよりリターンが大きいものが欲しいと考えています。
その結果、還元率や価格あたりの量を高くする傾向が強まり、地場産業以外にもギフト券や電化製品なども返礼品に加わることが増加しました。こうした返礼品競争の必要以上の加熱が制度の大きな問題となっています。
2-2.税収の地域差が大きくなっている
ふるさと納税は税金の控除制度であるため、寄付をされた自治体では税収が増えますが、寄付をした人が住んでいた自治体では税収が減少してしまいます。特に、東京都など人口が多い都市部の自治体の税収が大きく落ち込み、自治体ごとの税収差が課題となっています。
この背景にあるのは、やはり返礼品の質です。
地方部は農産物や畜産品など魅力の高い返礼品を用意できますが、都市部ではこうした返礼品を用意できません。すると、地方部へ寄付が集まり、都市部ほど税収が少なくなってしまいます。
人口と税収が反比例した結果、都市部では本来必要な税金が集まらず、住民支援に悪影響を与えています。税収の二極化によって、住民への負担に差が現れることが不平等を生み出していると問題視されています。
2-3.自治体に入る税収は少なくなっている
それでは、ふるさと納税で税収が増やすことが良いことかというと、実はそうではありません。
多くの人から寄付を受けるには、還元率が高いものやポータルサイトの広告費など、高額な経費が必要となります。そのため、自治体に入る純粋な税収が少なくなっている現状があります。
例えば、返礼品の購入費に予算の40%、広告費に20%使用すると、自治体が受け取る寄付金は40%です。さらに、返礼品を送付するための人件費などが必要となるため、寄付を増やそうとするほど自治体に入る税収が少なくなる場合があります。
中でも、ポータルサイトの広告費が問題で、現在は返礼品の内容をアピールしなければ寄付が集まらない状況になっています。多くの人がポータルサイトを利用するからこそ、サイトにない自治体には寄付が集まりません。その結果、多くのサイトと契約してしまい、寄付による税収が大きく減少している自治体も増加しています。
2-4.産業の成長には直接結びついていない
ふるさと納税は地場産業の支援にもなっている制度ですが、産業の成長という面では疑問視されています。これは、自治体が買い取っているからこそ店舗の売上が上がっており、自治体以外の新規顧客を獲得できない場合があるからです。
例えば、ネット通販などをせず地元だけで販売している店舗では、観光客が増えなければ事業の成長には繋がりません。一時的に自治体からの買い付けによって売上が上がりますが、寄付が少なくなれば売上も落ちてしまいます。
もちろん、中にはふるさと納税によって大きく成長した企業もありますが、その数は多くありません。そのため、ふるさと納税に頼ってしまう店舗が増えるほど、倒産のリスクが高くなってしまいます。地場産業の根本的な問題解決方法を見つけることも制度の課題です。
2-5.返礼品の基準が努力義務である
返礼品競争が加熱し過ぎた結果、本来の制度の趣旨から外れた返礼品が多くラインナップされました。そこで、国は返礼品の上限を寄付金額の3割以下に留めることや、電化製品など高額な製品を返礼品に含めないようにする通達を行いました。
しかし、この通達はあくまでも各自治体の判断に委ねるものであったため、守る自治体と守らない自治体に分かれました。結果的に通達を守らなかった自治体だけが還元率の高い返礼品を用意したことで寄付が集中し、通達を守った自治体が損をする結果に陥りました。
この努力義務の通達による不利益を改善するために、ふるさと納税制度を見直して還元率などを法整備化する働きを後押ししました。そのため、今後この問題点は解決していきますが、初めから法整備していないことへの問題や疑念が強まり、見直しに反発する意見が目立っています。
