「生計を一にする」「生計が同一」「生計を維持」の違い
税金や年金・社会保険の手続きでは、よく「生計を一にする」「生計が同一」「生計を維持」という表現が登場します。一見すると同じような意味に見えますが、それぞれ適用される法律や運用上の条件が異なります。
これらの用語の違いをわかりやすく整理します。
目次
1.税金と年金・社会保険の用語
「生計を一にする」は税金に関する用語です。「せいけいをいつにする」と読みます。一般ではあまり利用されない用語ですので、本サイトでは、「生計を一つにする」「生計を共にする」と表現しています。
「生計が同一」「生計を維持」は年金・社会保険に関する用語です。「生計が同一」よりも「生計を維持」のほうが厳しい条件となります。
税金の「生計を一にする」と年金・社会保険の「生計が同一」は似ていますが、対象がやや異なります。また、年金・社会保険の「生計が同一」のほうが、証明書類が必要であったりして認定が厳しめです。
2.税金の「生計を一にする」とは?
税金の「生計を一にする」とは、法律上の親族(配偶者、6親等内の血族、3親等内の姻族)と同じ財布を共有して生活していることを指します。
まず、基本的には、同居していれば「生計を一にする」になります。配偶者や子、親、兄弟姉妹などと同居している場合はもちろん、配偶者の父母や兄弟姉妹も含まれます。
別居していても生活費を仕送りしていれば、「生計を一にする」に該当します。
ただし、あくまで法律婚が前提となり、内縁関係(事実婚)の配偶者は「生計を一にする」の対象外です。
どんな場合に利用する?
「生計を一にする」が登場する典型例は、所得税の医療費控除です。医療費控除では自分だけでなく家族の分の医療費も対象になりますが、その際に対象になるのは「生計を一にする」家族です。
「生計を一にする」を証明する必要書類
年末調整や確定申告で、「生計を一にする」を証明する書類は特に必要ありません。ただし、海外に住んでいる家族の場合は、親族関係書類および送金関係書類の提出や提示が必要となります。
▷扶養とは関係ない
勘違いされやすいポイントですが、「生計を一にする」は「扶養」とは関係ありません。
「扶養」「扶養家族」の条件は、その扶養される親族の年収が103万円以下(所得48万円以下)の場合ですが、「生計を一にする」には収入(所得)の条件はありません。
たとえ年収1000万円の社会人の子どもでも、同居していれば「生計を一にする」ことになります。
3.年金・社会保険の「生計が同一」とは?
年金・社会保険の「生計が同一」とは、税金の「生計を一にする」と同じく、同じ財布を共有して生活している状態を指しますが、こちらは内縁関係でも認められます。
同居していれば基本的に「生計が同一」として取り扱われます。同居していることは住民票で確認できます。
別居している場合は、たとえば健康保険の被扶養者になっている、税法上の扶養親族になっている、定期的に仕送りをしているなどの事実をもって「生計が同一」であると判断されます。
どんな場合に利用する?
「生計が同一」だけが単体の条件となる例はあまり多くないのですが、一部をあげるとするなら、家族が亡くなったとき、生計が同一であった家族が死亡一時金や未支給年金をもらうことができます。
「生計が同一」を証明する必要書類
「生計が同一」を証明するためには、「生計同一関係に関する申立書」に記載するとともに、次のようなものを生計同一関係を証明する書類として提出します。
- 健康保険等の被扶養者になっている場合:健康保険証の写し
- 税法上の扶養親族になっている場合:源泉徴収票または課税台帳等の写し
- 定期的に送金がある場合:預金通帳、振込明細書または、現金書留封筒等の写し
- 単身赴任よる別居の場合:辞令の写し、出向命令の写し、単⾝赴任⼿当が分かる証明書の写しなど
- 就学による別居の場合:学⽣証の写し、在学証明書など
- 病気療養・介護による別居の場合:入院・入所証明、入院・入所に係る領収書等の写しなど
【参照】日本年金機構:生計同一関係・事実婚関係に関する申立をするとき
4.年金・社会保険の「生計を維持」とは?
年金・社会保険の「生計を維持」とは、「生計が同一」であることに加えて、相手の前年の年収が850万円未満(所得に換算すると655.5万円未満)であることを条件とします。
「維持」という言葉だけを見れば、生活を支える側にいることが必要なようにも思えますが、そうではありません。たとえば夫よりも妻の年収が高い場合でも、妻と同居していて年収が850万円未満であれば、妻は「生計を維持されている」として扱われます。
年収は基本的には前年の年収で判断しますが、おおよそ5年以内に定年退職や転職などの予定があり、近い将来に年収が大幅に下がる見込みがあるときは、下がった後の推定年収で判断されることもあります(障害基礎年金の子の加算を認定する場合は除きます)。一時的に受け取った生命保険金や不動産の売却益などは「年収」から除外されます。
どんな場合に利用する?
「生計を維持」が登場する例は、たとえば遺族年金です。家族の働き手が亡くなったとき、生計を維持されていた配偶者や子どもなどが、遺族基礎年金または遺族厚生年金をもらうことができます。
「生計を維持」を証明する必要書類
「生計を維持」を証明する必要書類は、源泉徴収票や課税証明書等の写しです。
5.「生計を一にする」「生計が同一」「生計を維持」の違いのまとめ
これらの用語の違いを簡単にまとめておきます。
同居 | 別居 | 内縁 | 収入条件 | ||
---|---|---|---|---|---|
生計を一にする | 税金 | ◯ | ◯ | ✕ | (なし) |
生計が同一 | 年金・社会保険 | ◯ | ◯ | ◯ | (なし) |
生計を維持 | ◯ | ◯ | ◯ | 年収850万円未満 (所得655.5万円未満) |
6.税金と年金・社会保険の考え方の違い
税金の「生計を一にする」と年金・社会保険の「生計が同一」はほぼ同じ考え方ですが、税金は法律上の親族に限定しており、年金・社会保険では内縁関係も認めている点が大きく異なります。
年金・社会保険では「生計が同一」という要件を満たしていれば、内縁関係でも扶養や遺族年金などの権利が生じる可能性がありますが、税金においては公平性の観点から法律婚のみが対象となります。
これは、もともと税金も年金・社会保険も法律上の親族を想定していましたが、遺族年金が受け取れないなど社会的配慮の必要性から、年金・社会保険では内縁関係も対象に含めるようになった経緯があります。
一方で税金の世界では、公平性の観点から、届出による正式な婚姻手続きが伴うことを重視しているため、内縁関係は含まれません。しかし、近年はさまざまな事情で事実婚を選択する夫婦が増えたこともあり、税金上でも内縁関係を対象にするべきかどうかが検討されているところです。