年金211万円の壁とは?65歳以上の夫婦世帯が住民税非課税に

211万円の壁

年金生活者の年収の壁として「211万円の壁」があります。似たものに「108万円の壁」「155万円の壁」「158万円の壁」もあります。
すべて、住民税非課税になるボーダーラインですが、年齢や家族構成によって異なります。

「211万円の壁」「155万円の壁」をはじめ、それぞれの壁はどんなものか? 違いをわかりやすく解説していきます。

1.211万円の壁・155万円の壁をグラフで体感

「211万円の壁」「155万円の壁」どちらも、年金生活者の年金収入がその金額を超えると、「手取りの金額が突然減る!」というものです。

グラフで体感してみましょう。

▷211万円の壁

65歳以上の夫婦2人世帯の壁です。年金収入を140万円から250万円まで1万円ずつ増やしてみます。

「211万円の壁」のケースでは、年金収入が211万円を超えて212万円になった途端に、手取り額が突然下がります。元の手取り額に回復するのは、年金収入が219万円のときです。

211万円の壁

▷155万円の壁

こちらは、65歳以上の単身(独身)世帯の壁です。

「155万円の壁」のケースでは、年金収入が155万円を超えて156万円になった途端に、手取り額が突然下がります。元の手取り額に回復するのは、年金収入が164万円のときです。

155万円の壁

※本人に他の収入がある場合や、住んでいる地域などによって、年収の壁の金額と回復する年金収入はやや異なります。

2.年金211万円の壁とは? 超えるとどうなる

「年金211万円の壁」「年金155万円の壁」をそれぞれ詳しくみていきましょう。どちらも住民税非課税になるボーダーラインですが、家族構成が異なります。

まずは一番有名な「211万円の壁」から説明します。

▷65歳以上の夫婦世帯が住民税非課税になるライン

「年金211万円の壁」とは、簡単にいうと、65歳以上の夫婦世帯が住民税非課税世帯になるボーダーラインです。

住民税が非課税になる所得のボーダーラインは、次の計算式です。

単身者(扶養家族がいない人):45万円
2人以上世帯(扶養家族がいる人):35万円×(本人と配偶者・扶養家族の合計人数)+31万円

妻が夫の扶養に入っているとすると、夫が住民税非課税になる所得は、

35万円×2人+31万円=101万円

です。
そして、妻は扶養家族がなく単身者と同じ扱いですので、夫が住民税非課税になる所得は45万円です。

あれ「211万円はどこに行ってしまったの?」と思うかもしれませんね。

▷年金収入から公的年金控除を引く

実は、上記の住民税非課税となる計算式は、「所得」についてのボーダーラインです。

年金収入には「公的年金控除」というものがあり、これを差し引いて「所得」を計算します。

年金収入-公的年金控除=雑所得(所得)

年金 雑所得

公的年金控除額は、年金収入によって違いますが、65歳以上で年金収入が330万未満の範囲であれば、一律で110万円です。

よって、住民税非課税となる年金収入を求めるには、逆の計算をしてあげればよいわけです。

夫:101万円+110万円=211万円
妻:45万円+110万円=155万円

ようやく「211万円」「155万円」という金額が登場しましたね。この金額が、住民税非課税となる年金収入のボーダーラインです。

夫婦2人とも住民税非課税になるとき、夫婦2人の世帯は「住民税非課税世帯」となり、住民税が非課税になるだけでなく、介護保険料が軽減されるなどの様々なメリットがあります。

▷年金211万円の壁を超えるとどうなる?

年金収入が211万円を超えたときの影響ですが、住民税がかかります。それだけなく、介護保険料が一気に増えます

年金収入が211万円から212万円に増えたとき、住民税は5,000円増えるだけですが、介護保険料を含めた社会保険料(※)が約6万円も増えますので、結果的に、手取り額は約5.5万円減ってしまいます。

年金収入 社会保険料 所得税 住民税 手取り額
2,110,000 159,962 0 0 1,950,038
2,120,000 220,511 0 5,000 1,894,489

壁を超える前の手取り額に回復するのは、年金収入が219万円以上のときです。

※2024年・新宿区の社会保険料・介護保険料で計算

3.年金155万円の壁とは? 超えたときの影響

次に「155万円の壁」です。

▷65歳以上の独身世帯、配偶者が住民税非課税になるライン

「年金155万円の壁」とは、簡単にいうと、65歳以上の独身世帯または、配偶者が住民税非課税になるボーダーラインです。

すでに上で紹介しましたが、1人だけの場合、住民税が非課税になる所得のボーダーラインはこちらです。

独身者、または扶養家族がいない人:45万円

こちらは所得のボーダーラインですので、年金収入はこのように計算します。

年金収入=所得+公的年金控除

公的年金控除額は、65歳以上で年金収入が330万未満の範囲であれば、一律で110万円ですので、

45万円+110万円=155万円

独身の方の場合は、年金収入155万円以下であれば、住民税非課税で、さらに介護保険料を安くなります。

夫婦2人世帯の場合は、収入が少ない配偶者の年金収入155万円以下であれば、住民税非課税世帯になり恩恵を受けられます。
もし、本人の年金収入が211万円以下でも、配偶者の年金収入が155万円を超えてしまうと、住民税非課税世帯にはなりません

▷年金155万円の壁を超えるとどうなる?

