LINE PayとPayPayの統合はありうるのか?

2019年11月18日、ヤフーとLINEが経営統合で基本合意したというニュースが報じられました。
どちらの企業も、日本でのインターネットサービスで大きなシェアを占めており、両社の統合には大きなインパクトがあります。
仮に2つのサービスが統合されるとなると、キャッシュレス業界にも大きな影響をもたらします。
現在のスマホQRコード決済の現状と、仮に統合された場合の影響について、解説していきます。
目次
1.スマホQRコード決済の現状
スマホのQRコード決済は各社からの参入が相次いでおり、まさにQRコード決済戦国時代ともいえる状況です。ここでは様々なデータを元にスマホQRコード決済の現状を読み解いていきます。
1-1.ユーザー数・加盟店数の比較
まずスマホ決済の普及率ですが、MMD研究所が、18歳~69歳の男女37,040人を対象に調査した「2019年9月 スマートフォン決済に関する実態調査」によりますと、普段の支払い方法でスマホ決済を利用する方の比率は16.4%となっています。この比率は同調査の現金90.5%やクレジットカード71.3%に比べると低く、スマホ決済の普及はまだまだこれからであることが伺えます。
【引用】MMD研究所:2019年9月 スマートフォン決済に関する実態調査
さらにそれそれのアプリをユーザー数と利用可能な加盟店数で比較します。
アプリ名 | ユーザー数 |
---|---|
LINE Pay | 3,690万人 |
PayPay | 2,000万人 |
d払い | 1,000万人 |
auペイ | 700万人 |
メルペイ | 500万人 |
楽天ペイ | 非公開 |
【引用】日本経済新聞:キャッシュレス決済激戦 QR、交通系に攻勢
【引用】日本経済新聞:孫正義氏、1億人総取りに先手 ヤフーとLINE統合
1位はLINE Payで3,690万人でダントツです。次いでPayPayの1,500万人となります。ユーザー数は非公開ですが楽天Pay、楽天ポイントの会員数が1億人を超えていることを考えると上位となるでしょう。
現状はLINE Pay、PayPay、楽天Payの3強となっています。
次に利用できる加盟店の数で比較します。
アプリ名 | 加盟店数 | 備考 |
---|---|---|
楽天ペイ | 300万カ所 | 楽天カード、Edy含む。 店舗数と端末台数の混在の数値 |
メルペイ | 175万店 | iD含む |
LINEPay | 171万カ所※ | 端末台数、QUICPay含む |
PayPay | 150万店 | |
au Pay | 100万カ所※ | 端末台数 |
d払い | 16万店 |
加盟店の数では、トップは楽天Payが300万カ所で利用可能となっています。
次いでメルペイの175万店、LINEPayの171万カ所、PayPayの150万店と続き、楽天Payが頭一つ抜けています。
参考として各社のポイントサービスの経済圏の会員数を掲載します。
サービス名 | 会員数 |
---|---|
楽天スーパーポイント | 1億人超 |
Ponta | 9,225万人 |
Tポイント | 6,989万人 |
LINEポイント | 4,117万人 |
dポイント | 3,835万人 |
auウォレットポイント | 3,300万人 |
1-2.ユーザー数増加でも赤字
スマホQRコード決済を展開する各社はユーザー数獲得、加盟店獲得のために人件費・広告費などを多く投入しています。
そのため体力勝負の様相ともなっていますが、経済産業省によるキャッシュレス推進事業の支援もあり、キャッシュレス決済は急激に増加しています。
株式会社マネーフォワードの「キャッシュレス決済利用実態調査」によりますと2019年10月の個人のキャッシュレス決済利用回数が、昨年同月と比較して20%増加していることが見て取れます。
【引用】増税から1ヶ月「キャッシュレス決済利用実態調査」を発表|株式会社マネーフォワード
一方、各社ともユーザー獲得のために還元キャンペーンを繰り返しており、経費がかさんで収益が赤字となっているところがほとんどです。
LINEの2019年4~6月期の決算ではLINE Payのマーケティング費用に97億円を投じており、営業赤字が続いていたため、広告戦略の修正を迫られています。
PayPayの2019年3月期の決算は売上高が約6億円に対してマーケティング費用など販管費が約372億円とこちらも大きな赤字を計上しています。
【引用】ヤフー(Zホールディングス) 2019年3月期有価証券報告書123pより
