給与年収に関する統計データまとめ
給与年収に関する統計データには、いくつかの種類があります。
厚生労働省作成の「賃金構造基本統計調査」は、給与に関して、年齢別/都道府県別/産業別/企業規模別など様々な区分で集計されているため、給与水準の比較などに最も頻繁に利用されるものです。
また、同じく厚生労働省作成の「毎月勤労統計調査」は、給与・労働時間・雇用状況に関するデータが毎月公表されるため、速報性があり、リアルタイムに雇用情勢を判断するのに適しています。
このように、異なる用途やフォーマットのデータがいくつかありますので、それらをまとめて紹介します。
目次
1.給与関連の統計データ
ここでは、最も多く利用されると思われる、給与関連の4つの統計データを紹介します。
統計調査名 | 実施機関 | 頻度 |
---|---|---|
賃金構造基本統計調査 | 厚生労働省 | 毎年 |
毎月勤労統計調査 | 厚生労働省 | 毎月 |
賃金事情等総合調査 | 中央労働委員会 | 毎年 |
中小企業の賃金事情 | 東京都産業労働局 | 毎年 |
(1)賃金構造基本統計調査
給与水準の比較などに最も頻繁に利用されます。
年齢階級(5歳)ごとに、所定内給与、月例給与(時間外手当を含む)、賞与(前年の実績)などが表示されています。
都道府県別、産業別、企業規模別、学歴別、雇用形態別、性別、役職別など様々な区分で集計されているため、分析に適したデータが入手可能です。
【入手先】厚生労働省:賃金構造基本統計調査
例えば、東京都/情報通信業/従業員数50人の30~34歳の大卒の従業員の平均給与・賞与の金額を知りたいという、かなり細かい要求に対するデータが入手可能です。
区分詳細
年齢 | 20~69歳まで5歳ごと |
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都道府県別 | 47都道府県 |
産業別 | 日本標準産業分類に基づく16大産業 |
企業規模 | 大企業(1000人以上)、中企業(100~999人)、小企業(10~99人) ()内は常用労働者の数 |
学歴 | 大学・大学院卒、高専・短大卒、高校卒 |
雇用形態 | 正社員・正職員、正社員・正職員以外 |
就業形態 | 一般労働者、短時間労働者 |
役職 | 部長級、課長級、係長級、非役職者 |
利用上の注意点
所定内給与額には通勤手当を含みます。交替手当は含みません。
調査対象は常用労働者5人以上の事業所ですが、公表されているデータは、10人以上の事業所に対するものです。
(2)毎月勤労統計調査
給与、労働時間、雇用の変動をとらえることを目的としています。事業所規模5人以上の事業所が対象です。
毎月、調査が行われており、翌々月に結果が公表されるため、速報性があります。変動をとらえやすくするために、指数でも表示されています。
ただし、年齢別や職種別に区分されていないため、構造的な分析には不向きです。
【入手先】厚生労働省:毎月勤労統計調査
例えば、2月の全国の賃金は、前年比でどう変化したのか知りたいといったときに有効です。
区分詳細
産業別 | 日本標準産業分類に基づく16大産業 |
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就業形態 | 一般労働者、パートタイム労働者 |
利用上の注意点
数値の基本的な前提は、「賃金構造基本統計調査」と同じですが、事業所規模5人以上の全体データであることが異なります。
(3)賃金事情等総合調査
労働争議を解決するための参考情報を収集することを目的としています。
大企業(資本金5億円以上・従業員1000人以上)が調査対象、モデル給与も公表。
隔年でモデル退職金のデータも公表しています。
【入手先】中央労働委員会:賃金事情等総合調査
一般的にはあまり利用されず、どちらかというと、大企業の人事部または労働組合が給与ベースアップの争議を行う際の指標となるものです。
区分詳細
産業 | 全体、製造業 |
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職種 | 情報処理系、事務・法律系、技能労働系、その他の資格 |
利用上の注意点
モデル給与には、通勤手当と交替手当は含まれません。
(4)中小企業の賃金事情
東京都内中小企業が対象。製造業や建設業は従業員300人未満、商業やサービス業は従業員100人未満。
初任給、モデル給与のデータなどが掲載されています。
隔年でモデル退職金のデータも公表しています。
ただし、PDF形式のみで、Excelデータはありませんので、自社データとの照合には不向きです。
【入手先】東京都産業労働局:中小企業の賃金事情
東京都の中小企業が、同じ産業の他の中小企業と比較したいときに有効です。
対象企業規模
産業によって異なります。
従業員 30~299人 |
建設業、製造業、情報通信業、運輸業、郵便業、金融業、保険業、不動産業、物品賃貸業 |
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従業員 10~99人 |