年金収入が155万円を超えたときの影響ですが、住民税がかかります。また、介護保険料が一気に増えます

年金収入が1551万円から156万円に増えたとき、住民税は5,000円増えるだけですが、介護保険料を含めた社会保険料(※)が約6万円増えますので、手取り額は5.5万円程度減ってしまいます。

年金収入 社会保険料 所得税 住民税 手取り額
1,550,000 41,778 0 0 1,508,222
1,560,000 110,247 0 5,000 1,444,753

壁を超える前の手取り額に回復するのは、年金収入が164万円以上のときです。

※2024年・新宿区の社会保険料・介護保険料で計算

4.64歳以下の年金の壁、105万円の壁・171万円の壁

ここまでは、65歳以上の年金生活者の方の話ですが、60~64歳の年金生活者は壁の金額が違います。

64歳以下の公的年金控除は、少し複雑で、年金収入によってこのようになります。

年金収入130万円以下:一律60万円
年金収入130万超~410万円以下:(年金収入)×75%-27.5万円

独身世帯の場合の、住民税非課税のボーダーラインはこちらです。

独身世帯:45万円+60万円=105万円

夫婦2人世帯の計算は、少しややこしいですが、所得が101万円以下になるような年金収入の金額を計算すると、1,713,333円です。
住民税非課税になるボーダーラインは、1,713,333円ですが、ややこしいので、切り上げて「171万円の壁」としておきましょう。年収が171万円以下なら非課税、172万円以上なら課税です。

5.年金の壁を表で整理

年金の年収の壁は、年齢、家族構成によっていくつか種類(金額)がありますので、表で整理しておきます。

  65歳未満 65歳以上
独身 105万円 155万円
夫婦2人世帯 171万円 211万円

6.地域によって異なる年金の壁

年金の壁は、実は、地域によって異なります。

「211万円の壁」「155万円の壁」は、都心部など「1級地」と呼ばれているエリアでの壁です。
ほかにも「2級地」「3級地」があり、壁の金額はもっと低くなります。

なぜなら、エリアによって、住民税非課税のボーダーラインが違うからです。

住民税には「均等割」「所得割」の2種類があり、「所得割」のボーダーラインは全国同じですが、「均等割」のボーダーラインはエリアによって違います

区分 均等割の所得のライン 市区町村の例
1級地 独身:45万円
世帯:35万円×(扶養人数+1)+31万円
東京都23区、大阪市、札幌市など
2級地 独身:41.5万円(※)
世帯:31.5万円(※)×(扶養人数+1)+28.9万円(※)
伊勢原市、奈良市、那覇市など
3級地 独身:38万円
世帯:28万円×(扶養人数+1)+26.8万円(※)
秩父市、阪南市、栃木市など

※1万円未満を四捨五入している自治体もあります。

2級地、3級地では、所得のボーダーラインが違うことで、年金収入のボーダーラインも次のようになります。

65歳以上の方の年金収入の壁
区分 独身 夫婦2人世帯
1級地 155万円 211万円
2級地 151.5万円 201.9万円(※)
3級地 148万円 192.8万円(※)

※住民税非課税のボーダーラインを四捨五入している自治体は金額が異なります。

お住まいの市区町村がどれにに当たるかは、Wikipediaの「級地制度」に詳しく記載されています。または、市区町村役場にお問い合わせください。

7.108万円の壁・158万円の壁との違い

年金で暮らす方の壁には、さまざまな壁があります。

「108万円の壁」「158万円の壁」は所得税の壁で、「103万円の壁」の年金生活者版です

  65歳未満 65歳以上
所得税の壁 108万円 158万円

この壁を超えると、次のような影響があります。

  • 所得税がかかる
  • 家族の扶養から外れる

前者の「所得税がかかる」の影響は少ないです。所得税の最低税率は5%ですので、公的年金の所得が1万円増えても、所得税は500円増えるだけです。

影響が大きいのは、後者の「家族の扶養から外れる」です。もし、子どもの扶養に入っている場合、壁を超えると、子どもが扶養控除を受けられなくなります。

たとえば、年齢70歳以上の父母2人が年収500万円の子どもの扶養に入っている場合、両方とも扶養から外れると、子どもの税金(所得税+住民税)が約13.5万円も増えます。

65歳以上の「158万円の壁」は、月額では約13.2万円です。これは、現役時代に年収が約350万円くらいだった人の水準です。それより少なければ、子どもの扶養に入れる可能性がありますので、検討してみるとよいでしょう。

ちなみに、配偶者の扶養に入っている場合は、配偶者控除がなくなっても同額の配偶者特別控除がありますので、年金収入がかなり多くない限り、ほとんど影響はありません。

8.180万円の壁との違い

「180万円の壁」は健康保険の壁で、「130万円の壁」の高齢者版です

60歳以上75歳未満の方が、「180万円の壁」を超えると、家族の健康保険の扶養から外れます
こちらは、年金だけで生活している人ではなく、会社に勤務して給料ももらっている人も対象です。

「180万円」は給料と年金の合計で計算します(所得ではなく実際にもらった額面金額で計算します)。

扶養から外れると、自分で社会保険または国民健康保険に加入しなければならなくなり、保険料が発生します。

服部
監修
服部 貞昭(はっとり さだあき)
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を2000本以上、執筆・監修。
「マネー現代」にも寄稿している。
エンジニアでもあり、賞与計算ツールなど各種ツールも開発。
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