もちろんこのようなITサービスの企業ではサービス開始の初期は赤字が続くので、単年の赤字よりは将来の収益の源泉となるユーザー数や決済金額の伸びが大切になります。
そのため、現在はキャッシュレス戦国時代ともいえる状況ですが、やがて何社かに収斂することも考えられるため、各社とも赤字でも勝負所という状況になっています。
2.LINE PayとPayPayの統合による影響
今回のLINEとヤフーの経営統合により、アプリのLINE PayとPayPayの統合も現実味を帯びてきました。実際に統合した場合の影響について考えてみます。
2-1.圧倒的な一強に躍り出る
LINE Pay、PayPayのユーザーや加盟店は重複も多いのですが、それでも両者合わせると登録者数は、約5,700万人と非常に大きな規模となります。比較的若年層スマホユーザーの多いLINEと、PCサイト検索国内トップのヤフー陣営の合併であることを考えると、QRコード決済分野では、他のキャッシュレス決済に比べて圧倒的な一強となることは間違いありません。
楽天ペイは楽天ID会員数で見ると1億人と多いですが、ペイ自体の利用率は他に劣っています。その他のサービスも、現時点でLINE Pay、PayPayと比較して会員数で劣っています。
2-2.加盟店獲得競争でも圧倒
LINE Payは、全国60社以上の営業代理店を活用し、営業の人海戦術で中小店舗をまわり、加盟店を獲得しています。2019年10月から始まったキャッシュレス・ポイント還元制度の少し前には、各エリア別の営業担当が飛び込みで中小店舗を訪問し、契約後の設置のサポートまで行いながら、加盟店数を伸ばしていました。
PayPayもまたソフトバンクグループのネットワークを生かし、全国20社以上の拠点に数千人の人員を配置して同様の営業活動を行っています。また、他社と比較しても、大量の広告費を投入しています。PayPay株式会社は、もともと、ソフトバンク株式会社とヤフー株式会社の合弁によって設立された企業ということもあり、インターネット広告を得意としています。ブロガーの収入源であるアフィリエイト広告では、一時期、QRコード決済分野でPayPayがほぼ独占状態となっていました。また、消費者向けには大々的にテレビCMでアピールを図っています。
さらに、LINE Pay、PayPayともに期間限定で加盟店の初期費用や決済手数料をゼロに抑えるなどの施策を行っています。
(決済手数料について、LINE Payは2021年7月末まで無料、PayPayは2021年9月末まで無料)
他のサービスでは、決済手数料が2.16%(キャッシュレス・消費者還元事業終了後は3.24%)程度であることを考えると、店舗側には大きなメリットとなります。
これらの営業力を誇る両者の統合は、さらなる競争力の強化につながります。そうなると楽天ペイや他の大手キャッシュレス以外は、QRコード決済分野では生き残れないのではないでしょうか?
2-3.QRコード統一にも一石を投じるか
LINE Payは、メルペイ・NTTドコモ・KDDIと共同で、加盟店の共同開拓やQRコードの共通化を行うアライアンス「Mobile Payment Alliance(MoPA)」を組んでいます。
ここにPayPayが加われば、国内のキャッシュレスアプリのQRコード統一も現実味を帯びてくるでしょう。総務省などが主導している統一 QRコードの規格である「JPQR」にはすでに LINEPay とPayPay は加盟しているため、今回の動きは QRコード統一を後押ししそうです。
2-4.2台陣営に集約される可能性もあり
統一QRコードのプロジェクトにおいて、LINE Payは、メルカリのメルペイ、NTTドコモのd払い、KDDIのau Payと連携していますが、ソフトバンクグループであるヤフーと統合するのであれば、NTTドコモとKDDIは関係を見直す可能性があります。
KDDIのau Payは、すでに楽天ペイと連携しており、楽天ペイの対象加盟店でau Payも利用できるようになっています。そうなると、ユーザー数・加盟店数で劣るNTTドコモのd払いも、楽天ペイ・au Payと連携を検討する可能性もあります。
最終的に、前者のLINE・ソフトバンク陣営と、後者のNTTドコモ・KDDI・楽天の2大陣営に集約されていく可能性もあります。
3.SNS、金融、メディア等、他分野でも統合
LINE Pay、PayPayの統合の影響は単純にキャッシュレス決済にとどまりません。
LINEは国内ですでにSNSツールとして圧倒的なシェアを誇っているほか、金融分野ではみずほフィナンシャルグループと新たなスマホ銀行を展開するため共同子会社を設立しています。
