過年度の年末調整で会社のミスが! 影響と対応方法

書類 修正

この記事では、年末調整で会社側のミスがあった場合にどうのような影響があり、どういった対応が必要になるのか解説します。

1.過年度の年末調整で会社のミスがあった場合の影響と必要な対応

年末調整で会社がミスをした場合の影響

過年度の年末調整で会社のミスがあった場合の影響は次の2点です。

  • 従業員の納税額が本来よりも過少または過大になっている
  • 会社が税務署や市区町村へ提出する書類の再提出が必要となる

従業員の納税額が本来よりも過少または過大になっている

1点目について、年収2,000万円以下の給与所得者の場合は原則として所得税の確定申告を行う必要がないことから、年末調整が間違っている場合は従業員が会社を経由して納付した税額(所得税と住民税)が本来よりも過少あるいは過大になってしまいます(従業員が確定申告をして、正しい税額が書かれた申告書を提出している場合はこの限りではありません)。

会社が税務署や市区町村へ提出する書類の再提出が必要となる

2点目について、会社は年末調整の書類を会社の本店または主たる事務所を所轄する税務署と従業員が住民票を置いている住所の市区町村に提出する必要があります。会社のミスによって年末調整の書類を訂正する必要がある場合は、税務署及び市区町村が指定する方法で再度書類を提出する必要が生じます。

税務署に対しては、次の4つの書類を提出することになります。具体的な流れについては、税務署に電話して相談するとよいでしょう。

  • 無効にしたい分が記載された税務署に提出済みの給与所得の源泉徴収票の写し(提出控えを保管している場合は、その控えの右上余白部分に「無効」を赤書きして提出します)
  • 正しい金額を記載した給与所得の源泉徴収票(右上余白部分に「訂正」を赤書きして提出します)
  • 無効にしたい分が記載された給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表(「調書の提出区分」の欄に、無効であることを示す「4」を記入します)
  • 正しい金額が記載された給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表(「調書の提出区分」の欄に、訂正であることを示す「3」を記入します)

出典:国税庁ホームぺージ

また、従業員の住民票住所がある市区町村へ提出する書類は自治体によって異なります。たとえば、さいたま市の場合は一般的に下記の書類が必要です。

  • 給与支払報告書(総括表)
  • 給与支払報告書(個人別明細書)(受給者1名につき1枚)

出典:さいたま市ホームページ

必要な書類や手続きは自治体によって異なりますので、年末調整のミスが判明した時点で自治体の税務担当部門へ連絡することをおすすめします。

定額減税を受けられない、または、間違って減税される

令和6年に年末調整に限っては、年末調整のミスで、所得税3万円の定額減税を受けられないことも起こり得ます。逆に、間違って余分に減税されてしまうこともあるでしょう。

いずれにしても影響が大きいですので、会社が正しい書類を最提出する必要があります。

2.還付がある場合の対応

たとえば生命保険料控除を年末調整に含めることを会社側が忘れていたなどの理由で、従業員の税金が本来よりも過大になっていた場合は、従業員が税務署に対して税額の訂正を求める手続き(これを「更正の請求」といいます)を行うことになります。

会社のミスであっても、追徴課税がある場合とは異なり、従業員が税務署に更正の請求を行う必要がある点にご注意ください。

なお、更正の請求を税務署に行うと、その内容が従業員の居住する市区町村へ数か月後に連携されるため、従業員が市区町村へ個人住民税の更正の請求を行う必要はありません。

更正の請求以外の方法として、公的な方法ではありませんが、会社から従業員へ会社のミスによる還付金額に相当する金額を給与などと一緒に支払う方法もあります。ただし、会社の負担になってしまうので、特段の理由がなければ従業員に更正の請求をしてもらいましょう。

3.追徴課税がある場合の対応

会社が行った年末調整に誤りがあり、本来よりも過少な金額しか税務署へ納付していない場合は、税務署から会社宛てに誤りがある旨の連絡が届きます。

この連絡が届いた場合、会社の年末調整が正しくなかったということなので、会社側が年末調整の書類を再提出するとともに、追徴税額を支払う必要があります。

この場合、会社側が罰則(不納付加算税と延滞税)を負うのが原則ですが、過少な金額しか納付できなかったことについて会社側に正当な理由があれば罰則は課されません。

「正当な理由」が何かについては、「源泉所得税及び復興特別所得税の不納付加算税の取扱いについて(事務運営指針)」に記載されています。たとえば、従業員側が巧妙な手口で虚偽の情報を会社側に提供したなど、会社側が通常程度の注意ないし確認を行ってもこれを見抜くことが困難である事情があったことにより、扶養控除、配偶者控除、各種保険料控除の金額が正しくなかった場合がこれに該当すると考えられます。

出典:源泉所得税及び復興特別所得税の不納付加算税の取扱いについて(事務運営指針)

なお、不納付加算税の額を計算した結果5,000円未満となった場合は、国税通則法の定めによって全額が切り捨てられるため、結果として追徴税額は0円となります。

会社が納付した追徴課税分については、その後、会社から当該従業員へ請求するのが一般的な流れです。請求の方法としては、直後に支給する給与から天引きする方法が通常取られますが、追徴課税分のみを会社の口座に振り込むよう従業員に依頼する方法でも問題ありません。

4.6年以上前の年末調整で会社のミスが発生していたら?

概ね5年以内の分の年末調整であればここまで説明してきた方法で対処することが可能ですが、それより前の税金については更正の請求をできる権利がなくなってしまいます。

そのため、更正の請求をすることによって納めすぎた税金の還付を受けることはできません。このようなケースでは、会社と従業員の話し合いによって解決するしかありません。会社側に明らかな落ち度があれば、納めすぎていた税金相当額を会社側の負担で従業員に支給することも考えられます。

一方、税金に係る課税庁側の徴収権も原則として法定申告期限から5年を超えると消滅するため、それより前の税金について納付が過少であることに気づいたとしても修正申告を行う必要はありません。もっとも、年末調整の誤りについては市区町村から税務署へ情報が共有される仕組みになっていることから、納付が過少である状態が5年を超えて放置されるというケースはほとんどないでしょう。

服部
監修
服部 貞昭(はっとり さだあき)
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を2000本以上、執筆・監修。
「マネー現代」にも寄稿している。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
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