3.ふるさと納税制度の見直しの詳細
3-1.還元率の上限の厳格化
ふるさと納税制度の見直しで、納税者によって最も重要なのが還元率の上限が確定することです。
新たな上限は通達と同じ寄付金額の3割以下となり、現状のように努力義務ではなく制度を利用するための義務として厳格化されます。
また、還元率はトータルではなくて一律で3割以下となります。例えば、一定期間だけ4割、残りの期間を2割に抑えることは禁止されます。そのため、今よりも還元率が低くなる返礼品も多く、自治体や返礼品ごと還元率が横ばいになります。
3-2.返礼品が地場産品に限定される
現在は返礼品に対する制限はありませんが、見直しによって地場産品に限定されます。
これにより、ギフト券などの地域に関わりのないものを返礼品に加えることができません。さらに、該当自治体の区域分けが厳格化され、次のようなものは返礼品として認められません。
- 区域内で生産された調味料を用いて区域外で作られた加工食品
- 区域内の企業が監修し、区域外で生産されたもの
- 区域内の商品と区域外の商品が混在しているもの
- 関連性が低い区域内の製品と区域外の製品のセット など
ポイントは、区域内で生産・加工していることや、区域内の製品が主要部分を占めるセットであることです。現在よりも厳しい規定で返礼品がチェックされるため、より狭い区域内で返礼品が定められるようになるでしょう。
3-3.国がふるさと納税の対象を指定する
さて、現状はルールを作っても守らないことが問題となっていました。そこで、見直しでは上記のようなルールを守っているか審査する権限を国が持つことが決められています。国は返礼品の還元率や内容を審査し、審査に通った自治体だけが控除を受けられるように指定することで、ルールの徹底を促します。
そのため、ふるさと納税のために高い還元率の返礼品を用意しても、控除対象の自治体になれなければ、寄付をしても節税効果はありません。つまり、店舗で買うのと同じようになるため、ふるさと納税での寄付は集まらなくなり過剰な返礼品の競争を抑えられます。
3-4.指定の取り消しが可能になる
控除の指定は、一時的なものではなく随審査が行われます。つまり、指定を受けた後にルールを無視した返礼品を揃えている場合などは、指定を取り消せる権限も国が持っています。そのため、指定を受けるためだけの申請は意味をなさず、常に公平な寄付ができる市場となります。
3-5.見直しによる問題点
返礼品競争の加熱を抑えるなど、制度の見直しによって全ての自治体が公平に寄付を募集できるようになります。しかし、一見良い改善案だと思われているのですが、実は次のような問題点が指摘されています。
- 地場特産品がないため、制度を利用できない
- 同じ返礼品が県内に多くなるため差別化がしにくい
- 税収の地域差の解決にはならない など
特に、今回の見直しでは還元率よりも地場特産品に限定することが問題視され、返礼品を用意できない自治体が増加することが危惧されています。また、地場特産品の有無で返礼品の魅力が変わるため、税収の地域差が埋まることは難しでしょう。
過剰な返礼品を抑制することは可能ですが、新たな問題点が浮き彫りになるため、今後の制度の動向には注意が必要です。
4.高額商品や商品券などの返礼品はなくなるのか?
4-1.原則としてはなくなってしまう
電化製品やアクセサリー、商品券などは、かねてから返礼品として適していないと問題視されていました。そのため、見直し後は原則これらの高額商品や商品券は返礼品に加えられず、削除されてしまいます。
ただし、地場特産品であり還元率が3割以下という条件に合えば、返礼品として認められる場合もあります。手軽に手に入る返礼品ではなくなるため、率先して手に入れることは少なくなるでしょう。
4-2.地域振興券もダメ?