卸売業、小売業、学術研究、専門・技術サービス業、宿泊業、飲食サービス業、生活関連サービス業、娯楽業、教育・学習支援行、医療・福祉業、他のサービス業 |
区分詳細
労働者 | 役付者、役付者を除く常用労働者、常用労働者以外の労働者 |
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職種 | 営業販売系、事務系、技術系、生産系 |
年齢 | 18~19歳、20~21歳、22~24歳、25~59歳までは5歳ごと、60歳以上 |
学歴 | 高校卒、高専・短大卒、専門学校卒、大学卒 |
利用上の注意点
年間給与支払額には通勤手当は含まれません。
2.データ利用上の注意点
(1)統計データにより調査対象・区分が異なる
給与に関する4つの統計データを紹介しましたが、それぞれ、調査対象も区分方法も異なっており、それぞれを比較することは難しいです。
同じ厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」と「毎月勤労統計調査」でも、対象となる従業員の規模や区分が異なります。
厚生労働省のウェブサイトを見ますと、「調査目的が違い、作成される統計が異なっているため、用途に応じて使い分けます」と説明されています。
【参考】厚生労働省:賃金構造基本統計調査と毎月勤労統計調査の相違について
複数の統計データを比較することは困難ですので、それぞれ単体で利用することが望ましいです。
自社データとの比較
自社の給与規定を作成・見直しなどする際には、自社データと比較する必要があるでしょう。ただ、統計データと自社データのフォーマットは異なっていますので、やり方としては、
- 統計データに合わせて、自社データを編集する。
- 逆に、統計データを自社データに合わせて編集する。
のどちらかが考えられます。
たとえば、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」を利用するのであれば、通勤手当を含んでいますので、自社のデータでも通勤手当を含めた状態で比較が必要です。
注:厚生労働省としては、「通勤手当」は必ず支給が必要な手当ではなく、給与の性質を持っている(所得税は非課税)と判断しているため、含めていると思われます。しかし、一般的な企業では、通勤手当は必要なものとして、本人の年齢・評定とは関係なく支給していることが多いです。
東京都の中小企業で、通勤手当を含まない状態で比較したいということであれば、「中小企業の賃金事情」が利用できます。
こちらは全体データには、通勤手当がいくらかを明記していますので、通勤手当を含まない値を算出できます。
ただし、厚生労働省のデータとは、企業の規模数や調査対象企業は異なりますので、単純に比較することは難しいです。
また、東京都/情報通信業/従業員数50人に絞り込んだデータをほしい場合、厚生労働省のサイトではなく、後述する「e-Stat:政府統計の総合窓口」でダウンロードする必要があります。
(2)フォーマットが異なる
たいていの統計データでは、ExcelまたはCSV形式で、データが提供されていますので、Excel等で編集することができます。
ただ、それぞれのフォーマットがだいぶ異なるため、Excel上で列や行を切り貼りする作業が生じてきます。
たとえば、賃金の数字の単位が千円なのか/円なのかでも違いますし、大企業/中企業/小企業の区分が列方向に並べられているシートもあれば縦方向に並べられているシートもあります。
このような細かい違いを吸収するためには、どうしても人手による作業が必要になってきます。
昨今は、RPAによる作業自動化も流行ですが、初めては人手による登録作業が必要でしょう。突然、フォーマット変更などがあると、やはり人手が必要になります。
(3)ダウンロードが大変
これらの統計データは、それぞれの公共機関ごとにWEBサイトを作成し、データを置いていますので、いろいろなページを閲覧してデータをダウンロードしてくる必要があります。
「表1」としか記載されておらず、中身を見ないとよくわからない場合もありますので、いくつか見てどれが自分がほしいデータか判断する必要があります。
いちおう、これらのデータをまとめたものとして「e-Stat:政府統計の総合窓口」というサイトがあり、公共機関が発表しているほぼすべての統計データが揃っています。
ただ、問題なのは、探しづらいという点です。
たとえば、「ファイルから探す」を選び「賃金構造基本統計調査」と入力して検索すると、全年度のリンクがリストで膨大に表示されます。初めて検索したときには、あまりにも多く表示されて面食らいますが、全年度が表示されていることが理解できれば、次に進めます。
ちなみに「データベースから探す」を選んで「賃金構造基本統計調査」と入力して検索すると、平成22年のデータとか古いものしか表示されないという謎の状態になります。よく見ると、「-」という項目があり、ここをクリックすると、最新のデータがあることがわかります。