証券分野では野村ホールディングスと「LINE 証券」を展開しています。ほか、「LINEほけん」「LINEスマート投資」「BITMAX」など比較的、小額から始められる金融商品もLINEアプリで利用できます。LINEニュースも若い人に一定の需要があります。
一方ヤフーは傘下にジャパンネット銀行を持ち、SBIホールディングスとも包括提携しています。今後統合により勢力図が変わっていく可能性もありますが、お互いがリーチ出来なかったユーザーへ新たな金融サービスの提供が可能となるでしょう。
ヤフーとLINEのユーザーが各分野で利用できる主なサービスは以下の通りです。
分野 | ヤフー | LINE |
---|---|---|
携帯 | ワイモバイル | LINEモバイル |
スマホ決済 | PayPay | LINEPay |
EC | ヤフーショッピング、 ヤフオクなど |
LINEショッピングなど |
金融 | ジャパンネット銀行、 ヤフーカードなど |
LINE証券、LINEクレジット |
SNS | LINE | |
メディア | ヤフーニュース、 バズフィードジャパン |
LINEニュース |
コンテンツ | GyaO!、 イーブックジャパン |
LINEゲーム、 LINEマンガなど |
【引用】日本経済新聞:孫正義氏、1億人総取りに先手 ヤフーとLINE統合
例えばヤフーの防災アプリ情報をLINEユーザーに配信したり、PayPayモールでのキャンペーンなどをLINEのユーザーに提供したり、ヤフーのユーザーにLINEマンガやLINEゲームのコンテンツを配信するなどの新たな展開は無数に考えられます。
今後は一つのアプリで、生活に必要なあらゆることができる「スーパーアプリ」が登場することになるのでしょうか。
4.世界に追いつけるのか?
今回のヤフーとLINE経営統合の目的は、米国のGAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)や中国のBAT(Baidu, Alibaba, Tencent)などの巨大IT企業を追うことにありますが、今回の統合で世界に追いつけるのでしょうか?
SNSの月間ユーザー数で見ると米国のフェイスブックが23.2億人と圧倒的です。
これを追って中国の代表的なSNSのWeChatとWeiboの合計月間ユーザー数が15.5億人となっています。
一方、日本のLINEは国内でメッセンジャーNo.1のシェアを誇るとはいえ月間ユーザー数は1.6億人と桁が一つ違います。
【引用】日経ビジネス:データで見るBAT(2)巨大な市場追い風にGAFA追う
日本は人口減で将来どんなに頑張ってもユーザー数1億人程度で頭打ちとなります。対して、米中巨大IT企業は数十億人規模のビジネスを展開しています。
そこでまずはアジア圏での地位を確立していく必要があるが、現状はどうでしょうか?
アジアでのアクティブSNS利用者数はおよそ20億人です。LINEの主要4カ国(日本、台湾、タイ、インドネシア)での月間アクティブユーザー数は約1.6億人です。
LINEは台湾とタイにおいては知名度も高くシェアも高いのですが、アジア全体で見るとシェアがそこまで高いわけではありません。人口大国の中国とインドでほぼシェアがないことも影響しています。
また、ヤフージャパンはYahooブランドを米国ベライゾンメディアから借り受けているため現状では海外展開をすることができません。
アジアでの地位を確立するためには、LINEの知名度の高いタイ・台湾を足がかりにソフトバンク・ヤフーのリソースを活用して東南アジアなどでシェアを広げていく戦略が求められそうです。
【参考】DATA REPORTAL - GLOBAL DIGITAL Overviewスライド16
【参考】LINE 決算説明資料 2019年12月期 第三四半期 3P
まとめ
LINE PayとPayPayは国内ではユーザー数、加盟店数で両者ともトップクラスです。キャッシュレス決済事業者はユーザー獲得のために広告費などを投じて消耗戦を繰り広げています。
そのような中、今回のLINEとヤフーの経営統合は大きなニュースです。LINE PayとPayPayが統合して新たなキャッシュレスアプリが誕生することも考えられ、他のQR決済サービス業者には脅威となるでしょう。
ただし、欧米のGAFAや中国のBATなどの巨大IT企業と比べると小規模であり、今後の成長のためには人口減の国内だけでなくアジアでのシェア拡大などの戦略が求められるでしょう。