ふるさと納税の人気返礼品として、その地域内だけで使える商品券の地域振興券があります。その地域で生活している人はもらえず、観光に来てもらうための返礼品として用意されているものです。
実は、地域振興券は金券ショップやオークションなどで売買されており、換金率が高い返礼品として危惧されていました。そのため、地域振興券であっても返礼品に加えないことを要請しており、今回の見直しで正式に対象から外されてしまいます。
4-3.不明瞭な部分も多い
見直しによる新しい制度では、返礼品は地場特産品に限るとされています。しかし、どこからどこまでが地場特産品に外用するのか、その範囲は不明瞭な部分が多いのが現状です。
実際に新しい制度が運用されなければ、どのように返礼品が変化するのか分かりません。運用までに制度の解釈が変化する可能性もあり、運用までの間もしっかりと情報を追い続けて行きましょう。
5.ふるさと納税を最大限活用するには
5-1.5月31日までに寄付をする
今回のふるさと納税の見直し制度は、2019年6月1日以後の寄付が対象となります。
それ以前の寄付は見直しの対象ではありませんので、還元率の高い返礼品を手に入れるためには、2019年5月31日までに寄付を終えるようにしましょう。
5-2.ふるさと納税を利用しないこともメリットに?
ふるさと納税の制度は、もともと所得税の控除制度として用いられていた制度を使いやすく制度化したものです。今回の見直しはふるさと納税制度によるものだけであるため、全ての寄付控除に対する返礼品を対象にはしていません。
そして、ふるさと納税以外の寄付で返礼品を贈ってはいけない規制はありません。そもそも、返礼品を贈るかどうかは各自治体が自由に決められ、ふるさと納税であっても返礼品を贈る義務はありません。つまり、見直しに反発するように、ふるさと納税以外の方法での自治体への寄付によって特別な返礼品を用意する自治体が今後現れる可能性があります。
ただし、ふるさと納税とは違って所得税のみの控除になることや、確定申告の手間が増えること、返礼品があるといっていたのにもらえないなどリスクもあります。一概に全ての寄付がふるさと納税と同様の利便性になるとはいえません。
寄付や返礼品の情報、内容をよく精査しながら、ふるさと納税とどちらを使うのか考えましょう。
5-3.価格よりも思い出に価値を見出す
返礼品から寄付金額を考えてしまうと、どうしても元を取ろうとして還元率を重視してしまいます。そこで、販売価格よりも、特別な体験による思い出などを基準に返礼品を考えることも大切です。
例えば、還元率が3割以下であっても、現地でのスキューバダイビングなどの体験は、価格以上の価値を感じられます。さらに、旅行の中でさまざまな思い出ができれば、寄付金額以上の価値のある充実感を抱きます。
そのため、価格とは違ったベクトルの、新しい価値観をもってふるさと納税を活用するのが、新しい制度では重要となるでしょう。
5-4.ポータルサイトの還元を活用する
今回のふるさと納税制度の見直しは、あくまでも自治体側への規制が目的です。つまり、ポータルサイトなどが独自に行なっているポイントや商品券の還元は見直しの対象外となります。そこで、ポータルサイトを上手に活用することで、高い還元率を維持したままふるさと納税を活用できます。
ただ、ポータルサイトの高還元率も国は問題視しており、還元サービスが重要になるほど規制される可能性が高まります。今回の見直しの中では、アフィリエイトなどによる広告や集客にも触れていることから、ポータルサイトへの運営が厳しくなり還元が少なくなるとも考えられます。そのため、規制が強くなる前にポータルサイト還元サービスを活用しておくのが良いでしょう。
まとめ
ふるさと納税によって使いやすい商品券や高い還元率の返礼品はラインナップから消えてしまいます。納税者にとってお得さが低くなってしまうため改悪と思われるかもしれません。
しかし、私たちにが受ける控除の割合は変わらず、価格が安くても返礼品もこれまで通りもらえます。
また、ポータルサイトへの規制は見送られたため、活用次第でまだまだお得度は変わりません。
そのため、今後は返礼品の情報だけでなく、どこで寄付をするのがお得なのかを考えながら、申し込むことが大切になります。
見直し後の市場の変化を忘れずチェックして、あなたにとってお得な活用方法をじっくり考えて制度を活用していきましょう。